定期報告の重要性
管理受託方式による賃貸経営は、管理業者が、賃貸人との間で、管理受託契約を締結し、賃貸人のために、管理業務を行う事業です。賃貸人のための業務を行う事業であるため、善良な管理者の注意をもって業務を行うことが必要です(善管注意義務)。そのため、賃貸人に対する定期的な報告は、善管注意義務を果たすための一つとして中心的な業務ということになります。
管理業者は、賃貸人と管理業者の間の管理受託契約に定められた「方法と時期」にしたがって報告しなければなりません。通常は、月次・年次で報告しますが、賃貸人の十分な長期的信頼を得るにふさわしい報告内容と頻度を慎重に選択することが重要です。
定期報告の報告内容
管理業者は、常に最新の賃貸状況の一覧表を準備しておかなければなりません。賃貸状況とは、貸室の部屋番号、契約面積、入居者の氏名、賃料・共益費、預託金、一時金、契約期間、特約などです。これらの一覧表は、レントロール(rentroll)と言われています。
- 新規、更新、解約別内訳と月間(年間)収支報告
- 業務報告(延滞状況、苦情の状況、修繕状況、設備保守・防災・防火・防犯状況など)
- 入金明細,請求明細,未収明細
- 未払明細・支払明細、解約敷金等の支払明細
- 賃料、共益費・敷金・礼金・更新料など
- 管理委託費の内訳
- 収入・支出別進行状況
- 工事内容・日付・業者名・金額などの明細と過去の修繕履歴
- 苦情報告
金銭の管理に関しては、「貸室の解約による預託金の返還」、および「新規契約による預託金の受入れ」を一覧表とし、「預託金の精算」と「報告時点の残高」を表示するため、「解約および新規契約に伴う預託金精算・残高状況」を作成するべきです。
さらに、「空室状況、新規契約状況および募集活動報告、新規契約状況」を一覧にし、また「空室については、広告費」など、どの程度の費用をかけ、いかなる募集活動を行ったかの報告も行う必要があります。
さらに、「修繕工事の状況」の一覧表も備えなければなりません。報告内容は、契約管理にかかわるものに限られません。「建物や設備の維持保存に関する物的な管理事項の報告」も行うべきです。どの建物においてどのような不具合が生じ、それについてどのような対処を行い、現時点ではどこまでの処理が済んでいるのかも書面にしてまとめておくべきです。つまり、修繕工事の実施状況を取りまとめ、修繕履歴を記載すべきです。
「物件の稼働状況」と「賃貸管理状態(日常的、定期的、突発的等の対応を含めた管理)」の記録の集積を「トラックレコード(trackrecord)」と呼びます。トラックレコードは、賃貸住宅経営の基礎資料であり、トラックレコードの作成は、管理業者に課された重要な役割です。
賃貸住宅管理業法における定期報告の定め
賃貸住宅管理業法は、賃貸住宅管理業者に対して、管理業務の実施状況その他の国土交通省令で定める事項について、国土交通省令で定めるところにより、定期的に、委託者に報告しなければなりません(賃貸住宅管理業法20条)。
報告は、①管理受託契約を締結した日から1年を超えない期間ごとに、及び②管理受託契約の期間の満了後遅滞なく行わなければなりません(賃貸住宅管理業法施行規則第40条、施行規則40条1項、解釈・運用の考え方第20条関係2)。
報告は、管理業務報告書を作成し、これを委託者に交付して説明しなければなりません(同法施行規則第40条第1項)。賃貸住宅管理業者が、管理業務報告書によって委託者に報告すべき事項は、次の3つです(賃貸住宅管理業法施行規則第40条第1項第1号~第3号)。
- 報告の対象となる期間
- 管理業務の実施状況
- 管理業務の対象となる賃貸住宅の入居者からの苦情の発生状況および対応状況
3の業務の対象となる賃貸住宅の入居者からの苦情の発生状況および対応状況については、「苦情の発生した日時、苦情を申し出た者の属性、苦情内容、苦情の対応状況等」について、把握可能な限り記録し、報告することが必要とされます。ただし、単純な問い合わせについては、記録および報告の義務はありません(解釈・運用の考え方第20条関係1(2))。
また、報告の方法に関しては、委託者の承諾を得れば、管理業務報告書の交付に代えて、電子情報処理組織を使用する方法その他の情報通信の技術を利用する方法(電磁的方法)により、必要事項の情報提供をすることができます(賃貸住宅管理業法施行規則第40条第2項はしら書き前段、解釈・運用の考え方第20条関係3)。
承諾を得たうえで電磁的方法により情報提供をした場合には、賃貸住宅管理業者は、管理業務報告書を交付したものとみなされます(賃貸住宅管理業法施行規則第40条第2項柱書き後段)。