消費者契約法とは
消費者契約法は、「事業者」と「消費者」との間で締結される契約(これを「消費者契約」という)につき、事業者と消費者では、情報の質・量、交渉力に大きな差があるという前提にたち、消費者の利益を護ることを目的として、消費者側に契約を取り消す権利を与え、不当な内容の条項を無効とすることなどを定めている法律です。
「事業者」とは
事業者とは、「法人その他の団体及び事業として又は事業のために契約の当事者となる場合における個人」と定義されます。つまり、当事者が会社等の法人その他の団体であれば事業の目的を問わず、また、個人であっても事業目的で取引する場合には、事業者に該当します。しかも、ここでいう「事業」とは、「一定の目的をもってなされる同種の行為の反復継続的遂行」と理解されるので、不動産賃貸借においては、経営規模や専門的知識の有無を問わず、アパートの賃貸人や投資向けのマンションの賃貸人も事業者に該当します。
「消費者」とは
消費者とは、「個人(事業として又は事業のために契約の当事者となる場合におけるものを除く。)」と定義されます。したがって、当事者が法人である場合、または事業目的で物件を借りる個人である場合は除かれるが、もっぱら居住目的で物件を借りる個人の賃借人はすべて消費者に該当します。
上記の内容から、不動産賃貸借契約においては、「個人が事業目的によらずに賃借人となる場合」が消費者契約に該当し、消費者契約法が適用されます。
消費者契約法による規制
契約の取消し
消費者契約法は、民法上の詐欺とまでいえなくても借受希望者が借り受けるか否かを決める際に影響する重要事項について、事業者が消費者契約の勧誘をするに際し、事実と異なる内容を告げられたり、消費者に不利益な事実を故意に告げられなかったため、その結果、誤認して成約をした場合、消費者は契約を取り消しできるとしています(消費者契約法4条)。
【具体例】 例えば、下記場合には、消費者契約法に基づき、賃貸借契約が取り消される可能性があることになります。
- 貸家の南隣にマンションが建設されることを知りながら「陽当たり良好」とか「静か」と言って販売を行った場合
- 当該部屋で前賃借人が自殺したにもかかわらず、いわゆる心理的瑕疵物件であることをあえて告げずに成約させた場合
- 事業者が広告において、事実と異なる内容を告げたり、消費者に不利益な事実を告げなかった場合
上記の行為については、事業者本人が行った場合だけでなく、契約の締結について媒介を委託された者や、代理人が行った場合にも消費3者である賃借人は契約を取り消すことができるとされている点にも注意が必要です(消費者契約法5条)。
また、消費者(賃借人)が支払う損害賠償額について、消費者契約の解除に伴う損害賠償の予定や違約金の額の合算額が、賃貸借契約の解除事由等に応じて賃貸人(事業者)に生じる「平均的な損害額」を超える場合、その超えた部分は無効となります(消費者契約法9条1号)。
不当条項の無効
消費者契約法は、消費者に不利益をもたらす一定の条項については、その効力が否定されるとしています。つまり、無効となるとしています。
【具体例】 例えば、滞納賃料にかかる遅延損害金の約定のように、消費者契約に基づき支払うべき金銭に係る損害賠償の予定や違約金の額が年14.6%を超えるときには、その超える部分は無効とされます(消費者契約法9条2号)。したがって、仮に賃料の遅延損害金を年18%などと定めていても、この規定により、利率は年14.6%となります。
特約の内容に係る規制
原状回復に係る負担の特約や敷金返還に係る特約などで、それが民法の規定や原状回復ガイドライン、過去の判例等に比べて賃借人に不利であり、それを正当化する理由がないと考えられる場合には、当該特約は無効です。
家賃債務保証業者の追い出し条項
賃貸住宅の賃貸借では、親戚・知人の人的関係の希薄化や、外国人の入居者の増加などを背景に、賃借人が家賃債務保証業者に家賃債務の保証を委託し(家賃債務保証委託契約)、家賃債務保証業者が賃貸人に対して賃借人の債務の保証人となる方式をとる場合が多くなっています。賃借人が賃貸人に賃料を支払わないときには、家賃債務保証業者が賃借人に代わって賃貸人に対して賃料を支払い、これを賃借人に求償することになるため、賃料が支払われないまま、賃借人が建物を使用し続けると、家賃債務保証業者が不利益を受けます。
そのため、家賃債務保証委託契約において、賃料の支払いがなされない場合には、家賃債務保証業者に賃貸借契約を解除する権限を付与し、賃借人が建物を明け渡したものとみなす条項(追い出し条項)が設けられることがあります。
具体的には下記のような条項です。
- 家賃債務保証業者は、賃借人が支払を怠った賃料等及び変動費の合計額が賃料3か月分以上に達したときは、無催告にて原契約(賃貸借契約)を解除することができるものとする。
- 家賃債務保証業者は、賃借人が賃料等の支払を2か月以上怠り、家賃債務保証業者が合理的な手段を尽くしても賃借人本人と連絡がとれない状況の下、電気・ガス・水道の利用状況や郵便物の状況等から本件建物を相当期間利用していないものと認められ、かつ本件建物を再び占有使用しない賃借人の意思が客観的に看取できる事情が存するときは、賃借人が明示的に異議を述べない限り、これをもって本件建物の明渡しがあったものとみなすことができる。
この点について「最判令4.12.12」では、上記2つの条項(特約)は、消費者契約法10条に違反し、無効と判断しています。
1の解除権付与条項が無効となる理由
最高裁では、解除権付与条項については、「所定の賃料等の支払の遅滞が生じた場合、原契約(賃貸借契約)の当事者でもない家賃債務保証業者がその一存で何らの限定なく原契約につき無催告で解除権を行使することができるとするものであるから、賃借人が重大な不利益を被るおそれがあるから」と言っています。
2の明渡しみなし条項が無効となる理由
明渡しみなし条項については「賃借人は、建物に対する使用収益権が一方的に制限されることになる上、建物の明渡義務を負っていないにもかかわらず、家賃債務保証業者が賃借人に対して建物の明渡請求権を有し、これが法律に定める手続によることなく実現されたのと同様の状態に置かれるのであって、著しく不当というべきであるから」と言っています。
消費者団体訴訟制度
消費者契約法は、被害を受けた消費者を個別に、かつ事後的に救済することを可能としたものですが、消費者個人が訴訟提起をしなければならないといった負担があり、また、多数発生するおそれのある同種の被害を事前に防止することは困難です。
そこで、消費者契約法では、事業者の不当行為自体を抑制し、被害の広がりを事前に防止するため、消費者団体訴訟制度が導入されています。
消費者団体訴訟制度とは、一定の要件を満たして内閣総理大臣が認定した消費者団体は、事業者が、消費者契約法に規定する不当勧誘行為および不当な契約条項を含む消費者契約の申込みまたは承諾行為を、不特定かつ多数の消費者に対し、現に行われている場合または行われるおそれのあるときには、当該事業者に対し、それらの行為の差止めを請求できる制度です。
消費者団体訴訟ができるのは差止請求のみであり、損害賠償請求などは認められません。また、適格消費者団体が差止請求の訴えを提起したり、仮処分の申立てをするには、相手方事業者に対して、あらかじめ書面による差止請求を行い、その到達後1週間が経過するか、相手方が差止請求を拒んだ場合でなければならないとされています(消費者契約法23条)。
消費者裁判手続特例法
消費者契約法に関連して、消費者の財産的被害の集団的な回復のための民事の裁判手続の特例に関する法律(通称「消費者裁判手続特例法」)が制定され、2016(平成28)年10月1日から施行されています。
この法律は、消費者契約に関して相当多数の消費者に生じた財産的被害について、適格消費者団体のうちから、さらに内閣総理大臣により認定を受けた「特定適格消費者団体」が、事業者に対し、事業者が消費者に金銭を支払うべき義務があることの確認を求める訴え(共通義務確認の訴え)を提起できることとし、その訴訟手続の特例等を定めています。
賃貸借契約において、賃借人側に生じうる財産的損害(原状回復費用の問題等)は、個々の物件、個々の契約ごとに、その有無および内容は異なることから、ただちに当該制度の対象とはなりません。