家賃債務保証業者登録制度

家賃債務保証業者とは

住宅の賃貸借は、賃借人が賃貸人が所有する建物をその生活の場として利用するための契約です。いったん契約を締結すると、その関係は一時的なものにとどまらず、長期間にわたって継続します。賃貸借契約の多くは、面識のなかった者同士が行います。そのため、本来は契約締結に向けて入念な審査が必要であるが、実際には、契約を締結するかどうかの判断には、短い時間しかかけられません

さらに、住宅が賃借人の生活の基盤をなすものであることから、法律上、賃借人に厚い保護が与えられています。具体的には、賃貸人からみると、賃借人に賃料不払などの債務不履行があっても、信頼関係破壊に至らなければ賃貸人は契約解除はできず、明渡しを求めることも容易ではありません。

そのような状況のもと、住宅の賃貸借では、一般に、賃借人の賃料債務を担保するために、賃貸借契約締結と同時に、「賃貸人と保証人」との間で「保証契約を締結」する方法が採られています。かつては、住宅を賃借するにあたっては、ほとんどの場合に、賃借人との人的な関係がある親戚や知人が保証人になっていました。

しかし現代社会では、親戚や知人の関係が希薄になり、また外国人が賃借人になることも増えてきているために、保証をしてもらえる親戚や知人がいない場合も多いです。そうすると、賃貸人が契約締結をためらうこともあると考えられます。

そこで、賃貸借に基づく賃借人の賃料債務について、親戚や知人という人的な関係によるのではなく、保証料を得たうえで保証を行う事業が始まりました。このような事業を行うのが「家賃債務保証業者」です。

家賃債務保証業者が保証をすることによって、賃貸人は安心して賃借人に住宅を賃貸することができ、賃借人にとっては、保証人になってくれる親戚や知人がいなくても賃借をすることができるようになります。近年では、家賃債務保証業者の保証を得ることによって住宅の賃貸借がなされることが多くなっています

家賃債務保証業者登録制度の創設と目的

国土交通省は2017(平成29)年10月、住宅確保要配慮者に対する賃貸住宅の供給の促進に関する法律(住宅セーフティネット法)の改正に伴って、家賃債務保証業者の登録規程を策定し、家賃債務保証業者の登録制度を創設しました(以下、規程に基づく制度を、「登録制度」という)。この登録制度は、家賃債務保証を業として営む者の登録に関し、必要な事項を定めることにより、業務の適正な運営を確保し、もって賃貸住宅の賃借人の利益の保護を図るとともに、家賃債務保証業の健全な発達に寄与することを目的としています(規程第1条)。

家賃債務保証業は、賃貸住宅の賃借人の委託を受けて賃借人の家賃の支払に係る債務(家賃債務)を保証することを業として行うことと定義されています(規程第2条第1項)。家賃債務保証業を営む者は、国土交通大臣の登録を受けることができます(規程第3条第1項)。登録を受けた事業者(登録事業者)は、公開されるため、その事業者が法の定める登録要件を満たしていること、ルールに沿って重要事項説明や書面交付、財産の分別管理を適切に行っていることなどが一般に明らかになり、これをもって、賃貸人や賃借人が保証契約の締結や物件選択の判断に活用することが可能となる仕組みとなっています。公営住宅における家賃債務保証も制度の対象です。

また、住宅セーフティネット法と関連し、国や居住支援協議会等による登録事業者に関する情報提供がなされ、登録事業者(家賃債務保証業者)が住宅確保要配慮者に対して保証をする場合には、独立行政法人住宅金融支援機構による家賃債務保証保険の対象となるなど、登録事業者のサービスの利用の促進や保証リスクの軽減措置も講じられています。分かりやすくいえば登録事業者が住宅金融支援機構に保険料を支払い、万一、賃借人に未払いが生じ、登録事業者が代位弁済をし、その後、賃借人が登録事業者に弁済をしない場合、住宅金融支援機構が、登録事業者に対して保険金を支払うといった内容です。

注意点

  • 登録制度の利用は任意であり、登録を受けなくても家賃債務保証業を営むことは可能です。
  • 登録を受けていることによって何らかの特別の保証が与えられるものでもありません。
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監督

国土交通大臣は、家賃債務保証業の業務の適正な運営を確保するために必要な限度において、登録事業者に対し、業務の状況に関し報告または資料の提出を求めることができ(規程第26条)、業務における遵守事項に違反した場合などには、指導、助言、勧告がなされます(規程第27条第1項)。指導、助言、勧告については、公表されることもあります(規程第27条第2項)。

登録の取消し

国土交通大臣は、登録事業者が次の各号のいずれかに該当する場合においては、登録を取り消します(規程第28条第1項)。

  • 欠格事由のいずれかに該当するに至ったとき、又は登録の時点において欠格のいずれかに該当していたことが判明したとき
  • 不正の手段により登録を受けたとき
  • 正当な理由なく登録事項を国土交通大臣に届け出ず、又は虚偽の届出をしたとき
  • 暴力団員等の使用の禁止に違反したとき
  • 正当な理由なく業務及び財産の管理状況の国土交通大臣に対する報告をせず、又は虚偽の報告をしたとき
  • 国土交通大臣の資料提出、報告の求めに対し、正当な理由なくこれに応じず、又は虚偽の報告、資料の提出をしたとき
  • 業務の遵守事項のいずれかに違反し情状が特に重いとき、又は国土交通大臣の指導、助言及び勧告に従わなかったとき
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国土交通大臣は、登録の取消しをしたときは、その旨を公表し(規程第28条第2項)、本人に通知します(規程第28条第3項)。

登録の抹消

国土交通大臣は、登録事業者について登録の期間満了廃業等により登録が効力を失ったとき、または登録を取り消したときは、登録を抹消します(規程第29条)。

登錄

登録制度のもとにおいて、家賃債務保証業を営む者は、国土交通大臣の登録を受けることができます(規程第3条第1項)。必要事項を記載した書面を提出した場合、登録の欠格事由に該当することがなければ、登録がなされます。登録は法人単位であり、登録は本社についてなされます。

登録の有効期間は5年です(規程第3条第2項)。登録の更新がされたときは、従前の登録の有効期間の満了の日の翌日からさらに5年間継続します(規程第3条第3項、第4項)。

登録の欠格事由

登録の欠格事由は下記のとおりです(規程第6条第1項)。

  • 破産手続開始の決定を受けて復権を得ない者
  • 登録を取り消され、その取消しの日から5年を経過しない者(登録を取り消された者が法人である場合においては、取消しの日前30日以内に法人の役員であった者で取消しの日から5年を経過しないものを含む)
  • 禁錮以上の刑に処せられ、その刑の執行を終わり、又は刑の執行を受けることがなくなった日から5年を経過しない者
  • 暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律の規定に違反し、又は債権の取立てにあたり、貸金業法の規定に違反し、若しくは刑法若しくは暴力行為等処罰に関する法律の罪を犯し、罰金の刑に処せられ、その刑の執行を終わり、又は刑の執行を受けることがなくなった日から5年を経過しない者
  • 暴力団員等(暴力団員又は暴力団員でなくなった日から5年を経過しない者)
  • 家賃債務保証業に関し不正又は不誠実な行為をするおそれのあると認めるに足りる相当の理由がある者
  • 精神の機能の障害により家賃債務保証業を適正に行うに当たって必要な認知、判断及び意思疎通を適切に行うことができない者
  • 営業に関し成年者と同一の行為能力を有しない未成年者でその法定代理人が1から7までのいずれかに該当するもの
  • 法人でその役員又は使用人のうちに1から7までのいずれかに該当する者のあるもの
  • 個人でその使用人のうちに1から7までのいずれかに該当する者のあるもの
  • 暴力団員等がその事業活動を支配する者
  • 暴力団員等をその業務に従事させ、又はその業務の補助者として使用するおそれのある者
  • 純資産額が1,000万円に満たない者
  • 法人である場合、定款の内容が法令に適合していない
  • 民法及び個人情報の保護に関する法律等の家賃債務保証の実施に関する法令等を遵守させるために必要な研修その他の措置が講じられていない
  • 求償権の行使方法が適切でない
  • 家賃債務保証業に関する相談又は苦情に応ずるための体制が整備されていない
  • 法人である場合、家賃債務保証業の業務を5年以上継続して行っていない、かつ、常務に従事する役員のうちに、家賃債務保証業の業務に3年以上従事した経験を有する者がいない
  • 個人である場合、その者が家賃債務保証業の業務に3年以上従事した経験を有しない
  • 使用人が家賃債務保証業の業務に1年以上従事した経験を有しない

登録簿の閲覧

登録の申請があったときは、欠格事由がなければ、登録簿に家賃債務保証業者の登録がなされます(規程第5条第1項)。

登録簿は一般の閲覧に供されます(規程第8条)。添付書類は閲覧の対象ではありません。

帳簿の閲覧

家賃債務保証業者は、営業所または事務所ごとに、業務に関する帳簿を備え付け保存しなければならなりません(規程第20条)。賃借人等または賃借人等であった者は、家賃債務保証業者に対し、この帳簿(これらの者の利害に関係がある部分に限る)の閲覧または謄写を請求することができます。この場合において、家賃債務保証業者は、その請求が請求を行った者の権利の行使に関する調査を目的とするものでないことが明らかであるときを除き、請求を拒むことができません(規程第21条)。権利の行使に関する調査とは、閲覧請求者自身の支払状況や契約関係を確認することが想定されています。

閲覧の対象となる書類は、法で定める帳簿です。ただし、登録業者の判断でこれ以外の書類の開示請求を認めることも可能です。

帳簿の閲覧または謄写を有料とすることもできます。しかし、料金を著しく高額に設定することは規程の趣旨から外れることになり、認められません。

なお、家賃債務保証業者は、業務および財産の管理状況を、国土交通大臣に報告しなければならないものとされていますが(規程第25条)、この報告内容については、閲覧請求の対象とはされていません。

契約締結前の書面の交付及び説明

家賃債務保証業者は、保証委託契約を締結しようとする場合には、保証委託契約を締結するまでに書面または電磁的記録を交付して、重要事項の説明をしなければなりません(規程第17条第1項)。説明とは、対面、電話、テレビ電話等により内容を伝えることです。書類を手交(手渡し)する、あるいはメールや郵送で送付するだけでは、説明したことにはなりません。説明事項の記載された書面または電磁的記録を相手方に交付し、それに基づいて口頭で説明をすることが必要です。

必要な重要事項が記載されていれば、重要事項を説明するため書面と契約締結時の書面を兼ねることは可能です。説明すべき重要事項は次のとおりです。

  • 家賃債務保証業者の商号、名称又は氏名、住所及び電話番号
  • 登録番号・登録年月日
  • 保証期間
  • 保証の範囲
  • 保証の限度額
  • 保証委託料(保証委託契約を更新する場合における料金を含む)
  • 保証委託契約の契約期間の中途において保証委託契約の解除をすることとなった場合における保証料の返還に関する事項(返還がない場合はその旨)
  • 求償権の行使方法に関する事項
  • 事前求償に関する定めがあるときは、その定めの内容
  • 違約金又は損害賠償の額に関する定めがあるときは、その定めの内容

重要事項を説明したり、あるいは契約を締結する場所についての制限はなく、必ずしも店舗や事務所で説明する必要はありません重要事項は、事前に行うことをもって足りるのであり、契約日と同一の日であっても構いません

家賃債務保証業者は、この説明をしたときは、その結果を記録し、保証委託契約の終了の日から起算して3月を経過する日までの間、保存しなければなりません。ただし、保証委託契約を結ぶに至らなかった場合は、保存不要です(規程第17条第2項)。

重要事項の説明を仲介業者など他の業者に委託することもできます。委託先が登録業者である必要はありません。ただし、家賃債務保証業の業務を他の者に委託する場合についても登録業者に説明義務があります(規程第17条第3項)。つまり、説明に不備があれば登録業者の責任になります。

なお、登録制度には賃貸不動産経営管理士や宅地建物取引士のような資格制度はなく、説明をする者について特段の制限はありません。つまり、誰が説明しても構いません。

契約締結時の書面の交付

家賃債務保証業者は、保証委託契約を締結した場合には、遅滞なく、下記事項についてその内容を明らかにする書面をその相手方に交付しなければなるません。書面に記載した事項を変更したときも、同様に遅滞なく書面交付が必要です(規程第18条)。

  • 家賃債務保証業者の商号、名称又は氏名、住所及び電話番号
  • 登録番号・登録年月日
  • 契約年月日
  • 保証期間
  • 保証の範囲
  • 保証の限度額
  • 保証委託料
  • 保証委託契約の契約期間の中途において保証委託契約の解除をすることとなった場合における保証料の返還に関する事項
  • 求償権の行使方法に関する事項
  • 事前求償に関する定めがあるときは、その定めの内容
  • 違約金又は損害賠償の額に関する定めがあるときは、その定めの内容

求償権の行使時の書面の交付等

家賃債務保証業者は、賃借人またはその保証人(賃借人等)に対し、支払いを催告するために書面またはこれに代わる電磁的記録を送付するときは、これらに下記事項を記載し、または記録しなければなりません(規程第19条第1項)。

  • 家賃債務保証業者の商号、名称又は氏名及び住所並びに電話番号
  • 当該書面又は電磁的記録を送付する者の氏名
  • 保証委託契約の契約年月日
  • 求償権の額及びその内訳

このほか、家賃債務保証業者は、求償権を行使するにあたり、相手方の請求があったときは、家賃債務保証業者の商号、名称または氏名および当該求償権に基づく債権の回収を行う者の氏名を、その相手方に明らかにしなければなりません(規程第19条第2項)。

業務における遵守事項

家賃債務保証業者は、下記事項を遵守し、業務を行わなければなりません。

名義貸しの禁止

自己の名義をもって、他人に家賃債務保証業を営ませてはなりません(規程第10条)。

業務処理の原則

賃借人その他の者の権利利益を侵害することがないよう、適正にその業務を行わなければなりません(規程第11条)。これは、業務処理の一般原則であり、その他の者とは、家賃保証業に関連するすべての関係者です。

証明書の携帯等

家賃債務保証業の業務に従事する使用人その他の従業者に、その従業者であることを証する証明書を携帯させなければ、その者をその業務に従事させてはなりません(規程第12条第1項)。証明書の携帯義務は、代表者、役員、一般社員、派遣社員など、業務を執行するすべての者を含みます。他の業務を兼務している従業員も、証明書を携帯しなければなりません。家賃債務保証委託契約の締結の取次ぎなどの委任先である仲介会社などの従業員は範囲外です。

証明書は登録業者であることおよびその従業員であることがわかるものであれば足り、既存の従業者証明書で構いません。宅地建物取引業法に基づく従業者証明書を用いることも可能です。

家賃債務保証業者の使用人その他の従業者は、家賃債務保証業の業務を行うに際し、賃借人その他の関係者から請求があったときは、上記証明書を提示しなければなりません(規程第12条第2項)。

暴力団員等の使用の禁止

暴力団員等をその業務に従事させ、またはその業務の補助者として使用してはなりません(規程第13条)。

虚偽告知等の禁止

保証委託契約の締結について勧誘をするに際し、または保証委託契約の申込みの撤回もしくは解除を妨げるため、賃借人またはその保証人(賃借人またはその保証人となろうとする者を含む)に対虚偽のことを告げ、または保証委託契約の内容のうち重要な事項を告げない行為をしてはなりません(規程第14条)。
【具体例】 例えば、勧誘において、家賃債務保証契約の更新料が必要であるにもかかわらず、永久保証で安心などと説明する行為が、虚偽告知に該当します。

誇大広告等の禁止

その家賃債務保証業の業務に関して広告をするときは、保証の条件について、著しく事実に相違する表示をし、または実際のものよりも著しく有利であると人を誤認させるような表示をしてはなりません(規程第15条)。
【具体例】 例えば、実際には家賃債務保証業者から賃借人に求償がなされるのに、家賃滞納があっても賃借人には求償されないかのように表示する行為が、これに該当します。

契約の締結の制限

保証委託契約において、保証債務の弁済により有することとなる求償権に基づき、賃借人またはその保証人が支払うべき損害賠償の額を予定し、または違約金を定める場合は、年率14.6%を超えて定めてはいけません(規程第16条)。

標識の掲示

「営業所または事務所」ごとに、公衆の見やすい場所に、標識を掲げなければなりません(規程第22条第1項)。

なお、登録を受けていない者は、標識またはこれに類似する標識を掲げてはなりません(規程第22条第2項)。

求償権の譲渡の規制等

求償権を他人に譲渡するにあたっては、求償権に基づく債権の債務者に対し、下記事項を通知しなければなりません(規程第23条)。

  • 求償権を譲り受けた者及び求償権に係る保証委託契約を締結した家賃債務保証業者の商号、名称又は氏名及び住所
  • 求償権の譲受年月日
  • 求償権に係る保証委託契約の締結年月日
  • 譲渡する求償権の額及びその内訳
  • 違約金又は損害賠償の額に関する定めがあるときは、その定めの内容
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求償権の譲渡または求償権に基づく債権の回収の委託(求償権譲渡等)をしようとする場合において、その相手方が「①下記事項のいずれかに該当する者(債権回収制限者)であることを知り」、もしくは「②債権回収制限者であると疑うに足りる相当な理由があると認めるとき」、または「③求償権譲渡等の後、債権回収制限者が求償権について求償譲渡等を受けることを知り」、もしくは「④受けると疑うに足りる相当な理由があると認めるとき」は、求償権譲渡等をしてはなりません(規程第23条第2項)。

  • 暴力団員等
  • 暴力団員等がその運営を支配する法人その他の団体又は法人その他の団体の役員、従業者その他の構成員
  • 求償権に基づく債権の回収に当たり、刑法又は暴力行為等処罰に関する法律の罪を犯すおそれが明らかである者

なお、第三者への対抗要件を備えるための債権譲渡登記では、求償権の譲渡の際の通知とは認められません。求償権の譲渡の際の通知は、求償権に基づく債権の債務者への通知をすることが必要です。

分別管理

賃貸人に支払うべき家賃その他の金銭を賃借人から受領した場合には、自己の固有財産と分別して管理しなければなりません(規程第24条)。

国土交通大臣への報告

毎事業年度の終了後3月以内に、その業務および財産の管理状況を国土交通大臣に報告しなければなりません(規程第25条)。報告書類としては、一定の財産的基礎を備えているかどうかを確認するために、貸借対照表および損益計算書の提出が必要です。

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