維持保全の基本(用語の意味・定期調査と定期報告)

維持保全の目的と全体像

賃貸住宅は、人が日常生活を営むための場所です。雨風をしのぐだけではなく、地震や火事などに対する安全性が確保されたうえで、さらに、快適な日常生活を送ることができるものとなっていなければなりません。そのために行われるのが、「維持保全」です。

建築基準法8条1項では、維持保全として、「建築物の所有者、管理者又は占有者は、その建築物の敷地、構造及び建築設備を常時適法な状態に維持するように努めなければならない」と規定しています。

そして、一般的な意味として「維持は、物事の状態を保つこと」、「保全は、保護して安全を確保すること」を意味しますが、賃貸住宅管理業法では、「賃貸住宅の維持保全」とは、「居室及び居室の使用と密接な関係にある住宅のその他の部分である、玄関・通路・階段等の共用部分居室内外の電気設備・水道設備、エレベーター等の設備等について点検・清掃等の維持を行い、これら点検等の結果を踏まえた必要な修繕を一貫して行うことをいう」とされています(賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律の解釈・運用の考え方2条2項関係)

そして、建物には、建築躯体(建物そのものの構造部分)建築設備(給水。排水設備、電気設備)昇降機消防設備などがあります。賃貸住宅の維持保全は、この建築駆体と建築設備を維持管理することで、入居者の安全・安心と衛生的で快適な環境を提供し、同時に経済性も確保することを目的としています。

用語の定義

点検
既存対象物の機能状態や消耗の程度などを決まった手順により調べること。
保守
既存対象物の初期の性能および機能を維持する目的で周期的、または継続的に行う注油、小部品の取替え等の軽微な作業。
運転
設備機器を稼働させ、その状況を監視し制御すること。
修繕
劣化した部材・部位、あるいは機器の性能、または機能を原状あるいは実用上支障のない状態まで回復させること。ただし、保守の範囲に含まれる定期的な小部品の取替え等は除く。修理ともいう。
補修
部分的に劣化した部位等の性能、機能を実用上支障のない状態まで回復させること。修補ともいう。
修復
劣化した建物等を初期と同じ状態に回復させること。
改修
劣化した建物等の性能、機能を初期の水準以上に改善すること。
改良
建物およびその部位や機器、あるいはシステムの性能、または機能を、現在要求されている水準まで改善または変更すること。
模様替え
用途変更や仕上げの陳腐化などにより、主要構造部を著しく変更しない範囲で、仕上げや間仕切壁などを変更すること。
交換
部材や機器を取り替えること。
更新
劣化した部材や機器を新しいものに取り替えること。

維持保全の2つの種類

維持保全は、故障などへの取組みの違いから、「予防保全」と「事後保全」に分けて考えることができます。建物に求められる適切な保全とは、主として予防保全を指します。
そして、賃貸住宅の維持保全は、問題が起きてから行うのではなく、問題が起きないよう、あらかじめ適切な処置を行う必要があります。これを「予防保全」と言います。賃貸住宅の維持・保全管理においては、事後的な対応ではなく予防保全が重要です。

予防保全
点検や保守により前兆を捉え、故障する前に適切な処置を施すこと
事後保全
事故や不具合が生じてから、修繕を行うこと

予防保全については、一見すると、寿命があるうちに取り替える予防保全は不経済とも思われます。しかし、事故や故障は突然起き、事後保全でその復旧を急ぐあまり、十分な検討をせずに部分的な補修をしたり、性能や耐久性が異なる部品に交換することで、設備全体の修繕周期が把握できなくなることが多いです。つまり、応急処置の積み重ねは、全体的・根本的な修繕を先送りすることになり、長期的に見れば事後保全は、決して予防保全より経済的とはいえません

予防保全にあっても、法定耐用年数どおりに機器を交換することにとらわれることなく、現場の劣化状況と収支状況を考え合わせ、予防的に交換・保守・修繕することが管理業者には求められます
よって、管理業者は建築物の現状を正確に把握したうえで予防保全を実施し、適正な維持保全を行わなければなりません。

定期点検と定期報告の種類

建築基準法に基づく定期調査・検査報告には、4種類のものがあり、それぞれ、有資格者が行わなければなりません。そして、新築直後・改築直後の検査済証の交付を受けた直後は、報告不要です。

特定建築物の定期調査 敷地、構造、防火、避難 用途、規模によって1年に1回または3年ごとに1回 1級・2級建築士、特定建築物調査員
防火設備の定期検査 防火設備 1回/年 1級・2級建築士、防火設備検査員
建築設備の定期検査 換気(火気使用室・無窓居室)、排煙、非常用の照明設備、給排水衛生(ビル管法・水道法で指定する設備を除く)の4項目 1回/年 1級・2級建築士、建築設備検査員
昇降機等の定期検査 エレベーター(ホームエレベーターは除く)、エスカレーター、小荷物専用昇降機(テーブルタイプは除く)、機械式駐車場設備、遊戯施設等 1回/年 1級・2級建築士、昇降機等検査員

水道の管理

水道法が適用されるのは、都道府県の水道局等の水道事業者の水道専用水道簡易専用水道です。これらに該当しない小規模のもの(貯水槽水道)には水道法は適用されません。ただし、地方自治体の条例により水質検査などが必要な場合があります。

水道法の対象となるもの

  1. 水道事業者(都道府県の水道局等)
  2. 専用水道
  3. 簡易専用水道

水道法の対象外のもの

  1. 小規模貯水槽水道(東京都の呼称)
  2. タンク式給水方式の施設のうち、水道法の対象外で、受水槽の有効容量が10㎡以下のもの

専用水道

専用水道とは、水道事業者の水道以外の水道で、100人を超える者に水を供給する水道で、次の1〜3の適用基準を満たすものを言います。

  1. 口径25mm以上、導管全長1,500m超
  2. 水槽の有効容量が100㎡超
  3. 1日最大給水量20㎡超

残留塩素の測定が義務づけられ、管理基準と検査の実施が法律で定められています。

残留塩素の測定は、毎日行わなければなりません。そして、遊離残留塩素の基準は0.1mg/lです。水道法上、報告義務はないので、報告不要です。

また、管理基準として、水道技術管理者を設置が義務付けられ、定期および臨時で検査の実施が必要です。検査結果は5年間保存しなければなりません。

簡易専用水道

簡易専用水道とは、水道事業者の水道と専用水道以外の水道で、水道事業から供給を受ける水のみを水源とし、水槽の有効容量の合計が10㎡超の水道です。残留塩素の測定については、水道法の規制はなく、地方自治体の条例に従います。そして、水槽の掃除は、1年に1回実施し、水槽の点検も1年に1回実施する必要があります。

貯水槽水道(小規模貯水槽水道)

貯水槽水道とは、水道事業者から受ける水のみを水源とし、水をいったん水槽に溜めた後、建物に飲み水として供給する施設であって、水槽の有効容量が10㎡以下のものです。

注意点

受水槽の有効容量が10㎥を超えるものは、貯水水道ではなく、簡易用水道になる。

貯水槽水道は、水道法による規制を受けません。各自治体独自の条例によって規制されます。
そして、貯水槽の清掃中は断水になります。断水の時間は、受水槽のみの清掃であれば2~3時間程度です。断水後には赤水が出ることが多いため、清掃後、各部屋の人に「3~4分の水を流す」よう通知する必要があります。ちなみに、高層建物の断水については、開水ポンプの故障が原因の場合が多いです。

水槽内のボールタップや電極棒

受水槽の水面が常に適量であるように調節することを液面制御(えきめんせいぎよ)といいます。液面制御は、小規模受水槽では、ボールタップ(浮子、フロート)の浮力で、弁の開閉を行います。一方、大容量の受水槽では、定水位弁という装置(主弁と副弁(パイロット弁)からなり、副弁の開閉により主弁を動作させる仕組み)で、コントロールしています。なお、ボールタップに替え、液面制御リレーと電極棒で定水位弁を制御する方式もあります。

受水槽

受水槽内部の保守点検用マンホールの大きさは、人が容易かつ安全には入れるよう直系60cm以上必要です。また、建物内に受水槽を設置する場合、天井面から100cm、壁面・底面から60cm以上離す必要があります。そして、受水槽の点検においては、上・下、側面4つの合計6面を点検する必要があります。イメージとしては、受水槽をサイコロです。各面6つをすべて点検します。
そして、受水槽(給水タンク等)は、天井、底または周壁は、建物の躯体と兼用していはいけません。つまり、上記の通り、点検できるように、受水槽と建物は離しておく必要があります。また、受水槽の内部には、飲料水の配管以外の配管設備を設けてはいけません。別の配管を設けると、汚染の原因になるからです。

揚水ポンプ

揚水ポンプには、「給水用渦巻きポンプ」が使われるのが一般的です。ポンプは2台で1セットになっており、自動交互運転されます。水が減りすぎると、減水警報が出ます。この警報が出て、放置をすると、断水を起こすだけでなく、ポンプが空転して焼きつき、故障の原因となるので速やかな対応が必要です。ポンプの多くは、電動モーターを動力源とするタービンポンプ(くるくる回る羽根車)が用いられます。加圧給水方式や直結増圧給水方式では、回転数を変えて、給水量をコントロールします。

浄化槽の管理

浄化槽には、浄化槽法によって、設置後等の水質検査、定期検査、報告が義務づけられています。

設置後等水質検査
使用開始後3か月を経過した日から5か月の間に行う
定期検査
都道府県知事の指定する指定検査機関により、毎年1回行う。
報告
検査結果等は、都道府県知事または市町村長へ報告する

浄化槽の保守点検は、4か月に1回以上実施します(処理方法や処理対象人員によって回数は異なる)。そして、浄化槽の清掃は、バキューム車での汚泥の引き抜きを年に1回以上行います。

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