破産と賃貸借の関係

法的倒産手続の種類

ここでは、賃貸借契約の当事者である賃貸人や賃借人が破産した場合、どうなるのかを解説していきます。まずは、破産手続きの種類について、4つ解説します。
  1. 破産法による破産
  2. 会社法による特別清算
  3. 民事再生法による民事再生
  4. 会社更生法による会社更生
1と2は、企業を解体し財産を分配するタイプで「清算型」と言います。一方、3と4は、企業を解体せず、残したまま、企業の再建を図るタイプで「再建型」と言います。1と2の違い、3と4の違いについては、理解しなくても大丈夫です。

破産手続

破産手続は、支払不能または債務超過にある(プラスの財産よりもマイナスの財産が大きい)場合に、財産関係を清算する手続きです。「精算」とは、会社が解散する際に、財産を換金して債権者に債務を弁済し、残余財産を株主に分配することを言います。 そして、破産手続を行うことで、「個人は、債権債務がすべてなくなり」「法人は解体します」。

破産手続きの申立人

破産手続は申立てによって手続きが開始します。申立ては、債務者自らが行う場合もあれば、債権者が行う場合もあります。

破産管財人

破産管財人とは、破産手続において破産財団に属する財産の管理及び処分をする権利を有する者をいいます。分かりやすく言えば、破産者が有する財産や借金の全てを管理する人で、弁護士です。つまり、弁護士が破産手続きを破産者の代わりに行っていくイメージです。 そして、破産手続では、破産管財人が選任され、破産財団の管理処分権は破産管財人に属します。複数の破産管財人が選任されることもあり、また、法人(例えば弁護士法人)も破産管財人となることができます。

破産財団

破産財団は「破産者が破産手続き開始の時において有する一切の財産」です。破産手続き開始「前」は、財産の所有者が管理したり処分(売却)したりできましたが、破産手続き開始の決定があると、破産者は財産に関する管理処分権を失い破産管財人が、破産財団に属する財産の換価(売却してお金に換えること)、債権の取立てを行い、債権者に公平な配当(弁済)を行います

破産手続きが終了した場合

破産管財人が、破産者の債権者に対して配当を完了すると、破産手続が終わります。すると、法人は消滅し、個人では、免責されれば(責任を問われなくなれば)債務弁済の責任を負わなくなります。

賃貸人の破産

賃貸人が破産した場合、破産財団の管理処分権は破産管財人に属するため、破産管財人質料の請求や収受(受け取り)賃貸借契約の解除などを行う者となります。

敷金返還請求権

賃借人は、賃貸借契約時に、賃貸人に対して敷金を預けている場合があります。そして、この敷金は賃借人が建物を明渡したあとに返還してもらえるお金です。もし、賃貸人が破産してしまったら、他の破産債権と同じ扱いになり、優先的に返還されることはなく、破産手続きの結果、配当として一部または全部返還される場合はありますが、多くの場合、返還されません。

寄託請求(きたくせいきゅう)

賃貸人が破産したとしても、賃借人は、建物を借りている以上、賃料を支払わなければなりません。そこで、上記敷金が返還されない不公平さを公平にするために、敷金を預けている場合に限って、破産手続開始決定があった後の賃料については、敷金の額を限度として、破産管財人に対して寄託を請求することができます。寄託請求とは、預かってください!と請求することです。 【具体例】例えば、10万円の敷金を預けていて、賃料が10万円だった場合、破産手続開始決定後の賃料10万円について、「破産管財人さん、あなたが預かっていてください!」と請求することができます。これにより、敷金が返ってこなくても、今預けた10万円の賃料を代わりに返してもらうことができます。

契約解除

賃借人が建物の引渡しを受けている状況で(賃借人が対抗要件を備えている状況で)、賃貸人について破産手続が開始されても、破産管財人は、「賃貸人の破産」を理由として、賃貸借契約の解除を行うことはできません

賃借人の破産

賃借人について破産手続が開始した場合、破産手続開始後は、「破産管財人」が賃料の支払義務を負い、また、解除の意思表示を受ける者となります。

賃料債権等の取り扱い

賃料債権とは、「賃料を請求できる権利」を指します。 破産手続の中では、賃料債権等は、次のとおり取り扱われます。
  1. 破産手続開始の決定前に生じた賃料債権は、破産債権となる。
  2. 破産手続開始の決定後に履行期が到来する賃料債権は、財団債権となる。
  3. 電気料、水道料、ガス代は、破産手続開始の決定前のものでも、申立日に属する期間に対応するものは、財団債権となる。

破産債権と財団債権の違い

破産債権とは、破産債権破産手続の中で弁済を受けることのできる債権です。一方、財団債権は、破産手続によらないで破産財団から随時弁済を受債権けることができる債権です(破産債権に優先し、先に弁済を受けられる)。

契約解除

賃借人の破産の場合、賃借人の破産管財人は、解除を選択し、賃貸借を解除することができます。もし、破産管財人が解除をするか否かを選択するか態度を示さない場合、賃貸人は、破産管財人に対し、相当の期間を定めて解除または履行のいずれを選択するか確答すべき旨を催告することができます。そして、破産管財人が期間内に確答(返答)しないときは、賃貸借契約は解除されたものとみなされます。

注意点

賃借人が破産したからといって、当然に契約解除とはなりません。あくまで、破産管財人が解除の意思表示をした場合に契約解除となります。

原状回復費用の償還請求権

破産手続開始前に契約が解除されていれば、原状回復費用の償還請求権(返してもらう権利)は破産債権となります。 破産手続開始後に、破産管財人が賃貸借契約を解除し、破産管財人が原状回復を行わなかった場合、原状回復費用の償還請求権は、財団債権となります(東京地裁平成20年8月18日判決)。

免責

個人の破産手続は、経済的な再出発を図ることが目的なので、責任を免除する「免責」という制度があります。この免責は、裁判所が免責許可を決定することによって、破産者が、破産債権について、「これからは支払わなくてもいいですよ!」と責任を免れる制度です。破産手続開始後に賃料不払いによって契約が解除された場合、破産手続開始の決定までの賃料だけでなく、破産手続開始の決定後の賃料と解除後の使用損害金も免責されます。

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