賃貸住宅における宅地建物取引業法が定める報酬額
宅地建物取引業者たる管理業者が賃貸住宅管理において、賃貸人を代理・媒介して入居者(賃借人)募集業務(以下、「募集業務」という)を行う場合、その業務には宅地建物取引業法が適用されるため、原則として賃貸借契約の両当事者から受け取ることのできる報酬の合計額は、賃料の1か月分の1.1倍に相当する額が上限となります。そして、居住用建物の場合は、賃借人と賃貸人それぞれから受け取ることのできる額は、原則、月額賃料の0.55倍に相当する額までです。ただし、賃借人または賃貸人のどちらかの承諾がある場合は、承諾した一方から1か月分の1.1倍に相当する額を受領することができます。この場合、もう一方からは媒介報酬を受領することはできません。
分かりやすくいうと、下記条件を満たすように、報酬(仲介手数料)を受領しなければならないということです。
まず、「居住用建物以外(土地や事務所)の賃貸借契約」と「居住用建物の賃貸借契約」に分けて考えます。
居住用建物以外(土地や事務所)の賃貸借契約の場合
- 依頼者の一方から受領できる報酬の上限は、賃料の1か月分+消費税(=賃料の1.1か月分)が上限
- 宅建業者全体として受領できる報酬額の合計額の上限は、賃料の1か月分+消費税(=賃料の1.1か月分)が上限
この2つの上限を満たせば、宅建業法違反とはなりません。一つでも満たさない場合、宅建業法違反となります。
【具体例1】 宅建業者Aが貸主から事務所の賃貸借契約の媒介の依頼を受けた。一方、宅建業者Bが借主から事務所の賃貸借契約の媒介の依頼を受けた。賃料が10万円だった。
この場合、宅建業者Aが貸主から11万円の報酬を受領するとき、宅建業者Bは、1円も借主から報酬を受領することができません。なぜなら、条件2から、「宅建業者全体として受領できる報酬額の合計額の上限は、賃料の1か月分+消費税が上限」なので、宅建業者全体として受領できる報酬額の合計額の上限は、賃料の1.1か月分(11万円)です。今回、宅建業者Aが11万円を受領しているので、宅建業者Bが借主から1円の報酬を受領した場合、条件2を満たさなくなるので、宅建業者Bは報酬を受領することができません。
【具体例2】 宅建業者Aが貸主から事務所の賃貸借契約の媒介の依頼を受けた。一方、宅建業者Bが借主から事務所の賃貸借契約の媒介の依頼を受けた。賃料が10万円だった。(ここまでは具体例1と同じ)
この場合、宅建業者Aが貸主から55000円の報酬を受領するとき合、宅建業者Bは、借主から55000円までであれば報酬を受領することができます。これであれば、条件1も2も満たします。
具体的に、宅建業者がどのような配分で報酬額を受領するかは、宅建業者の話し合いによって決め、かつ、依頼者と媒介契約を締結することで決められます。
居住用建物の賃貸借契約の場合
- 依頼者の一方から受領できる報酬の上限は、原則、賃料の0.5か月分+消費税(=賃料の0.55か月分)が上限。ただし、依頼者から承諾を受ければ、賃料の1か月分+消費税(=賃料の1.1か月分)を上限に報酬を受領できる
- 宅建業者全体として受領できる報酬額の合計額の上限は、賃料の1か月分+消費税(=賃料の1.1か月分)が上限
【具体例3】 宅建業者Aが貸主から居住用建物の賃貸借契約の媒介の依頼を受けた。一方、宅建業者Bが借主から居住用建物の賃貸借契約の媒介の依頼を受けた。賃料が10万円だった。
この場合、宅建業者Aが貸主から、「11万円の報酬の承諾」を受けた上で。11万円の報酬を受領するとき、宅建業者Bは、1円も借主から報酬を受領することができません。考え方は、具体例1と同じです。条件2から、「宅建業者全体として受領できる報酬額の合計額の上限は、賃料の1か月分+消費税が上限」なので、宅建業者全体として受領できる報酬額の合計額の上限は、賃料の1.1か月分(11万円)です。今回、宅建業者Aが11万円を受領しているので、宅建業者Bが借主から1円の報酬を受領した場合、条件2を満たさなくなるので、宅建業者Bは報酬を受領することができません。
【具体例4】 宅建業者Aが貸主から居住用建物の賃貸借契約の媒介の依頼を受けた。一方、宅建業者Bが借主から居住用建物の賃貸借契約の媒介の依頼を受けた。賃料が10万円だった。(ここまでは具体例1と同じ)
この場合、宅建業者Aが貸主から55000円の報酬を受領するとき合、宅建業者Bは、借主から55000円までであれば報酬を受領することができます。これであれば、条件1も2も満たします。
注意点
広告料等、報酬以外の費用
管理業者が賃貸住宅管理として入居者募集業務を行う場合、管理業者は、入居者(賃借人)を募集するために広告を利用するのが一般的です。この場合の「広告に関する費用、いわゆる広告宣伝費」は、宅地建物取引業者である管理業者が受け取ることのできる報酬のなかから支出しなければなりません。つまり、原則として、広告費用を、別途請求することはできないということです。
ただし、例外的に、委任者から特別の依頼を受けたことによる広告宣伝費は、報酬とは別に「実費(実際に支出した金額)の範囲で」委任者(賃貸人)に請求することができます。しかし、多額の費用のかかる広告宣伝費等、請求できる場合は限定されています。宅地建物取引業者が報酬とは別に受領することのできる広告料は、大手新聞への広告掲載料等、報酬の範囲内で賄うことが相当でない多額の費用を要する特別の広告の料金に限定されます(東京高判昭57.9.28)。報酬の範囲内で賄うことが相当でない多額の費用を要する特別の広告の料金「以外」を報酬と称して受領するようなことがあれば、宅地建物取引業法違反となります。
実務における「AD」の問題点
実務において、賃貸借の媒介業務で、近年、媒介業者が、賃借人から1か月分(消費税込1.1か月分)の賃料に相当する報酬を受け取りながら、これとは別に、AD(広告費用)などと称して、賃貸人から1か月分またはそれ以上の報酬を受け取るケースが横行しています。これは、宅地建物取引業法に違反します。
宅地建物取引業者は、ADなどと称する報酬の受領を行うことは許されず、絶対に行ってはいけません。また、ADなどと称する違法な報酬の受領に対しては、監督官庁は厳しく取り締まらなくてはならず、取締りがなされないまま報酬の額の規律が守られない状況が常態となっていることは、監督官庁が責務を怠っているものであるといわざるを得ません。
また、管理業者が広告宣伝費の範囲を拡大して解釈したり、媒介に関する相談に乗ったことを理由に媒介報酬以外にコンサルティング料等の名目で委任者にお金を請求することは、宅地建物取引業法が定めた報酬の規定に違反することになります。