消防・防火

消防に関する法定点検

消防に関する法定点検には、①消防法に基づくものと、②建築基準法に基づくものがあります。消防法に基づくものは、「消防用設備等の点検報告(消防法17条の3の3)」および「防火対象物定期点検報告(消防法8条の2の2)」の2つがあり、建築基準法に基づくものは、「定期調査・検査報告(建築基準法12条)」があります。

消防に関する法定点検の関係図です。

消防用設備

消防用設備(消防の用に供する設備)等は、「消防用設備(消防の用に供する設備)」「消防用水(防火水槽またはこれに代わる貯水池その他の用水(消防法17条1項、同法施行令7条5項))」「消火活動上必要な施設」の3つに分けることができます。

まず、「消防用設備(消防の用に供する設備)」を解説していきます。

注意点

防火対象物の消防用設備等には、定期の点検報告の義務があります。その結果を消防長・消防署長に報告しなければならない(消防法17条の3の3)。

消防用設備とは、(1)消火設備、(2)警報設備、(3)避難設備の3種類に分けられます。

(1)消火設備とは

消火設備には下記のようなものがあります。

  1. 消火器および簡易消火用具(水バケツ、水槽、乾燥砂、膨張ひる石または膨張真珠岩)
  2. 屋内消火栓設備
  3. スプリンクラー設備
  4. 水噴霧消火設備
  5. 泡消火設備
  6. 不活性ガス消火設備
  7. ハロゲン化物消火設備
  8. 粉末消火設備
  9. 屋外消火栓設備
  10. 動力消防ポンプ設備

消火器

消火器には、「消火薬剤と加圧用ガス容器を内蔵した加圧式」と、「消火薬剤と圧力源を封入した蓄圧式」があります。

消火器の中には消火用の粉末が充填されていて、一度の噴射時間は15秒程度です。火は1分半~2分で天井まで燃え上がり、消火が困難になるので、初期の消火活動で効果があるのは発火から2分程度です。

そして、消火器は圧力容器であり、レバーの操作時に約1~1.5MPaの強い圧力がかかります。

消火器には使用期限があり、業務用消火器では、設計標準使用期限が表示され、おおむね10年です。住宅用消火器はおおむね5年です。

住宅用消火器は、詰め替えができない構造となっています。商品の欠陥による負傷や火災の発生をもたらした場合の損害賠償義務を定めた製造物責任法の関係では、8年サイクルの交換が指導されています。

消火器のリサイクルについては、2011(平成23)年1月以降、製造品すべてにリサイクルシールが貼られ、リサイクルの有料化が始まりました。

火災の種類

火災の種類は、燃焼する物質によってA火災・B火災・C火災の3つに分類され、それぞれ消火器の種類が異なります。

A火災(普通火災)
白マークで、木材、紙、繊維などによる火災
B火災(油火災)
黄マークで、石油類その他の可燃性液体、油脂類などによる火災
C火災(電気火災)
青マークで、電気設備、電気機器などによる火災

一般の家庭や事務所、店舗は通常、いずれにも対応できる「ABC粉末消火器」を設置しています。その他、駐車場の規模や場所によって設置されている「泡消火器やハロゲン化物消火器等」があります。

スプリンクラー

病院、診療所や社会福祉施設等においては、面積の大小を問わず、スプリンクラー設備を設置することが義務づけられています。

建物の一部が住宅である場合でも、病院、診療所や社会福祉施設等の床面積が住宅の床面積よりも大きいときには、スプリンクラーの設置義務があります。

(2)警報設備とは

警報設備には、下記のようなものがあります。

  1. 自動火災報知設備
  2. ガス漏れ火災警報設備
  3. 漏電火災警報器
  4. 消防機関へ通報する火災報知設備
  5. 警鐘、携帯用拡声器、手動式サイレンその他の非常警報器具および非常警報設備(非常ベル、自動式サイレン、放送設備)
  6. 不活性ガス消火設備
  7. ハロゲン化物消火設備
  8. 粉末消火設備
  9. 屋外消火栓設備
  10. 動力消防ポンプ設備

自動火災報知設備

自動火災報知設備は、感知器と受信機(報知器)で構成されます。感知器は自動的に火災を感知し、信号を発生させて受信機に伝える装置です。感知の方法は熱または煙です。そして、受信機が、熱または煙をキャッチすると警報が鳴ります。炎による方法もありますが一般的ではありません。

自動火災報知設備は、誤作動を行う場合もあります。つまり、火災が発生していないときの発報する(警報が鳴る)こともあります。例えば、台所での火気の大量使用、焼き物による煙、エアコンやストープの使用による急激な温度変化、タバコの煙、感知器に虫や雨水が入るなどの原因が考えられます。

熱感知器(定温式スポット型、差動式スポット型)

定温式スポット型
一定の温度以上になると作動するもので、作動温度は65℃または75℃などがある。
差動式スポット型
温度の上昇率が一定の率以上になったときに作動(急激な温度の上昇を感知)するもので、食堂や駐車場等、煙や排気ガスが多量に流入する場所などで使用される。

煙感知器(イオン式スポット型、光電式スポット型)

イオン式スポット型
機器の中のイオン電流が煙によって遮断されると作動する。
光電式スポット型
煙の微粒子による光の反射を利用して作動させる

(3)避難設備とは

避難設備には、避難器具、誘導灯および誘導標識があります。

バルコニーの隣室との境にある隔壁(建築基準法施行令第114条1項では「界壁」)や非常階段等も器具ではないが、非常時には避難設備となります。

注意点

防火戸は、建築基準法に定められた防火設備であって(建築基準法2条9号の2口)、消防法上の消防用設備等ではない。

避難器具

避難器具は、すべり台、避難はしご、救助袋、緩降機、避難橋、避難ハッチ、避難ロープなどです。

誘導灯および誘導標識

11階以上のマンションでは、避難口誘導灯・通路誘導灯の設置が義務づけられています(省令第40号の適用を受けた場合、免除されることがある)。

住宅用火災警報器

住宅用火災警報器は、新築、既存住宅に関わらず、原則としてすべての住宅に設置が義務づけられています。
ただし、住宅内に自動火災報知設備やスプリンクラー設備などが設置されている共同住宅などは、住宅用火災警報器の設置義務は免除されます。

住宅用火災警報器の設置については、火災による死者の約90%が住宅火災で、そのうち高齢者(65歳以上)が半数以上を占めていることなどから、定められた義務です。

住宅用火災警報器の設置場所

住宅用火災警報器が義務づけられる設置場所は、「寝室および寝室がある階の階段」です。寝室および寝室がある階の階段」には、必ず住宅用火災警報器を設置します。このほか、条例によって付加的に設置が義務づけられる場所があります。例えば、東京都の場合、すべての部屋、台所、階段(浴室、トイレ、洗面所、納戸などは除く)に設置するよう定められています。

注意点

事務所兼住宅といった複合用途建物では、住宅部分に住宅用火災警報器を設置しなければならない(消防法9条の2)。

住宅用火災警報器と自動火災報知設備の設置義務の違い

消防法第17条にも自動火災報知器設置を義務づける定めがありますが、住宅用火災警報器の設置義務(消防法9条の2)は、次の点で異なっています。

  1. 住宅用火災警報器は、設置工事を消防設備士の資格者が行わなくてもよい(電気工事などが必要な場合は、電気工事のための資格が必要)
  2. 住宅用火災警報器は、消防用設備等の点検報告制度の対象外
  3. 住宅用火災警報器は、無線式の感知器の設置が可能(一定の要件のコンセントから電源を取れる)

特定防火対象物

特定防火対象物
不特定多数の人が出入りする建物。例えば、店舗や集会施設等
非特定防火対象物
不特定多数の人が出入りしない建物。例えば、住居、事務所、共同住宅

注意点

複合建物(特定と非特定の両方が入っている物)は、特定防火対象物として扱われる。

消防用設備等の点検報告

防火対象物においては、消防用設備等について、定期の消防署長に報告する義務点検を行い、その結果を消防長・消防署長に報告する義務があります。この点検報告は、非特定防火対象物でも必要です(点検報告が義務づけられる防火対象物には、1,000㎡以上の共同住宅も含まれる)。

この点検は、「消防設備士」等一定の資格を有する者が行います。

機器点検と総合点検

消防用設備等の点検には、「機器点検」と「総合点検」があります。

機器点検
機器の外観、機能および作動状況の点検。点検の期間は6か月に1回(年2回のうち1回は、「総合点検に重ねてよい)
総合点検
設備全体の作動状況の点検。点検の期間は1年に1回

消防用設備等の報告

点検結果は、特定防火対象物(店舗など不特定多数の人が出入りする建物)については1年に1回、非特定防火対象物(その他の共同住宅等)は3年に1回以上、それぞれ報告します。

防火対象物定期点検報告制度

不特定多数の人が出入り等する一定の防火対象物(特定防火対象物)については、資格者による定期点検を行い、その結果を消防機関へ報告する義務があります。
一方、非特定防火対象物では、消防用設備等の点検報告は必要ですが、防火対象物定期点検は不要です(消防法8条の2の2)。

防火管理者制度

消防法は、防火管理者の制度を設け、人的な面から防火のための仕組みを組み立てています。管理権原者が防火管理者を選任します。

「管理権原者」とは、建物の管理について権原を有する者です。賃貸住宅の場合、賃貸人(所有者)等が管理権原者です。賃貸人(所有者)等が防火管理者を選任し、防火管理業務を行わせる義務があります(消防法8条)。

一定規模以上(収容人員が下記以上)の建物の場合、防火管理者の選任を要します。

特定防火対象物
原則として収容人員30人以上
非特定防火対象物
収容人員50人以上

注意点

  • 消防署への選任届出が義務づけられているのは賃貸人(所有者)である。
  • 共同住宅は、非特定防火対象物と該当するので、収容人員50人以上の場合、防火管理者の選任が必要となる。

防火管理者は一定の資格を有する者の中から選任。甲種と乙種があります。

下図は、甲種防火管理者を設置しなければならない建物です。

甲種防火管理者を設置しなければならない建物

統括防火管理者

高さ31mを超える高層建築物、5階建以上で収容人数50人以上事務所・共同住宅などが混在する複合用途の建築物など(雑居ビル等)については、統括防火管理者の選任等が義務づけられます。

統括防火管理者は、建築物全体の防火管理業務として、建物全体の消防計画の作成、避難訓練の実施、廊下等の共用部分の管理等を行います。

防火管理者の業務

防火管理者の業務には、下記があります。

  1. 消防計画の作成
  2. 消火、通報および避難訓練の実施
  3. 消防用設備等の点検・整備
  4. 火気の使用または取扱いに関する監督
  5. 避難または防火上必要な構造および設備の維持管理
  6. 収容人員の管理
  7. その他防火管理上必要な業務

直通階段

直通階段とは、その階から避難できる階または地上に直通している階段をいいます。

共同住宅では、その階における居室の床面積の合計が100㎡(耐火構造・準耐火構造の場合は200㎡)を超える場合、避難のための直通階段が2つ以上必要です。

また、6階以上の階では、床面積にかかわらず、避難のための直通階段が2つ以上必要です。ただし、居室の面積の合計が100㎡(耐火構造・準耐火構造の場合は200㎡)以下で避難上有効なバルコニーを設ける場合は、屋外避難階段か特別避難階段である直通階段を1つ設置すればよいことになっています。

避難通路の幅

避難のための廊下の幅、両側居室の場合と片側居室の場合の違いの図です。

共同住宅では、住戸の床面積の合計が100㎡を超える階では、片側居室の場合で120cm以上両側に居室のある場合は160㎝以上の廊下の幅が必要です。

避難のための階段の幅、90cm、75cm、120cmの違い

階段の幅は、直上階の居室の床面積の合計が200㎡を超える階のものについては120cm以上それ以外のものは75cm以上屋外階段については90cm以上必要です。

また、屋外への出口または屋外避難階段から道路までは、幅150cm以上の通路が必要です。

非常用照明

非常用照明とは、バッテリーを内蔵した照明器具で、停電時に自動的に点灯するものです。
地上へ至る避難通路となる廊下や階段(外気に開放された部分は除く)には、非常用照明の設置義務があります。

非常用進入口

非常用侵入口が必要な建物の図です。

3階以上の階で高さ31m以下の階には、建築物で火災時に消防隊が外部から進入できるようにするための非常用の進入口が必要です。

ただし、非常用の昇降機を設置している場合、非常用進入口に代わる窓として、各階の外壁面の長さ10m以内ごとに、直径1m以上の円が内接できる大きさ、または幅75cm以上、高さ120cm以上の大きさの窓を設ける方法がとられている場合には、設置しなくてもよいことになっています。

内装制限

内装材料とは、下地材である「ベニヤ板」や「石膏ボード」等と、仕上げ材である「フローリング」や「クッションフロア」等があります。

そして、建物内部の延焼を防ぐため、建物の用途や規模に応じて、内装材料などが制限されています。この制限は、新築時だけではなく、既存建物の内部造作を設置する工事を行う場合にも課されます。内装ではないが、消防法によってカーテンやじゅうたんなどの内装が制限される場合もあります。

防火対策

防火対策としては、ゴミ置き場を含め、共同住宅の周囲を放火できにくい環境に整備する管理が求められます。「放火から家を守るポイント」としては、下記の点が挙げられます。

  • 家の周囲に燃えやすい物(ダンボール、雑誌、新聞紙など)を置かないこと
  • ゴミは夜間に出さず、決められた日の朝に出すこと
  • 放火犯の侵入を防ぐため、門扉や物置、ガレージなどには施錠をすること
  • 車やバイクのボディカバーは不燃性のものを使用すること
  • 建物の周囲や駐車場に、センサーライトなどの照明設備を設置すること

火災発生時に避難通路がふさがれていると、脱出が阻害されます。そのため、管理業者はベランダの物置、廊下の自転車、階段や踊り場にダンボールや空き箱などを見つけたら即座に注意しなければなりません。マンションの住居は、独立性、機密性が高いので、ドアや窓を開けない限り、類焼(他の家から出た火事が広がってきて焼けること)は少ないです。

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