耐震診断と耐震補強

耐震診断

耐震診断とは、「建物に必要とされる耐力」と、「現に保有している耐力」を比較し、大地震の際にどの程度の被害を受けるかを評価・判定するものです。

1978年の宮城県沖地震の被害を受け、1981年(昭和56年)に建築基準法の耐震基準が大幅に改正された。この法改正の内容がいわゆる「新耐震設計法」です。

そして、耐震診断基準は新耐震設計法を意識しながら制定されており、「耐震診断基準の判定基準を満足する場合、建築基準法(新耐震設計法)と同等の耐震性がある」と評価されます。
耐震診断において、診断の中心となる検討項目は、構造部材の強度や変形能力(粘り強さ)および建物の老朽度であるが、建物の形状も耐震性に影響を及ぼすものであることから、形状の確認も重要です。

なお、2013(平成25)年11月25日に建築物の耐震改修の促進に関する法律(耐震改修促進法)が改正され、一部の建物の耐震診断が義務づけられました。共同住宅である賃貸住宅においても、耐震診断を行い耐震改修することの努力義務が規定されています。それに伴い、診断にかかる費用を補助する地方公共団体もあります。

耐震診断は、まず予備調査を含めて建物調査により建物の概要・状態を把握し、調査結果をもとに建物の耐震性の検討・評価を行うものです。ここでは、「木造」と「鉄筋コンクリート造」の耐震診断方法を解説していきます。

木造住宅の耐震診断

(一財)日本建築防災協会発行の「2012年改訂版 木造住宅の耐震診断と補強方法(建防協診断方法という)」によると、木造建築物の診断法は、大きく3種に分類されます。

  1. 誰でもできるわが家の耐震診断
  2. 一般診断法
  3. 精密診断法

建防協診断方法は、次のような流れを想定しています。(1)まず、一般の方が、「誰でもできるわが家の耐震診断」による診断を行い、耐震性の心配などから、専門家による診断を依頼した場合、(2)専門家は「一般診断法」又は「精密診断法」による診断を実施するという流れです。「一般診断法」を用いて診断を行い、耐震性を満足しなかった場合には、原則として「精密診断法」による診断を行い、最終的な補強の要否を判定します。補強後の診断にも原則として「精密診断法」による診断を行います。

誰でもできるわが家の耐震診断

目的
一般の人々が、自ら住まいの耐震性を調べたいといった場合に行える簡単な診断法を提供している。また、耐震性に関わる要点を啓発することを目的としている。
対象
一般の人向け(住宅)
評価
診断方法は、「耐震診断問診表」の10問の評点を合計して判定する。
「10点」であれば、ひとまず安心ですが、念のため専門家に診てもらいましょう。
「8~9点」であれば、専門家に診てもらいましょう。
「7点以下」であれば、心配なので、早めに専門家に診てもらいましょう。

一般診断法

目的
耐震補強等の必要性の判定を目的としている。
対象
建築士および建築関係者向け(住宅)
診断者は、建築士および大工、工務店などの建築関係者が想定されている。
調査
地盤崩壊など地盤災害の可能性の有無を判断するために建物周辺の地形・地盤の調査を行う。
上部構造については壁の仕様(耐力壁、雑壁)、壁周辺の柱頭・柱脚接合部の仕様および劣化度の調査を行う。
一般診断法は、原則として非破壊による調査で分かる範囲の30情報で行うものとしている。したがって、一般診断法の結果にはやや大きな誤差を含んでいることになる。より正確さが要求される補強後の診断に一般診断を適用する場合に、誤差の大きな要因となる耐震要素の仕様、接合部の状況などを明らかにするため、類推できる場合を除き、必要な調査を追加しなければならない。
評価
「地盤・基礎」と「上部構造の耐力」の結果から、「総合評価」を行う。
上部構造の耐力の診断は、「想定地震時に当該住宅に加わる力である必要耐力」と、「当該住宅が地震に対して実際に保有している耐力」を比較することで上部構造評点を算出して診断を行う。
保有している耐力は、壁・柱の耐力、耐力要素の配置(偏心の度合い)による低減係数、劣化度による低減係数から算出される。
上部構造の評点=「保有している耐力÷必要耐力」が「1.5以上であれば、倒壊しない」「1.0以上~1.5未満であれば、一応倒壊しない」「0.7以上~1.0未満であれば、倒壊する可能性がある」「0.7未満であれば、倒壊する可能性が高い」となる。

精密診断

精密診断法には次の4種類の方法があります。1に比べ、2~4の方法は「より適用性が高い」です。

  1. 保有耐力診断法(住宅)
  2. 保有水平耐力計算による方法(住宅、非住 宅も可)
  3. 限界耐力計算による方法(住宅、非住宅も可)
  4. 時刻歴応答解析による方法 (住宅、非住宅も可)
目的
補強の必要性が高いものについて、詳細な情報に基づき、より正確に補強の必要性の診断を行うことを目的としている。
対象
建築士向け(住宅、非住宅も可)
診断者は、やや高度な建築に関連する知識、経験が必要であり、原則として建築士を想定している。
調査
評価
ある程度の引き剥がしなども実施(破壊)し、できるだけ正確に調査を行うことを前提としていて、診断結果は精度の高いものとなる。しかし、内外装材の引き剥がしや、それを補修するための費用などが必要となり、調査費用がかさむおそれがある。
補強が必要と診断された場合、補強計画を立案し、その具体的な仕様等を決定するため、補強設計を行う。また、補強設計の妥当性を検証するため、補強後の診断は「精密診断」によることが望ましい。

鉄筋コンクリート造建物の耐震診断

鉄筋コンクリート造の建物の診断の大きな流れは、下記の通りです。

  1. 建物調查
  2. 構造耐震指標の算定
  3. 耐震性能の判定で、必要により補強計画・補強工事の実施

建物調査

建物調査は、耐震診断を行う建物の履歴および現状を把握するために、現地調査・実測・および試験などを行います。これは、耐震診断結果の総合的な評価資料を作成するために実施します。
耐震診断を行うために必要な調査は、(1)予備調査、(2)設計図書がない場合の調査、本調査、また、(3)必要に応じた追加調査の3つがあります。どのような調査を行うかは、建物の規模・重要度、劣化度ならびに調査の可否などを考慮し、診断次数等を考慮して発注者と協議のうえ、耐震診断者が適切に設定します。

耐震診断の方法と構造耐震指標(Is値)の算定

建物調査によって得られた情報をもとに耐震性能(強度指標、靭性指標(粘り強さ)の計算により、建物の各階・各方向の構造耐震指標(Is値)を算出します。「構造耐震指標(Is値)」は、分かりやすく言えば建物自体が持つ耐震性能を数値化したものです。このIs値と構造耐震判定指標(Iso)を比較することにより、耐震性能の評価・判定を行います。

構造耐震判定指標(Iso)

構造耐震判定指標(Iso)とは、想定した地震動レベルに対して建物が安全のため必要とされる構造耐震指標値をいい、これを計算するために第1次~第3次診断までの方法があります。

第1次診断
各階の柱と壁(鉛直部材)のコンクリートの断面積とその階が支えている建物重量から計算する最も簡便な方法。比較的壁の多い建物には適しているが、壁の少ない建物では耐力が過小評価される。
第2次診断
各階の柱と壁(鉛直部材)のコンクリート断面と鉄筋配置から、各部材の強度と粘り強さにより終局耐力を計算して、各階で必要な耐力と比較する方法。
第3次診断
第2次診断の柱と壁に加えて、梁(水平部材)も考慮して計算する現行建築基準法の保有水平耐力計算とほぼ同程度のレベルで、建物の終局耐力を計算して、各階で必要な耐力と比較する方法。

第1次診断は非常に簡便な方法であるが、その結果をもって補強設計を的確に行うことは困難なので、実務的には、第2次診断以上を行う場合がほとんどです。

耐震性の判定

建物の耐震性の判定は、構造耐震指標(Is値)と構造耐震判定指標(150)の比較により行い、構造耐震指標(Is値)が構造耐震判定指標(Iso)よりも大きい場合【構造耐震指標(Is値)>構造耐震判定指標(Iso)】、安全と判定します。

賃貸住宅の耐震改修方法

木造(軽量鉄骨造)の場合

  • 無筋コンクリート基礎の場合は、既存基礎に鉄筋コンクリート造の基礎を抱き合わせるように補強する。
  • 基礎と土台、柱と梁を金物で緊結して補強する。
  • 構造用合板等の面材や筋かいを用いて耐力壁を増設する(柱と横架材の接合部は必要な接合部仕様金物で接合)。
  • 既存壁を構造パネルなどで補強する(柱と横架材の接合部は必要な接合部仕様金物で接合)。
  • 開口部を筋かい等で補強する。
  • 地震力を吸収する制震装置(ダンパー)を取り付ける。
  • 吹き抜け部分が大きい場合は、既存床材の補強や火打ちばりを増設する。
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コンクリート造(鉄筋コンクリート造・壁式鉄筋コンクリート造・鉄骨鉄筋コンクリート造等)の場合

  • 鉄筋コンクリートの耐震壁、筋かい(鉄骨プレース)を増設する。
  • 建物の外側の架構(フレーム)に新たな補強フレームを増設する(居ながら施工が可能)。
  • 柱を鋼板巻き、炭素繊維シート等により柱を補強する。
  • 垂れ壁・腰壁の存在で耐震上不利な「短柱(脆性的な柱)」となっている部分の壁に耐震スリットを取りつけて、粘り強くなるように補強する。

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