入居者の募集を行うには、宅地建物取引業法(宅建業法)による宅地建物取引業の免許が必要です。また、免許を有する管理業者が募集広告を行うに際しては宅地建物取引業法の規律(ルール)に従わなければなりません。そのため、ここでは、宅建業法等に関する広告制限について解説していきます。
宅建業法に関する広告規制
宅地建物取引業者が募集広告を作成する場合、その広告が宅地建物取引業法で定める誇大広告等の禁止の規定(宅建業法32条)に違反しないようにする必要があります。
また、募集にあたり、下記の行為も宅建業法により禁止されています。
- 重要な事項について、故意に事実を告げず、又は不実(本当ではないこと)を告げること(宅建業法47条)
- 契約の申込みのため、または借受希望者が一度申し込んだ事実の撤回、若しくはその解除を妨げるため、借受希望者を脅迫すること(宅建業法47条の2第2項)
- 将来の環境又は交通その他の利便について、借受希望者が誤解するような断定的判断を提供すること(宅建業法47条、宅建業法48条1項)
例えば、「絶対に建物南側に高い建物は建たないので、日当たりはずっと良好です」と伝えることは違反です。
宅地建物取引業者の行為が宅地建物取引業法に違反する場合、宅建業法による指示処分や業務停止処分を受けます。さらに、免許取消処分の対象となることがあります(宅建業法65条、第66条)。また、これら処分以外にも懲役や罰金等の罰則も設けられています(宅建業法79条以下)。
上記は宅建業法による制限ですが、それ以外に、宅地建物取引業者が公益社団法人首都圏不動産公正取引協議会等の公正取引協議会の構成団体に所属する場合、不当景品類及び不当表示防止法31条1項の規定に基づき作成された「不動産の表示に関する公正競争規約」に従い、募集広告を作成する必要があります。この規約は、「広告表示の開始時期の制限」、「必要な表示事項」、「特定事項等の明示義務」、「表示基準」、「特定用語等の使用基準」、「不当表示の禁止」等を定め、不動産業における不当な顧客の誘引(誘い込み)を防止し、そのことによって公正な競争を確保することを目的としています(規約1条)。規約に反した場合、公正取引協議会は、当該違反行為を排除するための必要な措置を直ちに探るべきこと等を警告するほか、違約金を課すことができます(規約27条)。
規約には、広告において表示すべき事項の表現についても定められています。規約等における広告表示の規律の例は次のとおりである。
表示規約、表示規則に基づく用語の定義
表示規約とは、「不動産の表示に関する公正競争規約」を指し、表示規則とは、「不動産の表示に関する公正競争規約施行規則」を指します。
建物の表示
- 新築
- 建築後1年未満であって、居住の用に供されたことがないもの(表示規約18条1項(1))
- 新築住宅
- 建物の構造及び設備ともに独立した新築の一棟の住宅(表示規則3条(6))
- 中古住宅
- 建築後1年以上経過し、又は居住の用に供されたことがある一戸建て住宅であって、売買するもの(表示規則3条(7))
- マンション
- 鉄筋コンクリート造りその他堅固な建物であって、一棟の建物が、共用部分を除き、構造上、数個の部分(以下「住戸」という。)に区画され、各部分がそれぞれ独立して居住の用に供されるもの(表示規則3条(8))
- 中古マンション
- 建築後1年以上経過し、又は居住の用に供されたことがあるマンションであって、住戸ごとに、売買するもの(表示規則3条(10))
- 一棟リノベーションマンション
- 共同住宅等の1棟の建物全体(内装、外装を含む。)を改装又は改修し、マンションとして住戸ごとに取引するものであって、当該工事完了前のもの、若しくは当該工事完了後1年未満のもので、かつ、当該工事完了後居住の用に供されていないもの(表示規則3条(11))
- 新築賃貸マンション
- 新築のマンションであって、住戸ごとに、賃貸するもの(表示規則3条(12))
- 中古賃貸マンション
- 建築後1年以上経過し、又は居住の用に供されたことがあるマンションであって、住戸ごとに、賃貸するもの(表示規則3条(13))
- 貸家
- 一戸建て住宅であって、賃貸するもの(表示規則3条(14))
- 新築賃貸アパート
- マンション以外の新築の建物の一部であって、住戸ごとに、賃貸するもの(表示規則3条(15))
- 中古賃貸アパート
- マンション以外の建物であり、建築後1年以上経過し、又は居住の用に供されたことがある建物の一部であって、又は居住の用に供されたことがある建物であって、住戸ごとに、賃貸するもの(表示規則3条(16))
- 一棟売りマンション・アパート
- マンション又はアパートであって、その建物を一括して売買するもの(表示規則3条(17))
- 小規模団地
- 販売区画数又は販売戸数が2以上10未満のもの(表示規則3条(18))
- 共有制リゾートクラブ会員権
- 主として会員が利用する目的で宿泊施設等のリゾート施設の全部又は一部の所有権を共有するもの(表示規則3条(19))
部屋の用途の表示
- ダイニング・キッチン(DK)
- 台所と食堂の機能が1室に併存している部屋をいい、住宅(マンションにあっては、住戸。次号において同じ。)の居室(寝室)数に応じ、その用途に従って使用するために必要な広さ、形状及び機能を有するもの(表示規約18条1項(3))。例えば、2DKの場合、2つの居室+ダイニングキッチンが1つある住宅です。
- リビング・ダイニング・キッチン(LDK))
- 居間と台所と食堂の機能が1室に併存する部屋をいい、住宅の居室(寝室)数に応じ、その用途に従って使用するために必要な広さ、形状及び機能を有するもの(表示規約18条1項(4)。例えば、3LDKの場合、3つの居室+リビングダイニングキッチンが1つある住宅です。
各種施設までの距離又は所要時間
- 道路距離又は所要時間を表示するときは、起点及び着点を明示して表示すること(他の規定により当該表示を省略することができることとされている場合を除く。)
なお、道路距離又は所要時間を算出する際の物件の起点は、物件の区画のうち駅その他施設に最も近い地点(マンション及びアパートにあっては、建物の出入口)とし、駅その他の施設の着点は、その施設の出入口(施設の利用時間内において常時利用できるものに限る。)とする(表示規則9条(7)) - 団地と駅その他の施設との間の道路距離又は所要時間は、取引する区画のうちそれぞれの施設ごとにその施設から最も近い区画(マンション及びアパートにあっては、その施設から最も近い建物の出入口)を起点として算出した数値とともに、その施設から最も遠い区画(マンション及びアパートにあっては、その施設から最も遠い建物の出入口)を起点として算出した数値も表示すること(表示規則9条(8))つまり、近いところと、遠いところの2つ表示します。
- 徒歩による所要時間は、道路距離80メートルにつき1分間を要するものとして算出した数値を表示すこと。この場合において、1分未満の端数が生じたときは、1分として算出すること(表示規則9条(9))例えば、道路距離100mの場合、「徒歩2分」となります。
- 自動車による所要時間は、道路距離を明示して、走行に通常要する時間を表示すること。この場合において、表示された時間が有料道路(橋を含む。)の通行を含む場合のものであるときは、その旨を明示すること。ただし、その道路が高速自動車国道であって、周知のものであるときは、有料である旨の表示を省略することができる(表示規則9条(10))
- 自転車による所要時間は、道路距離を明示して、走行に通常要する時間を表示すること(表示規則9条(11))
面積
- 面積は、メートル法(㎡、平方メートル)により表示すること。この場合において1㎡未満の数値は、切り捨てて表示することができる(表示規則9条(13))
- 土地の面積は、水平投影面積を表示すること。この場合において、取引する全ての区画の面積を表示すること。ただし、パンフレット等の媒体を除き、最小土地面積及び最大土地面積のみで表示することができる(表示規則9条(14))
- 建物の面積(マンションにあっては、専有面積)は、延べ面積を表示し、これに車庫、地下室等(地下居室は除く。)の面積を含むときは、その旨及びその面積を表示すること。この場合において、取引する全ての建物の面積を表示すること。
ただし、新築分譲住宅、新築分譲マンション、一棟リノベーションマンション、新築賃貸マンション、新築賃貸アパート、共有制リゾートクラブ会員権については、パンフレット等の媒体を除き、最小建物面積及び最大建物面積のみで表示することができる(表示規則9条(15)) - 住宅の居室等の広さを畳数で表示する場合においては、畳1枚当たりの広さは1.62平方メートル(各室の壁心面積を畳数で除した数値)以上の広さがあるという意味で用いること(表示規則9条(16))
おとり広告の禁止
宅地建物取引業者が広告をするときは、「著しく事実に相違する表示」、および、「実際のものよりも著しく優良もしくは有利であると人を誤認させるような表示」をしてはなりません。これらが誇大広告等の禁止です(宅地建物取引業法第32条)。
そして、「賃貸する意思のない物件」や「賃貸することのできない物件」について広告を行うことを、「おとり広告」といいます。おとり広告は、広告を見て集まる客に対し、その物件はすでに賃貸借契約が成立してしまったなどと称して、他の物件を紹介して押しつけることをねらって広告することです。広告で賃貸すると表示した物件と、現実に賃貸しようとする物件とが異なるので、著しく事実に相違するものとして、誇大広告に該当し、宅地建物取引業法に違反する行為です。
おとり広告には、指示(宅建業法65条1項、第3項)、業務停止(宅建業法65条2項、第4項)がなされ、また、「情状が特に重いとき」は免許取消し(宅建業法66条1項第9号)という処分を受けることがあります。さらに、6か月以下の懲役、または100万円以下の罰金の定めもあります(宅建業法81条1号)。
また、不動産の表示に関する公正競争規約(以下、「表示規約」という)では、「①物件が存在しないため、実際には取引することができない物件に関する表示」、「②物件は存在するが、実際には取引の対象となり得ない物件に関する表示」、「③物件は存在するが、実際には取引する意思がない物件に関する表示」について、いずれも広告表示が禁止されています(表示規約21条)。おとり広告は、実際には取引の対象となり得ない物件に関する表示に該当し、表示規約に違反する行為です。
表示規約違反に対しては、違約金課徴(表示規約27条)等の措置を受ける場合があります。
インターネット広告におけるおとり広告
入居者(賃借人)を募集するための広告を行うに際しては、多数の顧客が情報に対し容易にアクセスし得る環境を作り出すことができることから、インターネットが重要な広告媒体になっています。
このインターネット広告には、本来的に更新しやすいという特性があり、そのため一般消費者からみると、常に新しい物件の広告が掲載され、かつ、広告された物件は実際に取引することができるものと認識されています。
ところで、物件がすでに契約済みで、取引できなくなっているにもかかわらず、そのままインターネットに広告表示を続けることは、賃貸することのできない物件について広告をすることになり、おとり広告となります。しかし、契約が成立して決済に至り、広告表示から削除しなければならない物件の広告をそのまま残しているという状況が多発しているのが現状です。
国土交通省の通知
上記のようなインターネットによるおとり広告が多発している状況から、国土交通省は、繰り返し、注意を喚起する通知がなされています。その一部が下記内容です。
- 実際には取引する意思のない物件を、顧客を集めるために、合理的な根拠なく「相場より安い賃料・価格」等の好条件で広告して顧客を誘引(来店等を促す行為)した上で、他者による成約や事実ではないこと(生活音がうるさい、突然の水漏れが生じた、治安が悪い等)を理由に、他の物件を紹介・案内することは「おとり広告」に該当する。
- 成約済みの物件を速やかに広告から削除せずに当該物件のインターネット広告等を掲載することや、広告掲載当初から取引の対象となり得ない成約済みの物件を継続して掲載することは「おとり広告」に該当する。
- 他の物件情報等をもとに、対象物件の賃料や価格、面積又は間取りを改ざんすること等、実在しない物件を広告することは「虚偽広告」に該当する。
- 「誇大広告等」とは、本条(宅建業法)において規定されるところであるが、顧客を集めるために売る意思のない条件の良い物件を広告実際は他の物件を販売しようとする、いわゆる「おとり広告」及び実際には存在しない物件等の「虚偽広告」についても本条の適用があるものとする。
表示規約によると「おとり広告」とは、下記3つを指します(規約21条)。
- 物件が存在しないため、実際には取引することができない物件に関する表示
- 物件は存在するが、実際には取引の対象となり得ない物件に関する表示。例えば、すでに契約済みの物件
- 物件は存在するが、実際には取引する意思がない物件に関する表示
※「物件が存在しないため、実際には取引することができない物件に関する表示」は、国土交通省の通知によると「虚偽広告」に当たるとされている。