契約による賃貸人の変更
賃貸借契約の継続中に賃貸不動産が売却され、賃貸人が変更することがあります。これを「オーナーチェンジ」と言います。
では、賃貸不動産のオーナーが変わった場合、賃借人は賃借権を新所有者に対抗し主張できるのか?つまり、引き続き、賃貸不動産に住み続けることができるのか?
「賃借権に対抗力がある場合」と「賃借権に対抗力がない場合」の2つのケースを考えます。
賃借権に対抗力がある場合
民法では、不動産の賃借人Bは、賃借権を登記したときには、対抗力を持ちます(民法605条)。つまり、新所有者Cに対して「私は賃借権を持っているから、住み続けます!」と主張できます。
ただし、一般的には、アパート借りたりしても、賃借権は登記することはほとんどありません。そのため、借地借家法には、賃借権の登記がなくても、「土地の賃借権については土地上の建物の登記」をすることで、対抗力を備えることとしており、「建物の賃借権については建物の引渡し」をすることで対抗力を備えることとしています(借地借家法第10条1項、31条1項)。
そして、賃借人が、賃借権について対抗要件を備えた場合において、その借りている不動産が売却されたときは、その不動産の賃貸人たる地位は、その譲受人(購入者)Cに移転します(民法605条の2第1項)。
敷金返還債務・費用償還債務はどうなるか
上記の通り、賃貸借契約における賃貸人の地位は、当然に「旧所有者A」から「新所有者C」に引き継がれ、その結果、「新所有者Cと賃借人Bとの賃貸借契約が成立すること」になります。
そして、この場合、新所有者・賃貸人Cは、旧所有者・旧賃貸人Aから当然に敷金返還債務や費用償還債務も承継します。つまり、敷金返還債務や費用償還債務は、新所有者Cに移ることになります。
費用償還債務とは
例えば、台風により屋根が壊れてしまった場合において、賃借人Bが屋根の修理をした際の費用は、賃貸人に請求できます。つまり、賃貸人は費用を賃借人に返す義務を負います。これが費用償還債務です。この債務も新所有者Cが負担することになります。
新所有者はどうなれば賃借人に賃料を請求できるか
賃貸不動産が売却され(賃貸人の地位が変更され)、新所有者・賃貸人Cが賃借人Bに対して賃料を請求するためには、不動産の所有権移転登記が必要となります(最判昭49.3.19)。
地位の留保
旧所有者Aと新所有者Cの間で、賃貸人たる地位を旧所有者Aに留保し(残しておき)、新所有者Cが賃貸人たる地位を承継しないとする合意は有効か?。つまり、賃貸不動産はCが購入したけど、引き続き、賃貸借は旧所有者Aと賃借人Bとの間での契約にしておくことは可能か?
判例では、上記契約(特約)があっても、賃貸住宅の所有権が移転すれば、賃貸人たる地位もこれに伴って新所有者Cに移転するとして、地位の留保はできない(賃貸人を旧所有者Aのままにしておくことはできない)とし、賃借人Bは、新所有者Cに対して、敷金返還請求ができます。
しかし、例外的に「不動産の譲渡(売買契約)がなされるとき」に、不動産の譲渡人Aと譲受人Cが、①賃貸人たる地位を譲渡人Aに留保する旨、及びその不動産を②譲受人Cが譲渡人Aに賃貸する旨の合意をしたときは、賃貸人たる地位は、譲受人Cに移転しません(民法605条の2第1項、第2項前段)。つまり、賃貸人をそのまま賃貸人を旧所有者Aのままにしておくことはできることにしています。(下図参照)
そして、上記場合において、譲渡人Aと譲受人Cとの間の賃貸借が終了したときは、譲渡人Aに留保されていた賃貸人たる地位は、讓受人C(新所有者)に移転します(民法605条の2第1項、第2項後段)。この点は難しいので、個別指導で解説します。
賃借権に対抗力がない場合
賃借権に対抗力がない場合、例えば、建物賃貸借契約を締結したけど、引渡しをまだ受けておらず、賃借権の登記もしてもらっていない場合、賃貸人の地位は移転しません。そのため、賃借人Bは、新所有者Cに対し、賃借権を主張できず(対抗できず)、賃借人Bは、新所有者Cから明渡しを求められるおそれがあります。
また、賃借人が対抗要件を取得したとしても、新所有者Cが先に対抗要件を備えていた場合(Cが所有権移転登記を先にしていた場合)、賃借人Bは新所有者Cに対抗できず、新所有者Cからの明渡し請求を拒むことはできません。
ただし、賃借人に対抗要件がない場合であっても、新所有者Cは旧所有者Aとの間で合意をすれば、賃貸人の地位の移転を受けることができます(最判昭46.4.23)。この場合、賃貸人の地位の移転のために賃借人の承諾は不要です(民法605条の3前段)。
契約による賃借人の変更
賃借人は、賃貸人の承諾を得れば、賃借権を第三者に譲渡することができます(民法612条1項)。分かりやすく言えば、賃貸人の承諾を得れば、賃借人を変更できるということです。
そして、賃貸人の承諾を得て賃借権が譲渡された場合、旧賃借人Bの賃貸人Aに対する権利義務は、新賃借人Dが承継します(引き継ぎます)。
ただし、旧賃借人Bが交付した敷金については、新賃借人Dには承継されません(最判昭53.12.22)。したがって、賃貸人Aは、敷金は、旧賃借人Bに返還しなければなりません。もし、敷金が必要なのであれば、新賃借人Dから再度預かる必要があります。