借受希望者への説明

宅地建物取引業法に基づく重要事項説明

宅建業者は、賃貸借契約の媒介や代理を行う場合、賃貸借の相手方等に対して、賃貸借契約が成立するまでの間に、宅地建物取引士(宅建士)をして、重要事項を記載した書面(35条書面)を交付して説明をさせなければなりません(宅建業法35条第1項はしら書き、重要事項説明という)。分かりやすく言うと、宅建業者は、賃貸借契約の媒介や代理を行う場合、「宅建業者は、宅建士に重要事項をさせなければならない」ということです。

一方、宅建業者が自ら宅地建物を賃貸する場合には、宅地建物取引業法(宅建業法)の適用はないので、宅建業者(賃貸人)であっても、重要事項説明の義務はありません

重要事項として説明すべき事項

重要事項として説明すべき事項は多岐にわたるので、「建物に直接関係する事項」「取引条件に関する事項」に分けて解説します。

対象となる建物に直接関係する事項

  1. 登記記録に記録された事項
  2. 法令上の制限
  3. 飲用水・電気・ガスの供給施設及び排水施設の整備状況
  4. 建物建築の工事完了時における形状、構造等(未完成物件のとき)
  5. 台所、浴室、便所その他の当該建物の設備の整備の状況へ、区分所有建物について、専有部分の用途その他の利用の制限に関する規約の定めがあるときは、その内容
  6. 区分所有建物について、管理が委託されているときは、委託を受けている者の氏名(法人にあっては、その商号又は名称)及び住所(法人にあっては、その主たる事務所の所在地)
  7. 建物が既存建物(中古建物)であるときは、(1)建物状況調査(インスペクション。実施後1年を経過していないもの)を実施しているかどうか、及びこれを実施している場合におけるその結果の概要」「(2)設計図書点検記録その他の建物の建築及び維持保全の状況に関する書類」
  8. 建物の所在地が造成宅地防災区域内か否か
  9. 建物の所在地が土砂災害警戒区域内か否か
  10. 建物の所在地が津波災害警戒区域内か否か
  11. 建物の所在地が水防法施行規則により作成された水害ハザードマップに表示されているときは、図面における建物の所在地
  12. 石綿使用調査の内容(建物についての石綿使用の調査記録の有無)
  13. 耐震診断の内容(1981(昭和56)年6月1日以降に新築工事に着手したものを除く)

取引条件に関する事項

  1. 借賃以外に授受される金銭
  2. 契約の解除に関する事項
  3. 損害賠償の予定又は違約金に関する事項
  4. 支払金又は預り金の保全措置の概要
  5. 契約期間及び契約の更新に関する事項(定期建物賃貸借や終身建物賃貸借の場合、その旨の説明をする。)
  6. 用途その他の利用の制限に関する事項
  7. 敷金等の精算に関する事項
  8. 建物の管理が委託されているときは、管理会社に関する事項

管理の委託先の説明

上記以外でも、賃貸住宅の管理が管理業者に委託されていれば、「委託を受けている者の氏名(法人にあっては、その商号又は名称及び住所(法人にあっては、その主たる事務所の所在地)」が説明事項となります(宅建業法35条1項14号イ、同法施行規則16条の4の5第12号)。

説明時期

重要事項説明は、契約締結時までに行わなければなりません。少なくとも、当事者が契約締結時までに十分にその内容を理解し、慎重に判断できる余裕がもてるようにすることが望ましいとされています。

説明方法

宅建士が、上記説明事項のすべてを記載した書面を、当事者に交付し説明します。重要事項説明書には宅建士が記名しなければなりません(宅建業法35条第5項)。

宅建士は、重要事項説明をするときは、説明の相手方に対し、宅建士証を提示しなければなりません(宅建業法35条第4項)。

宅建業者は、宅地建物の取得者・賃借人に対して、書面を交付したうえで、原則、口頭で説明を行わなくてはなりません。ただし、賃借人が宅建業者となる場合には、口頭による説明は省略でき書面を交付するだけで足ります(宅建業法35条第6項、第7項)。

注意点

  1. 重要事項説明書に宅建士の押印は不要
  2. 重要事項説明書に宅建業者の記名・押印は不要
  3. 重要事項説明をするときは宅建士証の提示は必ず行う

ITを活用する重要事項説明

重要事項説明の実施については、以下の4つの要件をすべて満たす場合に限り、ITを活用して重要事項説明をすることができます(宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方第35条第1項関係2(1)~(4))。

  1. 宅建士及び重要事項の説明を受けようとする者が、図面等の書類及び説明の内容について十分に理解できる程度に映像を視認でき、かつ、双方が発する音声を十分に聞き取ることができるとともに、双方向でやりとりできる環境において実施していること。
  2. 宅建士により記名された重要事項説明書及び添付書類を、重要事項の説明を受けようとする者にあらかじめ交付(電磁的方法による提供を含む。)していること
  3. 重要事項の説明を受けようとする者が、重要事項説明書及び添付書類を確認しながら説明を受けることができる状態であること並びに映像及び音声の状況について、宅建士が重要事項の説明を開始する前に確認していること。
  4. 宅建士が、宅建士証を提示し、重要事項の説明を受けようとする者が、当該宅建士証を画面上で視認できたことを確認していること。

宅建業法に規定されていないその他の説明事項

宅建業者は、宅建業法35条に掲げられた事項以外にも、賃借を検討している借受希望者に対し、賃借するか否か、賃料をいくらにするか等の決定に重大な影響を及ぼす事項について説明しなければなりません。また、賃貸住宅に入居するにあたっては、入居後の円満な共同生活とトラブル防止のため、法律上説明が求められる事項のほかにも、賃貸住宅の利用に関する事項の説明をする必要があります。入居にあたって説明が求められる賃貸住宅の利用に関する事項は、例えば、下記事項が挙げられます。

  1. 賃料の支払期日及び支払先(賃料条件の確認)
  2. 解約予告の通知義務
  3. 義務違反に伴う契約解除
  4. 更新に関する事項(更新の方法,費用等)
  5. 入居後の管理の受付先(クレーム窓口、解約予告の通知先等)●駐輪場(自転車・バイク)、駐車場の位置の確認
  6. 退去に伴う原状回復の負担と範囲の確認の方法、敷金精算の方法、手順・時期等
  7. 建物内の生活ルールやマナーを遵守し、近隣住民や他の賃借人に対して迷惑をかけず、快適な住環境を築くことなどの一般的な注意事項

さらに、地方公共団体によっては、条例により、一定の事項につき宅建業者が説明を行うことが義務づけられていることがあります(例:東京ルール)。この条例が適用される物件については、条例に従った対応が必要となります。

入居のしおりの作成・配布

入居者に建物内や敷地内等における共同ルールや日常生活上の留意事項を理解してもらうには、入居のしおりを作成し、借受希望者に配布することが有用です。入居のしおりへの記載内容の主なものは次のとおりです。

  1. 鍵の保管方法、取扱い
  2. 入居(引越し)に際しての留意事項
  3. 電気・ガス・水道の利用手続き、電話の申込み
  4. 入居後の公的な届出先
  5. 日常のゴミの出し方
  6. 日常の生活マナー
  7. 室内設備の使用方法
  8. 漏水があった場合の対処
  9. 室内の換気
  10. 共用部分(設備)の使用方法、注意
  11. 設備等に不具合が生じた場合及び緊急事態発生時の連絡先
  12. 賃貸借契約の更新及び解約時の手続方法

注意点

入居のしおりの作成・配布・説明は任意。必ずしなければならないわけではない

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