委任契約の成立
委任契約は、委任者が法律行為をすることを受任者に委託し、受任者がこれを承諾することによって成立する契約です(民法643条)。一方、委託の内容が、法律行為ではない事務の委託(事実行為)である場合を準委任といいます(民法656条)。
法律行為とは?
法律行為とは、当事者の意思表示に基づいて法律効果(権利や義務)を発生させる行為です。
【具体例】 例えば、建物の所有者(売主)が、買主に対して、「この建物を売りますよ!」と意思表示をして、買主が「この建物を買います!」と意思表示をした場合、この2つの意思表示により、売主は、「建物を買主に引き渡す義務」と「建物の代金を請求できる権利」が発生し、買主は、「建物を売主に引き渡すよう請求できる権利」と「建物の代金を支払う義務」が発生します。つまり、上記売買契約は、法律行為に当たります。
事実行為とは?
事実行為とは、意思表示によらずに法律効果を発生させる行為です。
【具体例】 例えば、遺失物(落とし物)の拾う行為です。落とし物を拾って警察署に届出をし、警察が落とし物について公告(市民に伝える)してから3か月経過しても持ち主が現れない場合、拾った人のモノになります。つまり、意思表示をしなくても、落とし物の所有権を取得する(法律効果が発生する)ので、事実行為となります。
そして、委任契約は、賃貸人と管理業者の合意で成立する諾成契約です。民法上、書面で契約締結をしなくても委任契約は有効です。しかし、賃貸住宅管理業法では、管理業者は、管理受託契約を締結したときは、管理業務を委託する賃貸住宅の賃貸人(委託者)に対し、遅滞なく、必要事項を記載した書面(管理受託契約書)を交付しなければなりません(賃貸住宅管理業法14条1項)。
委任と請負との違い
他人に対して何かの行為を依頼する契約類型(契約方法)として、民法では、委任以外にも請負および雇用を定めています。今回は、賃貸管理士試験でもよく出題される、請負契約と比較して解説します。
請負を委任と比較すると、請負は仕事の完成を目的としているが(民法632条)、委任は仕事の完成ではなく、「法律行為または事実行為をすること」を委託している(任せている)点で異なります(委託されたことの完成は、契約内容ではない)。
受任者の義務
受任者とは、仕事を任された人を指します。逆に、委任者とは、仕事を任せた人を指します。そして、受任者(仕事を任された人)が負う義務には下記があります。
- 善管注意義務
- 自己執行義務
- 報告義務
- 受取物の引渡義務
善管注意義務
民法は「受任者は、委任の本旨に従い、善良な管理者の注意をもって、委任事務を処理する義務を負う」(民法644条)と定めており、これは「善管注意義務」と呼ばれています。分かりやすく言うと、「他人のモノと思って、より慎重に取り扱いなさい!」という義務です。
委任契約では、委任者は、受任者を信頼して委任事務の処理を委託しています。そのため、受任者は、「自らの財産を管理するのと同一の注意」をもって管理するのでは足りず、他人のものと思って、大切に扱いなさい!という善良な管理者の注意をもって管理することが求められています。
自己の財産に対するのと同一の注意義務とは
自己の財産に対するのと同一の注意義務とは、善管注意義務よりも易しい義務であり、自分のモノと思って管理すればよいという義務です。
注意点
自己執行義務
「執行」とは、あることを行う・実施するという意味です。つまり、自己執行義務とは、分かりやすくいうと「受任者が、任された仕事を自分で行う義務」という意味合いです。
委任契約は、委任者は受任者を信頼して委任事務の処理を委任しています。そのため、受任者は、原則として、自ら委任事務の処理を行わなければなりません。委任者の承諾なく無断で第三者に業務を再委託することは委任者の信頼に反することになります。
ただし、賃貸住宅管理の場合、委任事務の中には「入居者(賃借人)の募集」や「建物・設備の維持」等、すべての業務を受任者(管理業者)が行うことも現実的ではないこともあります。
そこで、受任者(管理業者)は、委任者(建物所有者)の承諾を得て、第三者に委任事務を再委任することができるルールにしています。
民法では、「受任者は、委任者の許諾を得たとき、又はやむを得ない事由があるときでなければ、復受任者を選任することができない」(民法644条の2第1項)と規定しており、上記内容と矛盾しません。
また、「受任者(管理業者)が、復受任者(第三者)を選任したときは、復受任者は、委任者に対して、その権限の範囲内において、受任者と同一の権利を有し、義務を負う(同条第2項)との定めています。
【具体例】 例えば、管理業者が、建物所有者から、エレベーターの管理を委任され、管理業者が建物所有者の承諾を得て、「エレベーター管理会社」を復受任者に選任したときは、「エレベーター管理会社」は受任者(管理会社)が行える範囲でエレベーターの管理を行うことができ、また、管理を行う義務を負います。
報告義務
受任者は、委任者の請求があれば、いつでも委任事務の処理の状況を報告しなければならず、委任の終了後は遅滞なく処理した内容を報告しなければなりません(民法645条)。
このルールに対応して、賃貸住宅管理業者にも、賃貸人に対し事務の報告義務があます。賃貸住宅管理業法では、「賃貸住宅管理業者は、管理業務の実施状況その他の国土交通省令で定める事項について、1年に1回以上、委託者に報告しなければならない」とされています(賃貸住宅管理業法20条、施行規則40条)。
受取物の引渡義務
受任者は、委任事務を処理するにあたって受け取った「金銭その他の物」を委任者に引き渡さなければならず、果実を受け取った場合も同様に委任者に引き渡さなければなりません(民法646条)。
賃貸住宅管理では、「集金した賃料(金銭)」を賃貸人に引き渡す義務あります。また、「果実」とは、例えば「未払い賃料から発生した利息」です。この利息も賃貸人に引渡す義務があります。
委任契約における報酬
報酬請求権
委任契約は、民法上、無償が原則です。つまり、特約がない限り、受任者は、委任者に報酬を請求することができません。(民法648条1項)。特約を付ければ、特約に基づいて報酬を請求することができます。
しかし、管理業者の場合、商法の規定により、管理受託契約において報酬について特約がなくても、相当な報酬を請求することが可能です。
商人(管理業者)が営業の範囲において他人のためにある行為をなしたときは、相当な報酬を請求することができるとしている(商法512条)。
報酬の支払時期
報酬の支払時期は、後払いが原則です(民法648条2項本文)。つまり、受任者(管理業者)は委任事務を履行した後に報酬を請求することができます。ただし、報酬を支払う期間を定めた場合は、その期間が経過した後であれば報酬を請求することができます(民法648条2項ただし書き)。
委任事務が中途で終了した場合の報酬
民法では、委任事務が中途で終了した場合であっても、委任者の責めに帰することができない事由(委任者の責任ではない事柄)によって①委任事務の履行をすることができなくなったとき、および、②委任が履行の中途で終了したときには、受任者は、すでにした履行の割合に応じて報酬を請求することができます(民法648条3項)。
一方、委任者の責に帰するべき事由(委任者の責任)によって委任事務の履行ができなくなったときは、受任者は報酬の全額を請求することができます(民法536条2項前段)。
この点は理解していただきたい部分なので、個別指導で解説します。
費用の前払請求権、費用の償還請求権
「委任事務を処理することについて費用」を要するときは、受任者は委任者に費用の前払いを請求することができ、委任者は費用を前払いしなければなりません(民法649条)。そして、受任者が委任事務を処理するために必要な費用を支出したときは、委任者に対し、その「費用」および「支出の日以後の利息」を請求することができます(民法650条1項)。
【具体例】 例えば、東京の管理業者に「沖縄にある建物」の管理を任した場合、管理に当たって交通費などがかかります。この費用は、「委任事務を処理することについて費用」にあたり、委任者に前払い請求ができます。もし、管理業者が立て替えた場合、利息についても委任者に請求できます。
また、受任者は、委任事務を処理するのに必要と認められる債務を負担した場合、委任者に対して、自己に代わってその弁済をすることを請求することができます(民法650条2項)。
【具体例】 例えば、 建物の管理業者が、建物の屋根が壊れたため、修理会社と「屋根の修繕契約」をした場合
委任者に対して「修理費用は、委任者であるあなたが支払ってください」と請求することができます。
委任の終了
委任契約が終了する原因には、「当事者の一方が、解除の意思表示をする場合」や「一定事由に該当した場合自動的に委任契約する場合」があります。
委任の解除
委任契約は、当事者間の信頼関係に基づく契約です。そのため、当事者間に信頼関係が失われた場合には、各当事者はいつでも委任契約を解除できます(民法651条1項本文)。そして、委任を解除した者は、①相手方に不利な時期に委任を解除したとき、および、②委任者が受任者の利益(専ら報酬を得ることによるものを除く)をも目的とする委任を解除したときには、相手方に対して損害賠償しなければなりません(民法651条2項本文)。ただし、①②に該当する場合であっても、やむを得ない事由があったときは、損害賠償しなくてもよいです(民法651条1項ただし書き)。
この点は難しい部分なので、個別指導で解説します!
そして、委任契約を解除した場合、その解除に遡及効はありません(民法652条、同法620条)。
【具体例】 例えば、建物管理の委任契約を締結して、管理業者が1か月間管理をしたとします。その後、解除した場合、1か月前の状況に戻して、寛喜業者は管理をしなかったことにすることはできません。つまり、「1か月前の状況に戻らない=遡及しない=遡及効はない」ということです。ここから分かることは、管理業者(受任者)は、委任者に対して1か月分の管理料は請求できるということです。
委任契約の終了事由
委任契約は、下記事由に該当するとき、当然に(自働的に)終了します(民法653条)。
- 委任者または受任者が死亡したとき
- 委任者または受任者が破産手続開始の決定を受けたとき
- 受任者が後見開始の審判を受けたとき
上記の通り、上記事由に該当するとき、自動的に委任契約はするので、委任者または受任者からの解約申入れ等は不要です。ただし、委任終了の事由は、相手方に通知し、または相手方がこれを知ったときでなければ、相手方に対抗することができません(委任契約の終了を主張できない)(民法655条)。
委任終了後の処分
委任終了の場合において、急迫の事情があるときは、「受任者、その相続人または法定代理人」は、「委任者、その相続人もしくは法定代理人」が委任事務を処理することができるようになるまでは、必要な処分をしなければなりません(民法654条)。
【具体例】 例えば、個人で行っている管理業者が死亡した場合、委任者(建物所有者)が任せた仕事ができるようになるまで、その相続人が、管理業者の代わりに委任事務(仕事)をこなさないといけません。実務的には、管理の仕方などを管理業者の相続人が建物所有者に教えればよいでしょう。