賃貸住宅管理業者は、依頼者の期待を裏切らないよう、誠実にその業務を行わなければなりません(10条)。賃貸住宅管理業者は、自己の名義をもって、他人に賃貸住宅管理業を営ませてはなりません。名義貸しは禁止です(11条)。分かりやすく言えば、賃貸管理業者Aが、他人Bに名義貸しを行い、Bが「私は賃貸管理業者Aです!」と名乗って賃貸管理業を行うことはダメだということです。
業務管理者の選任義務
賃貸住宅管理業者は、その営業所又は事務所ごとに、1人以上の業務管理者を選任しなければなりません。そして、業務管理者は、下記事項について管理及び監督する事務を行います(12条1項)。
業務管理者が管理・監督すべき事項
- 管理受託契約の締結前の書面の交付及び説明に関する事項(13条)
- 管理受託契約の締結時の書面の交付に関する事項(14条)
- 管理業務として行う賃貸住宅の維持保全の実施に関する事項及び賃貸住宅に係る家賃、敷金、共益費その他の金銭の管理に関する事項
- 帳簿の備付け等に関する事項(18条)
- 定期報告に関する事項(20条)
- 秘密の保持に関する事項(21条)
- 賃貸住宅の入居者からの苦情の処理に関する事項等
業務管理者が欠員した場合どうなるか
賃貸住宅管理業者は、その営業所若しくは事務所の業務管理者の全てが登録拒否事由のいずれかに該当し、又は選任した者の全てが退職したときは、新たに業務管理者を選任するまでの間は、その営業所又は事務所において、新規の管理受託契約締結は禁止です(12条2項)。
そして、業務管理者は、他の営業所又は事務所の業務管理者となることができません(12条3項)。例えば、東京支店の業務管理者が退職したから、大阪支店の業務管理者が東京支店の業務管理者も兼任する、ということはできません。
業務管理者の要件
業務管理者になるためには、まず、登録拒否事由に該当しないことは当然です。それ以外にも下記、1と2を同時に満たすものでないといけません。
- 「(A)管理業務に関し2年以上の実務の経験を有する者」又は「(B)国土交通大臣がその実務の経験を有する者と同等以上の能力を有すると認めた者」
- 「(a)登録証明事業による証明を受けている者(賃貸不動産経営管理士試験に合格して登録を受けた者)」又は「(b)宅地建物取引士で、国土交通大臣が指定する管理業務に関する実務についての講習を修了した者」
つまり、業務管理者になる組み合わせとしては下記4つのパターンがあります。
- A+a
- B+a
- A+b
- B+b
管理受託契約の締結前書面の交付
賃貸住宅管理業者は、管理受託契約を締結しようとするときは、原則、管理業務を委託しようとする賃貸住宅の賃貸人に対し、当該管理受託契約を締結するまでに、管理受託契約の内容及びその履行に関する一定事項を記載した書面を交付して説明しなければなりません(13条1項本文)。
管理受託契約締結前書面の記載事項
- 賃貸住宅管理業者の商号、名称又は氏名並びに登録年月日及び登録番号
- 管理業務の対象となる賃貸住宅
- 管理業務の内容
- 管理業務の実施方法
- 契約期間に関する事項
- 報酬の額並びにその支払の時期及び方法
- 報酬に含まれていない管理業務に関する費用であって、賃貸住宅管理業者が通常必要とするもの
- 委託者への報告に関する事項
- 賃貸住宅の入居者に対する管理業務の内容及び実施方法の周知に関する事項
- 契約の更新又は解除に関する事項
- 管理業務の一部の再委託に関する事項
- 責任及び免責に関する事項
ただし、例外として、賃貸人が、「賃貸住宅管理業者である者」その他の「管理業務に係る専門的知識及び経験を有すると認められる者」の場合は、管理受託契約締結前書面の交付及び説明は不要です。
管理業務に係る専門的知識及び経験を有すると認められる者とは
- 賃貸住宅管理業者
- 特定転貸事業者
- 宅地建物取引業者
- 特定目的会社
- 組合
- 賃貸住宅に係る信託の受託者
- 独立行政法人都市再生機構
- 地方住宅供給公社
賃貸人が、上記1~8のいずれかに該当する場合、管理受託契約締結前書面の交付及び説明は不要です。
管理受託契約の締結前書面は電子書面でもよい
賃貸住宅管理業者は、管理受託契約の締結前書面の交付に代えて、管理業務を委託しようとする賃貸住宅の賃貸人の承諾を得て、当該書面に記載すべき事項を電磁的方法(電子メール、WEB でのダウンロード、CD-ROM 等)により提供することができます(13条2項)。
そして、賃貸人からの承諾は、記録に残る方法(書面、電子メール、WEB でのダウンロード、CD-ROM 等)で得ることが必要です。
管理受託契約締結時の書面の交付
賃貸住宅管理業者は、管理受託契約を締結したときは、管理業務を委託する賃貸住宅の賃貸人(委託者)に対し、遅滞なく、下記事項を記載した書面を交付しなければなりません(14条1項)。
管理受託契約締結時書面の記載事項
- 賃貸住宅管理業者の商号、名称又は氏名並びに登録年月日及び登録番号
- 管理業務の対象となる賃貸住宅
- 管理業務の内容
- 管理業務の実施方法
- 契約期間に関する事項
- 報酬に関する事項
- 委託者への報告に関する事項
- 賃貸住宅の入居者に対する管理業務の内容及び実施方法の周知に関する事項
- 契約の更新又は解除に関する定めがあるときは、その内容
- 管理業務の一部の再委託に関する定めがあるときは、その内容
- 責任及び免責に関する定めがあるときは、その内容
管理受託契約の締結時書面は電子書面でもよい
賃貸住宅管理業者は、管理受託契約の締結時書面の交付に代えて、管理業務を委託しようとする賃貸住宅の賃貸人の承諾を得て、当該書面に記載すべき事項を電磁的方法(電子メール、WEB でのダウンロード、CD-ROM 等)により提供することができます(14条2項)。
そして、賃貸人からの承諾は、記録に残る方法(書面、電子メール、WEB でのダウンロード、CD-ROM 等)で得ることが必要です。
これは、締結前書面と同様のルールです。
管理業務の再委託の禁止
賃貸住宅管理業者は、委託者から委託を受けた管理業務の全部を他の者に対し、再委託してはいけません(15条)。一部だけ再委託することは法律違反にはならないので可能です。
お金の分別管理
賃貸住宅管理業者は、管理受託契約に基づく管理業務において受領する家賃、敷金、共益費その他の金銭を、整然と管理する方法により、自己の固有財産及び他の管理受託契約に基づく管理業務において受領する家賃、敷金、共益費その他の金銭と分別して管理しなければなりません(16条)。つまり、「自己の固有財産」と「管理業務において受領する金銭」を分別しておけばよいです。分かりやすく言うと、「報酬を受けたり、給料を支払ったりする口座」と「オーナーに渡すための家賃・管理費の管理口座」を分けて管理しなさい、ということです。
ちなみに、管理契約ごとに口座を分別する必要はないですし、賃貸人ごとに口座を分別する必要もありません。
また、「家賃等管理口座」に家賃を全額入金してもらい、その中から、管理費用として一定額を「自己固有財産口座」に移し替えることも可能です。この場合、一時的に、賃貸住宅管理業者の自己の財産である管理費用が「家賃等管理口座」に預けられている状態になりますが、これは違反しません。速やかに、「自己固有財産口座」に移し替えればよいです。
従業者証明書を携帯させる義務
賃貸住宅管理業者は、その業務に従事する使用人(社長)その他の従業者(従業員)に、その従業者であることを証する証明書を携帯させなければ、その者をその業務に従事させてはなりません(17条1項)。つまり、賃貸管理業に従事する人は、業務を行っているときは、従業者証明書を携帯しなければなりません。
もし、従業者証明書を携帯していない者が発覚したら、業務改善命令や1年以内の業務停止処分、場合によっては、登録取消処分を受けることもあります(22条、23条)。
ただし、内部管理事務に限って従事する者は、従業者証明書の携帯義務はありません。
そして、賃貸住宅管理業者の使用人その他の従業者は、その業務を行うに際し、委託者その他の関係者から請求があったときは、従業者証明書を提示しなければりません(17条2項)。
帳簿の備付け等
賃貸住宅管理業者は、その営業所又は事務所ごとに、その業務に関する帳簿を備え付け、委託者ごとに下記事項を記載し、保存しなければりません(18条)。
帳簿の記載事項
- 管理受託契約を締結した委託者の商号、名称又は氏名
- 管理受託契約を締結した年月日
- 契約の対象となる賃貸住宅
- 受託した管理業務の内容
- 報酬の額
- 管理受託契約における特約その他参考となる事項
帳簿の保存期間
賃貸住宅管理業者は、帳簿を各事業年度の末日をもって閉鎖するものとし、閉鎖後5年間保存しなければなりません(施行規則38条3項)。
【事業年度の具体例】 例えば、法人の場合において、事業年度が令和5年4月1日から令和6年3月31日のとき、令和6年3月31日に帳簿を閉鎖し、そこから5年間、つまり、令和11年3月31日まで帳簿を保存しなければなりません。
標識の掲示義務
賃貸住宅管理業者は、その営業所又は事務所ごとに、公衆の見やすい場所に、標識を掲げなければなりません(19条)。
【標識の具体例】
委託者への定期報告
賃貸住宅管理業者は、下記事項について、管理受託契約を締結した日から1年を超えないごとに1回以上定期的に、委託者に報告しなければなりません(20条)。
定期報告事項
- 報告の対象となる期間
- 管理業務の実施状況
- 管理業務の対象となる賃貸住宅の入居者からの苦情の発生状況及び対応状況
上記3の「管理業務の対象となる賃貸住宅の入居者からの苦情の発生状況及び対応状況」については、苦情の発生した日時、苦情を申し出た者の属性、苦情内容、苦情への対応状況等について、把握可能な限り記録し、報告する必要があります。ただし、単純な問い合わせについて、記録及び報告の義務はありませんが、苦情を伴う問合せについては、記録し、対処状況も含めて報告する必要があります。
なお、法施行前に締結された管理受託契約については、法施行後に当該管理受託契約が更新
された場合、形式的な変更と認められる場合であっても、更新された後においては、賃貸人に対して報告を行うべきです。また、当該管理受託契約が更新される前においても、可能な限り早期に報告を行うことが望ましいです。
秘密を守る義務
賃貸住宅管理業者は、正当な理由がある場合でなければ、その業務上取り扱ったことについて知り得た秘密を他に漏らしてはいけません。また、賃貸住宅管理業を営まなくなった後も、同様に秘密を他に漏らしてはいけません(21条1項)。
上記秘密を守る義務は「賃貸住宅管理者」だけでなく「賃貸住宅管理業者の代理人、使用人その他の従業者」も同様に守秘義務を負います(21条1項)。
秘密を漏らしてよい正当な理由とは
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- 賃貸人や入居者から秘密を漏らしてよいという承諾を得た場合
- 裁判の証人として秘密を漏らす場合