賃貸不動産経営管理士は賃貸不動産所有者、居住者、投資家等のステークホルダーおよび賃貸管理業界との間に確かな信頼関係を構築することにより、その社会的使命を全うする役割を担っている。
そのために、各々が高い自己規律に基づき、誠実公正な職務を遂行するとともに、依頼者の信頼に応えられる高度な業務倫理を確立しなければならない。
ここに、賃貸不動産経営管理士の社会的地位の向上、社会的信用の確立と品位保持、資質の向上を図るため、賃貸不動産経営管理士倫理憲章を制定する。
- 公共的使命
賃貸不動産経営管理士のもつ、公共的使命を常に自覚し、公正な業務を通して、公共の福祉に貢献する。 - 法令の遵守と信用保持
賃貸不動産経営管理士は関係する法令とルールを遵守し、賃貸不動産管理業に対する社会的信用を傷つけるような行為、および社会通念上好ましくないと思われる行為を厳に慎む。 - 信義誠実の義務
賃貸不動産経営管理士は、信義に従い誠実に職務を執行することを旨とし、依頼者等に対し重要な事項について故意に告げず、又は不実のことを告げる行為を決して行わない。 - 公正と中立性の保持
賃貸不動産経営管理士は常に公正で中立な立場で職務を行い、万一紛争等が生じた場合は誠意をもって、その円満解決に努力する。 - 専門的サービスの提供および自己研鑽の努力
賃貸不動産経営管理士はあらゆる機会を活用し、賃貸不動産管理業務に関する広範で高度な知識の習得に努め、不断の研鑽により常に能力、資質の向上を図り、管理業務の専門家として高い専門性を発揮するよう努力する。 - 能力を超える業務の引き受け禁止
賃貸不動産経営管理士は、自らの能力や知識を超える業務の引き受けはこれを行わない。 - 秘密を守る義務
賃貸不動産経営管理士は、職務上知り得た秘密を正当な理由なく他に漏らしてはならない。その職務に携わらなくなった後も同様とする。
前文の解説
賃貸不動産経営管理士は賃貸不動産所有者、居住者、投資家等のステークホルダーおよび賃貸管理業界との間に確かな信頼関係を構築することにより、その社会的使命を全うする役割を担っている。
そのために、各々が高い自己規律に基づき、誠実公正な職務を遂行するとともに、依頼者の信頼に応えられる高度な業務倫理を確立しなければならない。
ここに、賃貸不動産経営管理士の社会的地位の向上、社会的信用の確立と品位保持、資質の向上を図るため、賃貸不動産経営管理士倫理憲章を制定する。
趣旨
賃貸不動産経営管理士が持つ社会的使命と役割、業務倫理の確立の必要性等を通じて、本倫理憲章制定の趣旨等を確認するものです。
解説
1.賃貸不動産経営管理士の社会的使命
賃貸不動産経営管理士は、専門家としてその能力を発揮し、賃貸不動産の管理を適切に行うことを通じて、賃貸不動産所有者の資産の有効活用、その不動産に居住し利用する賃借人等の安全・安心の確保、ひいては国民全体の貴重な財産である不動産の有効適切な活用の促進等を通じ国民全体の利益の実現を図るという高度な社会的使命を担っています。
2.ステークホルダー(賃貸不動産をめぐるすべての関係者)との信頼関係の構築
賃貸不動産をめぐっては、賃貸借契約当事者である賃貸人(賃貸不動産所有者であることが一般的)および賃借人(入居者等)を中心とし、投資家等も含めさまざまな利害関係者が存在します。そして、その経営・管理は、数字だけでは決して表現されない、個性ある賃貸人・賃借人との良質な関係を通じて実現される性格を有します。したがっ賃貸不動産経営管理士が、①の使命を全うすべく業務遂行をする過程においては、賃貸不動産所有者や、その不動産を居住し利用する賃借人等との間に確かな信頼関係を構築していかなければなりません。
3.賃貸不動産管理業界との信頼関係の構築
また、賃貸不動産の管理に対する認知度を高め、その社会的地位をより向上させるためには、管理業界全体として社会に対し責任ある対応をしていく必要があります。賃貸不動産経営管理士は、賃貸不動産管理業界全体との信頼関係を構築しつつ、業務遂行を通じその実現に資することが期待されます。
4.倫理憲章の規範性
なお、この倫理憲章は、個々の賃貸不動産経営管理士の高度な業務倫理を示すものであるとともに、この倫理憲章に違反し賃貸不動産経営管理士として相応しくない行為をしたときは、処分の対象となるという意味で、強い規範性を有していることにも留意すべきです。
1.公共的使命
趣旨
賃貸不動産経営管理士は、特定の私人の利益に資するというだけではなく、広く公共的使命を有し、公共の福祉に貢献する存在であることを確認するものです。
解説
賃貸不動産経営管理士は、その能力を発揮して適切に業務を遂行することにより、直接の依頼者である賃貸人(賃貸不動産所有者であることが一般的)の賃貸不動産に係る資産価値の保全と収益最大化の役割を果たすだけにとどまらず、当該賃貸不動産の公正適切な管理を通じ、利用者保護の役割、賃貸借当事者の間で利害調整の役割や、良質な不動産ストックの形成等の役割を果たすことを通じて公共の福祉に貢献することが期待されます。 すなわち、賃貸不動産経営管理士は、賃貸不動産に係る特定の関係者の利益のためだけに業務を行うというものではなく、その公共的使命を自覚し、自らの業務は社会全体の利益に還元されるものであるということを自覚して、責任ある対応をすることが必要です。
2.法令の遵守と信用保持
趣旨
賃貸不動産経営管理士としてのコンプライアンスにつき確認するものです。
解説
1.関係する法令とルールの遵守
賃貸不動産経営管理士は、専門家としてのコンプライアンスが求められます。ここでいうコンプライアンスとは、明文の法令さえ守っていれば何をやってもよいというような考え方を排斥し、法令の背後にある、あるいは法令が規律していない部分における社会規範やルールをも遵守することを指しています。倫理憲章中では「法令とルールを遵守し」とされていることや、社会的信用を害する行為(2参照)および社会通念上好ましくない行為(3参照)も禁止していることに留意します。
2.賃貸不動産管理業に対する社会的信用を傷つけるような行為の禁止
賃貸不動産経営管理士は、賃貸不動産管理業界全体との信頼関係を構築しつつ、賃貸不動産管理業の認知度を高め、賃貸不動産管理業界の社会的地位をより向上させるよう業務を遂行することが期待されます。したがって、たとえ関係する法令等に違反しなくても、当該業務の遂行が賃貸不動産管理業の社会的信用を傷つけるような行為に該当し得る場合は、その行為を決して行ってはなりません。
3.社会通念上好ましくない行為の禁止
賃貸不動産経営管理士は、自らの行為につき、関係する法令だけではなく、社会通念に照らしてその妥当性等を判断し、責任ある対応をすべきことが求められています。
3.信義誠実の義務
趣旨
専門家または受任者としての信義誠実の義務や情報提供・説明義務につき確認するものです。
解説
1.信義誠実の義務
賃貸不動産経営管理士は、その業務遂行を通じて賃貸不動産をめぐるすべての関係者の満足度を最大化することが求められます。したがって、直接の依頼者に対しては契約関係の当事者として信義誠実の義務を負っていることはもちろんのこと、そのほかの関係者に対しても、同様に、信義に従い誠実に対応することが必要です。
2.情報提供・説明義務の履行
賃貸不動産をめぐっては、関係者の利害にかかわるさまざまな事情が生じ得ます。それらの事情で当事者や関係者にとって重要な事項(契約関係等を継続するか否かの判断に重要な影響を及ぼす事項等)については、情報提供ないし説明すべき義務を負っています。重要な事項につき情報提供等をしなかったり、不実のことを提供等する行為は、この情報提供・説明義務や信義誠実義務に違反するとともに、賃貸不動産管理業に対する社会的信用を傷つける結果をももたらしかねないことから、決して行ってはなりません。
4.公正と中立性の保持
趣旨
賃貸不動産経営管理士は公正・中立な立場で職務を行うことを確認するものです。
解説
賃貸不動産経営管理士は、賃貸不動産をめぐるすべての関係者の間にあってその全体をコーディネートし、すべての関係者の満足度を最大化する役割を担い、かつ、公共の福祉に貢献するという高度な社会的・公共的使命を有しています。 したがって、常に公正で中立な立場で職務を行うことが求められ、ときには直接の依頼者である賃貸不動産所有者等に対し、他の関係者(賃借人等)の立場に十分配慮した対応を求めることも必要となる場合があります。また、紛争等が生じた場合には、当該関係者の間に入ってその円満解決に努力することが求められます。 この点については、依頼者に対する信義誠実義務の存在や利害相反行為の禁止などの観点から、常に依頼者の立場に立って対応すべきであると考える余地もあります。 しかし、賃貸不動産の経営・管理は、たとえば売買等のように、依頼者の一時点での利益の確定およびその最大化が求められるのではなく、その物件が存在する限り、あるいはその後(建替え等)も含めて長期間にわたり利益を保持し、資産価値の維持保全を図ることが求められるのが一般的です。短期的には依頼者である賃貸不動産所有者の利益に資すると見える行為であっても、その後に紛争等が拡大してしまっては、結局は依頼者に不利益をもたらすことになりかねません。また、市場情勢によっては、優良な賃借人等との間で長く契約関係を維持すること、賃貸不動産の経営に資することも想定されます。 すなわち、公正・中立な立場での業務の遂行と、依頼者である賃貸不動産所有者等の利益の実現とは、賃貸不動産の経営・管理の特性である「長期間にわたる」という時間の要素を加味して考慮することによって、両立し得る関係にあると考えられます。
5.専門的サービスの提供および自己研鑽の努力
趣旨
賃貸不動産経営管理士の高度な専門性の確保と、そのための不断の研鑽等の必要性につき確認するものです。
解説
賃貸不動産経営管理士は、実際の賃貸不動産の管理にあたり中心的な役割を担い、賃貸不動産をめぐるあらゆる関係者のなかで、公正・中立な立場で職務を遂行することが要求されます。その際には、高度な知識と経験に裏打ちされた、「専門家としての高い専門性を発揮する」ことが必要です。 一方、賃貸不動産の管理をめぐる法令等や具体の業務手法・ノウハウ等は広範であり、かつ、たえず新しい動きがあります。 したがって、賃貸不動産経営管理士は、常に賃貸不動産の管理に係る最新の情報に接し、その内容を吸収しておく必要があり、「不断の研鑽により常に能力、資質の向上を図る」ことが求められます。
6.能力を超える業務の引き受け禁止
趣旨
賃貸不動産経営管理士は、自らの能力や知識を超える業務の引き受けを回避すべきことを確認するものです。
解説
1.自らの能力や知識を超える業務の引き受けの禁止
賃貸不動産の管理は、事案ごとに対象不動産の状況、関係者やその利用の状況等が異なることから、それぞれの事案ごとに、事案にあわせて、高い専門性に基づく対応が要求されます。したがって、ときには個々の賃貸不動産経営管理士が、自らの能力や知識では対応できない場合も生じ得ます。にもかかわらず、当該業務を引き受け、結果として関係者に多大なる被害を生じさせた場合には、その賃貸不動産経営管理士自身の責任問題になるとともに、賃貸不動産管理業全体に対する信用を害することになりかねなません。 したがって、業務を引き受ける際には、その内容が自らの能力や知識で対応し得るものかを十分に精査する必要があり、能力等を超える場合には、引き受けてはなりません。
2.他の資格者でなければできない業務との関係
なお、賃貸不動産の具体の管理業務の中には、たとえば弁護士法で弁護士以外が行ってはならないとされる「法律事務」に該当し得るものが一部含まれます。したがって、そもそも他の資格者でなければできない業務については、客観的に「能力」を超えるものとして、1と同様に引き受けが禁止されることに留意しなければなりません。
7.秘密を守る義務
趣旨
賃貸不動産経営管理士の守秘義務につき確認するものです。
解説
賃貸不動産経営管理士は、その職務遂行上、賃貸不動産の関係者の「秘密」に該当する情報に接することも多くあります。賃貸不動産経営管理士が職務上知り得た秘密については、「法令上提供義務があるとされる場合」や「本人の同意がある場合」などの正当な理由がないにもかかわらず、他に漏らしてはならない義務を負い、当該義務違反に対しては、民事上の責任が問われる可能性があります。そして、この義務(守秘義務)は、所属していた管理会社を退職するなどして当該賃貸不動産の管理に携わらなくなった場合や、賃貸不動産経営管理士ではなくなった場合であっても、引き続き負っていることに留意しなければなりません。