民法における原状回復
原状回復とは、借りた状態に戻すことを言います。つまり、壊したものは、直さないといけません。この点、あとで解説するガイドラインでは、「賃借人の居住、使用により発生した建物価値の減少のうち、賃借人の故意・過失、善管注意義務違反、通常の使用を超えるような使用による損耗・毀損(以下、「損耗等」という)を復旧すること」と定義しています。
賃貸借契約が終了したときには、賃借人は、賃貸人に対して、建物を返還し、賃借人は、建物を受け取った後に生じた損傷がある場合においては、その損傷を原状に復する義務(原状回復義務)を負います。
ただし、「①通常の使用および収益によって生じた建物の損耗ならびに賃借物の経年変化」、「②損傷が賃借人の責めに帰することができない事由」によるものであるときは、原状回復義務を負いません(民法621条)。
ガイドラインとは
「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」(以下、「ガイドライン」という)は、トラブルが急増し、大きな問題となっていた賃貸住宅の退去時における原状回復について、「原状回復に関する契約条項」や「費用負担等のルール」を明確にして、賃貸住宅契約の適正化を図ることを目的に作成されました。
原状回復をめぐるトラブルは、今もなお増加を続けている状況にあるなかで、原状回復をめぐるトラブルの未然防止と円滑な解決のために、契約や退去の際に賃貸人・賃借人双方があらかじめ理解しておくべき一般的なルール等を示したものが、この「ガイドライン」です。現在、多くの関係者に利用されています。
ガイドラインのポイント
- 建物の価値は、居住の有無にかかわらず、時間の経過により減少する。
- 物件が、契約により定められた使用方法に従い、かつ、社会通念上通常の使用方法により使用していればそうなったであろう状態であれば、使用開始当時の状態よりも悪くなっていたとしてもそのまま賃貸人に返還すればよい。つまり、使用開始当時の状態よりも悪くなっていたとして原状回復義務は負わない。
- 原状回復を「賃借人の居住、使用により発生した建物価値の減少のうち、賃借人の故意・過失、善管注意義務違反、通常の使用を超えるような使用による損耗・毀損(以下、「損耗等」という)を復旧すること」と定義している。
- 賃借人の負担について、建物・設備等の経過年数を考慮することとし、同じ損耗等であっても、経過年数に応じて負担を軽減する考え方を採用している。
損耗等の区分
ガイドラインでは、建物の損耗等を建物価値の減少と位置づけ、負担割合等のあり方を検討するにあたり、損耗等を次の3つに区分しています。
- (a)建物・設備等の自然的な劣化・損耗等(経年変化)
- (b)賃借人の通常の使用により生ずる損耗等(通常損耗)
- (C)賃借人の故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗等
原状回復義務の定義
ガイドラインでは、上記(C)を念頭に置いて、原状回復を次のように定義している。
原状回復とは、賃借人の居住、使用により発生した建物価値の減少のうち、賃借人の故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗・毀損を復旧すること
そして、損耗等を補修・修繕する場合の費用については、(C)の賃借人の故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗等について、賃借人が負担すべき費用と考え、他方、たとえば次の入居者を確保する目的で行う設備の交換、化粧直しなどのリフォームについては、(a)(b)の経年変化および通常使用による損耗等の修繕であり、賃貸人が負担すべきであるとしています。
なお、震災等の不可抗力による損耗、上階の居住者など該当賃借人と無関係な第三者がもたらした損耗等については、賃借人が負担すべきものでないことも確認的に記載している。
事例ごとの負担義務者
(a)(b)(c)だけでは、結局は具体の損耗等がどれに該当するのかが分からず、また、原状回復をめぐるトラブルの未然防止・解決には役立たないため、ガイドラインでは、事例を次のように4つに整理しています。
事例の区分 | 負担義務者 | 理由 |
---|---|---|
A;賃借人が通常の住まい方、使い方をしていても発生すると考えられるもの | 賃貸人 | 賃借人が通常の住まい方、使い方をしていても発生すると考えられるものは「経年変化」か「通常損耗」であり、これらは賃貸借契約の性質上、賃貸借契約期間中の賃料でカバーされてきたはずのものである |
A(+G):建物価値の減少の区分としてはAに該当するものの、原状回復に係る工事内容に建物価値を増大させる要素が含まれているもの | 賃貸人 | 賃借人が通常の住まい方、使い方をしていても発生するものについては、上記のように、賃貸借契約期間中の賃料でカバーされてきたはずのものであり、賃借人は修繕等をする義務を負わないのであるから、まして建物価値を増大させるような修繕等(例:古くなった設備等を最新のものに取り替えるとか居室をあたかも新築のような状態にするためのクリーニングの実施、Aに区分されるような建物価値の減少を補ってなお余りあるような修繕等)をする義務を負うことはない |
B:賃借人の住まい方、使い方次第で発生したりしなかったりすると考えられるもの(明らかに通常の使用等による結果とはいえないもの | 賃借人 | 賃借人の住まい方、使い方次第で発生したりしなかったりすると考えられるものは、「故意・過失、善管注意義務違反等による損耗等」を含むこともあり、もはや通常の使用により生ずる損耗とはいえない |
A(+B):基本的にはAであるが、その後の手入れ等賃借人の管理が悪く、損耗等が発生または拡大したと考えられるもの | 賃借人 | 賃借人が通常の住まい方、使い方をしていても発生するものであるが、その後の手入れ等賃借人の管理が悪く、損耗が発生・拡大したと考えられるものは、損耗の拡大について、賃借人に善管注意義務違反等があると考えられるとして、賃借人には原状回復義務が発生し、賃借人が負担すべき費用の検討が必要になる |
床(疊、フローリング、カーペットなど)
<Aに該当するもの:賃貸人が負担するもの>
- 畳の裏返し、表替え(特に破損等していないが、次の入居者確保のために行うもの)(考え方)入居者の入れ替わりによる物件の維持管理上の問題であり、質貸人の負担とすることが妥当と考えられる。
- フローリングワックスがけ(考え方)ワックスがけは通常、の生活において必ず行うとまでは言い切れず、物件の維持管理の意味合いが強いことから、賃貸人負担とすることが妥当と考えられる。
- 家具の設置による床、カーペッカーペットのへこみ。設置跡(考え方)家具保有数が多いという我が国の実状に鑑みその設置は必然的なものであり、設置したことだけによるへこみ、跡は通常の使用による損耗ととらえるのが妥当と考えられる。
- 畳の変色、フローリングの色落ち(日照、建物構造欠陥による雨漏りなどで発生したもの)
(考え方)日照は通常の生活で避けられないものであり、また、構造上の欠陥は、賃借人には責任はないと考えられる(質借人が通知義務を怠った場合を除く)。
<Bに該当するもの:賃借人が負担するもの>
- カーペットに飲み物等をこぼしたことによるシミ、カビ(考え方)飲み物等をこぼすこと自体は通常の生活の範囲と考えられるが、その後の手入れ不足等で生じたシミ・カビの除去は賃借人の負担により実施するのが妥当と考えられる。
- 冷蔵庫下のサビ跡(考え方)冷蔵庫に発生したサビが床に付着しても、拭き掃除で除去できる程度であれば通常の生活の範囲と考えられるが、そのサビを放置し、床に汚損等の損害を与えることは、賃借人の善管注意義務違反に該当する場合が多いと考えられる。
- 引越作業で生じたひっかきキズ(考え方)賃借人の善管注意義務反または過失に該当する場合が多いと考えられる。
- 畳やフローリングの色落ち(人の不注意で雨が吹き込んだことなどによるもの)(考え方)賃借人の善管注意義務違反に該当する場合が多いと考えられる。
- 落書き等の故意による毀損
壁・天井(クロスなど)
<Aに該当するもの:賃貸人が負担するもの>
- テレビ、冷蔵庫等の後部壁面の黒ずみ(いわゆる電気ヤケ)(考え方)テレビ、冷蔵庫は通常一般的な生活をしていくうえで必需品であり、その使用による電気ヤケは、通常の使用ととらえるのが妥当と考えられる。
- 壁に貼ったポスターや絵画の跡(考え方)壁にポスター等を貼ることによって生じるクロス等の変色は、主に日照などの自然現象によるもので、通常の生活による損耗の範囲であると考えられる。
- エアコン(賃借人所有)設置による壁のビス穴、跡(考え方)エアコンについても、テレビ等と同様一般的な生活をしていくうえで必需品になってきており、その設置によって生じたビス穴等は通常の損耗と考えられる。
- クロスの変色(日照などの自然現象によるもの)(考え方)畳等の変色と同様、日照は通常の生活で避けられないものであると考えられる。
- 壁等の画鋲(画びょう)、ピン等の穴(下地ボードの張替えは不要な程度のもの)(考え方)ポスターやカレンダー等の掲示は、通常の生活において行われる範囲のものであり、そのために使用した画びょう、ピン等の穴は、通常の損耗と考えられる。
<Bに該当するもの:賃借人が負担するもの>
- 台所の油汚れ(考え方)使用後の手入れが悪くススや油が付着している場合は、通常の使用による損耗を超えるものと判断されることが多いと考えられる。
- 結露を放置したことにより拡大したカビ、シミ(考え方)結露は建物の構造上の問題であることが多いが、賃借人が結露が発生しているにもかかわらず、賃貸人に通知もせず、かつ、拭き取るなどの手入れを怠り、壁等を腐食させた場合には、通常の使用による損耗を超えると判断されることが多い
- タバコ等のヤニ・臭い(考え方)喫煙等によりクロス等がヤニで変色したり、臭いが付着している場合は、通常の使用による汚損を超えるものと判断される場合が多いと考えられる。なお、賃貸物件での喫煙等が禁じられている場合は、用法違反にあたるものと考えられる。
- 壁等のくぎ穴、ネジ穴(重量物をかけるためにあけたもので、下地ポードの張替が必要な程度のもの)(考え方)重量物の掲示等のためのくぎ、ネジ穴は、画びょうのものに比べて深く、範囲も広いため、通常の使用による損耗を超えると判断されることが多いと考えられる。なお、地震等に対する家具転倒防止の措置については、予め、賃貸人の承諾、または、くぎやネジを使用しない方法の検討が考えられる。
- クーラー(賃貸人所有)から水漏れし、賃借人が放置しため壁が腐食(考え方)クーラー保守は所有し、放置したため壁が腐食(考え方)クーラーの保守は所有者(賃貸人)が実施するべきものであるが、水漏れを放置したり、その後の手入れを怠った場合は、通常の使用による損耗を超えると判断されることが多い
- 天井に直接つけた照明器具の跡(考え方)あらかじめ設置された照明器具用コンセントを使用しなかった場合には、通常の使用による損耗を超えると判断されることが多いと考えられる。
- 落書き等の故意による毀損
建具(襖(ふすま)、柱など)
<Aに該当するもの:賃貸人が負担するもの>
- 網戸の張替え(破損等はしていないが次の入居者確保のために行うもの)(考え方)入居者の入れ替わりによる物件の維持管理上の問題であり、賃貸人の負担とすることが妥当と考えられる。
- 地震で破損したガラス(考え方)自然災害による損傷であり、賃借人には責任はないと考えられる。
- 網入りガラスの亀裂(構造により自然に発生したもの)(考え方)ガラスの加工処理の間題で亀裂が自然に発生した場合は、賃借人には責任はないと考えられる。
<Bに該当するもの:賃借人が負担するもの>
- 飼育ペットによる柱等のキズ・臭い(考え方)特に、共同住宅におけるペット飼育は未だ一般的ではなく、ペットの躾(しつけ)や尿の後始末などの問題でもあることから、ペットにより柱、クロス等にキズが付いたり、臭いが付着している場合は、賃借人負担と判断される場合が多いと考えられる。なお、賃貸物件でのペットの飼育が禁じられている場合は、用法違反にあたるものと考えられる。
- 落書き等の故意による毀損
設備、その他(鍵など)
<Aに該当するもの:賃貸人が負担するもの>
- 全体のハウスクリーニング(専門業者による)(考え方)賃借人が通常の清掃(具体的には、ゴミの撤去、掃き掃除、拭き掃除、水回り、換気扇、レンジ回りの油汚れの除去等)を実施している場合は次の入居者確保のためのものであり、賃貸人負担とすることが妥当と考えられる
- エアコンの内部洗浄(考え方)喫煙等による臭い等が付着していない限り、通常の生活において必ず行うとまでは言い切れず、賃借人の管理の範囲を超えているので、賃貸人負担とすることが妥当と考えられる
- 消毒(台所、トイレ)(考え方)消毒は日常の清掃とは異なり、賃借人の管理の範囲を超えているので、賃貸人負担とすることが妥当と考えられる。
- 浴槽、風呂蓋等の取替え(破損等はしていないが、次の入居者確保のため行うもの)(考え方)物件の維持管理上の問題であり、賃貸人負担とするのが妥当と考えられる。
- 鍵の取替え(破損、鍵紛失のない場合)(考え方)入居者の入れ替わりによる物件管理上の問題であり、賃貸人の負担とすることが妥当と考えられる。
- 設備機器の故障、使用不能(機器の寿命によるもの)(考え方)経年劣化による自然損耗であり、賃借人に責任はないと考えられる
<Bに該当するもの:賃借人が負担するもの>
- ガスコンロ置き場、換気扇等の油汚れ、すす(考え方)使用期間中に、その清掃・手入れを怠った結果汚損が生じた場合は、賃借人の善管注意義務違反に該当すると判断されることが多いと考えられる。
- 風呂、トイレ、洗面台の水垢、カビ等(考え方)使用期間中に、その清掃・手入れを怠った結果汚損が生じた場合は、賃借人の善管注意義務違反に該当すると判断されることが多いと考えられる。
- 日常の不適切な手入れもしくは用法違反による設備の毀損(考え方)賃借人の善管注意義務違反に該当すると判断されることが多いと考えられる
- 鍵の紛失、破損による取替え(考え方)鍵の紛失や不適切な使用による破損は、賃借人負担と判断される場合が多いものと考えられる。
- 戸建賃貸住宅の庭に生い茂った雑草(考え方)草取りが適切に行われていない場合は、賃借人の善管注意義務違反に該当すると判断される場合が多いと考えられる。
経過年数の考え方
ガイドラインでは、賃借人の故意過失等による損耗であっても、経年変化、通常損耗は必ず前提になっており、経年変化・通常損耗の分は、賃借人は賃料として支払ってきていると考えます。そのため、「賃借人の負担については、建物や設備等の経過年数を考慮し、年数が多いほど負担割合を減少させることとするのが適当である」とされています。
経過年数による減価割合
ガイドラインでは、経過年数による減価割合については、たとえば、カーペットの場合、償却年数は、6年で残存価値1円となるような直線(または曲線)を描いて経過年数により賃借人の負担を決定することとしました。
ただし、経過年数を超えた設備等であっても、継続して賃貸住宅の設備等として使用可能な場合があり、このような場合に賃借人が故意・過失により設備等を破損し、使用不能としてしまった場合には、賃貸住宅の設備等として本来機能していた状態まで戻す義務が賃貸人に生じます。例えば、賃借人がクロスに故意に行った落書きを消すための費用(工事費や人件費等)などについては、賃借人の負担となります。
入居年数による代替
ガイドラインでは、新築物件の賃貸借契約ではない場合、経過年数のグラフを、入居年数で代替する方式を採用しています。これは、設備等によって補修・交換の実施時期はまちまちであり、それらの履歴を賃貸人や管理業者等が完全に把握しているケースは少ないこと、入居時に経過年数を示されても賃借人としては確認できないことが理由です。また、一方で、賃借人がその物件に何年住んだのかという入居年数は、契約当事者にとっても管理業者等にとっても明確で分かりやすいため、このグラフを使います。
この場合、入居時点の設備等の状況は、必ずしも価値100%のものばかりではないので、その状況に合わせて経過年数のグラフを下方にシフトさせて使用することになります(図4参照)。
なお、入居時点の状態でグラフの出発点をどこにするかは、契約当事者が確認のうえ、あらかじめ協議して決定することが適当であるとされています。
経過年数(入居年数)を考慮しないもの
なお、ガイドラインでは、すべての設備等につき、経過年数(入居年数)を考慮すべきであるとはしていません。
建物本体と同様に長期間の使用に耐えられる部位であって、部分補修が可能な部位、たとえば、フローリング等の部分補修については、経過年数を考慮することには馴染まないとしています。これは、部分補修としたうえに形式的に経過年数を考慮すると、賃貸人にとっては不合理な結果となるからです。
また、襖紙や障子紙、畳表といったものは、消耗品としての性格が強く、毀損の軽重にかかわらず価値の減少が大きいため、減価償却資産の考え方を取り入れることにはなじまないことから、経過年数を考慮せず、張替え等の費用について毀損等を発生させた賃借人の負担とするのが妥当であるとしています。
具体的な経過年数の考え方は下記の通りです。
基本的な考え方
財産的価値の復元という観点から、毀損等を与えた部位や設備の経過年数によって、負担割合は変化する。
具体的には、経過年数が多いほど賃借人の負担割合が小さくなるようにする。
最終残存価値は1円とし、賃借人の負担割合は最低1円となる。
- 畳表
- 消耗品に近いものであり、減価償却資産に馴染まないので、経過年数は考慮しない。
- 畳床、カーペット、クッションフロア
- 6年で残存価値1円となるような直線(または曲線)を想定し、負担割合を算定する。
- フローリング
- 経過年数は考慮しない。ただし、フローリング全体にわたっての毀損によりフローリング床全体を張り替えた場合は、当該建物の耐用年数で残存価値1円となるような直線を想定し、負担割合を算定する。
- 壁(クロス)
- 6年で残存価値1円となるような直線(または曲線)を想定し、負担割合を算定する。
- 襖紙、障子紙
- 消耗品であり、減価償却資産とならないので、経過年数は考慮しない。
- 襖、障子等の建具部分、柱
- 経過年数は考慮しない。(考慮する場合は当該建物の耐用年数で残存価値1円となるような直線を想定し、負担割合を算定する)
- 設備機器
- 耐用年数経過時点で残存価値1円となるような直線(または曲線)を想定し、負担割合を算定する。(新品交換の場合も同じ)
【主な設備の耐用年数】
●耐用年数5年のもの→「流し台」
●耐用年数6年のもの→「冷房用、暖房用機器(エアコン、ルームクーラー、ストープ等)」「電気冷蔵庫、ガス機器(ガスレンジ)」「インターホン」
●耐用年数8年のもの→「主として金属製以外の家具(書棚、たんす、戸棚、茶だんす等)」
●耐用年数15年のもの→「便器、洗面台等の給排水衛生設備」「主として金属製の器具・備品」
●当該建物の耐用年数が適用されるもの→「ユニットバス、浴槽、下駄箱(建物に固着して一体不可分なもの)」 - その他
- ●鍵の紛失の場合は、経過年数は考慮しない。交換費用相当分を全額賃借人負担とする。
●クリーニングについて、経過年数は考慮しない。賃借人負担となるのは、通常の清掃を実施していない場合で、部位もしくは住戸全体の清掃費用相当分を全額賃借人負担とする。
原状回復の範囲(損耗がある箇所につきどの範囲まで負担を求められるか)
基本的な考え方
ガイドラインでは、原状回復は、毀損部分の復旧であることから、可能な限り毀損部分に限定し、毀損部分の補修工事が可能な最低限度を施工単位とすることを基本とすることとし、賃借人に原状回復義務がある場合の費用負担についても、補修工事が最低限可能な施工単位に基づく補修費用相当分が負担対象範囲の基本となるとされています。
毀損部分と補修箇所にギャップがある場合
ガイドラインでは、毀損部分と補修工事施工箇所にギャップがあるケースにつき、補修工事の最低施工可能範囲、原状回復による賃貸人の利得および賃借人の負担を勘案し、当事者間で不公平とならないようにすべきであるとして、各部位ごとに、下記のように整理しています。ただし、模様合わせ、色合わせについては、賃借人の負担とせず、賃貸人負担です。また、可能な限り毀損部分の補修費用相当分となるよう限定的なものとします。この場合、補修工事が最低限可能な施工単位を基本とします。
- 畳
- ●原則1枚単位
●毀損等が複数枚にわたる場合は、その枚数(裏返しか表替えかは毀損の程度による) - カーペット、クッションフロア
- 毀損等が複数箇所にわたる場合は当該居室全体
- フローリング
- 原則㎡单位、毀損等が複数箇所にわたる場合は当該居室全体
- 壁(クロス)
- m単位が望ましいが、賃借人が毀損させた箇所を含む一面分までは張替費用を賃借人負担としてもやむをえない。
※タバコ等のヤニや臭い:喫煙等により当該居室全体においてクロス等がヤニで変色したり臭いが付着した場合のみ、当該居室全体のクリーニングまたは張替費用を賃借人負担とすることが妥当と考えられる。 - 襖(ふすま)
- 1枚単位
- 柱
- 1本単位
- 設備機器
- 補修部分、交換相当費用
- 鍵
- 紛失の場合はシリンダーの交換
- クリーニング
- 部位ごともしくは住戸全体
賃借人の原状回復義務等負担一覧
<基本的な考え方>
- 可能な限り毀損部分の補修費・用相当分となるよう限定的なものとする。この場合、補修工事が最低限可能な施工単位を基本とする。いわゆる模様あわせ、色あわせについて・は、賃借人の負担とはしない。
- 財産的価値の復元という観点から、毀損等を与えた部位や設備の経過年数によって、負担割合は変化する。
- 具体的には、経過年数が多いほど賃借人の負担割合が小さくなるようにする。
- 最終残存価値は1円とし、賃借人の負担割合は最低1円となる。
床(畳、フローリング、カーペットなど)
<工事施工单位>
- 畳:最低1枚単位色合わせを行う場合は当該居室の畳枚数
- ・カーペット、クッションフロア:1部屋單位洗浄等で落ちない汚れ、キズの場合は当該居室全体
- フローリング:最低㎡単位
<賃借人の負担単位等>
- 畳:原則1枚单位。毀損等が複数枚にわたる場合は、その枚数(裏返しか表替えかは毀損の程度による)
- カーペット、クッションフロア:毀損等が複数箇所にわたる場合は当該居室全体
- ・フローリング:原則㎡単位。毀損等が複数箇所にわたる場合は当該居室全体
<経過年数の考慮等>
- 畳表:消耗品に近いものであり、減価償却資産になじまないので、過年数は考慮しない。
- 畳床、カーペット、クッションフロア:6年で残存価値1円となるような直線(または曲線)を想定し、負担割合を算定する。
- フローリング:経過年数は考慮しない。ただし、フローリング全体にわたっての毀損によりフローリング床全体を張り替えた場合は、当該建物の耐用年数で残存価値1円となるような直線を想定し、負担割合を算定する。
壁、天井(クロスなど)
<工事施工单位>
- 壁(クロス):最低単位。色・模様合わせを行う場合は当面または居室全体
- タバコのヤニや臭いの場合は、クリーニングまたは張替え(部分補修が困難な場合)
<賃借人の負担単位等>
- 壁、クロス:単位が望ましいが、賃借人が損させた箇所を含む一面分までは張替え費用を賃借人負担としてもやむをえないとする。
- タバコ等のヤニや臭い等により当該居室全体においてクロス等がヤニで変色したり臭いが付着した場合のみ、当居室全体のクリーニングまたは費用を賃借人負担とすることが妥当と考えられる。
<経過年数の考慮等>
- 壁、クロス:6年で残存価値1円となるような直線(または曲線)を想定し、負担割合を算定する。
建具(横、柱など)
<工事施工单位>
- 襖:最低1枚単位。色、模様あわせを行う場合は当該居室全体の枚数
<賃借人の負担単位等>
- 襖:1枚単位
- 柱:1本単位
<経過年数の考慮等>
- 襖紙、障子紙:消耗品であり、減価償却資産とならないので、経過年数は考慮しない。
- 襖、障子等の建具部分、柱:経過年数は考慮しない。(考慮する場合は、当該建物の耐用年数で残存価値1円となるような直線を想定し、負担割合を算定する。)
設備、その他
<工事施工单位>
- 設備機器:部分的補修、交換
- 鍵:紛失の場合はシリンダーの交換
- クリーニング:専門業者による部位ごともしくは全体のクリーニング(いわゆるハウスクリーニング)
<賃借人の負担単位等>
- 設備機器:補修部分、交換相当費用
- 鍵:紛失の場合はシリンダーの交換
- クリーニング:部位ごともしくは住戸全体
<経過年数の考慮等>
- 設備機器:耐用年数経過時点で残存価値1円となるような直線(または曲線)を想定し、負担割合を算定する(新品交換の場合も同じ)。
- 耐用年数5年:流し台
- 耐用年数6年:冷房用、暖房用機器(エアコン、ルームクーラー、ストープ等)、電気冷蔵庫、ガス機器(ガスレンジ)、インターホン
- 耐用年数8年:主として金属製以外の家具(書棚、たんす、戸棚、茶ダンス)
- 耐用年数15年:便器、洗面台等の給排水衛生設備、主として金属製の器具・備品
- 建物の耐用年数が適用:ユニットバス、浴槽、下駄箱(建物に固着して一体不可分なもの)
- 鍵の紛失は、経過年数は考慮しない。交換費用相当分を全額賃借人負担とする。
- クリーニングについて、経過年数は考慮しない。貸借人負担となるのは、通常の清掃を実施していない場合で、部位もしくは住戸全体の清掃費用相当分を全額賃借人負担とする。
ガイドラインの内容:特約の可否
賃貸借契約において、一般的な原状回復義務を超えた一定の修繕等の義務を賃借人に負わせることも可能です。
しかし、判例等においては、一定範囲の修繕(小修繕)を賃借人負担とする旨の特約は、単に賃貸人の修繕義務を免除する意味しか有しないとされており、経年変化や通常損耗に対する修繕業務等を賃借人に負担させる特約は、賃借人に法律上、社会通念上の義務とは別個の新たな義務を課すことになるため、次の要件を満たした場合に限って有効となります。
賃借人に特別の負担を課す特約の要件
- 特約の必要性があり、かつ、暴利的でないなどの客観的、合理的理由が存在すること
- 賃借人が特約によって通常の原状回復義務を超えた修繕等の義務を負うことについて認識していること
- 賃借人が特約による義務負担の意思表示をしていること
特約の有効性に関する最高裁判決の内容
原状回復に関する特約の有効性については、最判平17.12.16(下記の通り)により「明確な合意」が必要であるとされており、ガイドラインでも下記判例を紹介しています。
建物の賃貸借においては、賃借人が社会通念上通常の使用をした場合に生ずる賃借物件の劣化又は価値の減少を意味する「通常損耗」に係る投下資本の減価の回収は、通常、減価償却費や修繕費等の必要経費分を賃料の中に含ませてその支払を受けることにより行われている。
そうすると、建物の賃借人にその賃貸借において生ずる通常損耗及び経年変化についての原状回復義務を負わせるのは、賃借人に予期しない特別の負担を課すことになるから、賃借人に同義務が認められるためには、少なくとも、賃借人が補修費用を負担することになる通常損耗及び経年変化の範囲が賃貸借契約書の条項自体に具体的に明記されているか、
仮に賃貸借契約書では明らかでない場合には、賃貸人が口頭により説明し、賃借人がその旨を明確に認識し、それを合意の内容としたものと認められるなど、その旨の通常損耗補修特約が明確に合意されていることが必要であると解するのが相当である
消費者契約法との関係
個人が賃借人となる住宅賃貸借契約では、消費者契約法が問題になるが、この点についてもガイドラインでは、次のように指摘しています。
- 「当該消費者契約の解除に伴う損害賠償の額の予定」等について、「平均的な損害の額を超えるもの」はその超える部分で無効である
- 「民法、商法」等による場合に比し、「消費者の権利を制限し、又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって、消費者の利益を一方的に害するものは、無効とする
敷引き特約を有効性
消費者契約法に基づく原状回復に係る特約の有効性については、通常損耗補修特約(通常の使用に伴い生じる損耗等の補修費用を賃借人の負担とする特約)の趣旨を含む敷引き特約を有効とした最判平23.3.24(下記参照)があります。
通常損耗補修費用に充てるために賃貸人が取得する金員を具体的な一定の額とすることは、通常損耗等の補修の要否やその費用の額をめぐる紛争を防止するといった観点から、あながち不合理なものとはいえず、敷引特約が信義則に反して賃借人の利益を一方的に害するものであるということは直ちにいうことはできない。・・・通常損耗の補修に充てるべき金員を敷引金として授受する旨の合意が成立している場合には、その反面において上記補修費用が含まれないものとして賃料の額が合意されているとみるのが相当であり、敷引特約によって賃借人が二重に負担するということはできない。
上記の通り、敷引き特約を有効としました。ただし、無効となる点についても下記のように最高裁は示しています。
ただし、当該建物に生ずる通常損耗等の補修費用として通常想定される額、賃料の額、礼金等他の一時金の授受の有無及びその額等に照らし、敷引金の額が高額に過ぎると評価すべきものである場合には、当該賃料が近傍同種の建物の賃料相場に比して大幅に低額であるなどの特段の事情のない限り、信義則に反して消費者である賃借人の利益を一方的に害するものであって、消費者契約法10条により無効となる
まとめると、敷引き特約は原則有効ですが、敷引金の額が高額に過ぎると評価される場合は無効となります。
ガイドラインの内容:物件の確認の徹底
原状回復をめぐるトラブルの大きな原因として、入居時および退去時における損耗等の有無など、物件の確認が不十分であることが挙げられるとし、事実関係を明確にし、トラブルを未然に防止するため、入居時および退去時にチェックリストを作成し、部位ごとの損耗等の状況や原状回復の内容について、「当事者が立会いのうえ、十分に確認することが必要となります。この場合、損耗等の箇所、程度についてよりわかりやすく、当事者間の認識の差を少なくするためには、具体的な損耗の箇所や程度といった物件の状況を平面図に記入したり、写真を撮ったりするなどのビジュアルな手段を併せて活用することも重要である」としています。