保険

保険の目的

賃貸不動産経営は、多くのリスク(危険)を伴います。このリスクへの対応は、賃貸不動産経営にとって、重要な課題です。

リスクへの対応についての考え方には、「回避」と「転嫁」があります。「回避」とはリスクを生み出す行動を行わないこと、転嫁とは危険を軽減・分散することです。しかし、賃貸不動産経営を行う以上はリスクを回避することはできません。そこで、危険を軽減・分散するための手段が必要になり、そのために保険が利用されます。具体的には、保険に加入することで、万一、損害が発生した場合、保険金が下ります。これは、リスク(損害・損失)を保険金に「転嫁」していると考えることができます。つまり、保険によるリスクへの対応は「転嫁」ということです。

保険商品の分類

保険商品は、保険業法上の「第一分野」「第二分野」「第三分野」の3つに分類されます。

第一分野
生命保険(人の生存・死亡について保険金を支払う)
第二分野
損害保険(偶然の事故により生じた損害に対して保険金を支払う)
第三分野
傷害保険、医療保険、がん保険(人のけがや病気などの場合に保険金を支払う)

第一分野は、「生命保険」です。人の生存または死亡について一定の約定のもとで保険金を支払うものであって、具体的には終身保険、定期保険、養老保険などがあります。

第二分野は、「損害保険」です。偶然の事故により生じた損害に対して保険金を支払うものであって、具体的には火災保険、賠償責任保険、自動車保険などがこれに該当します。保険のうち、賃貸不動産経営においては、損害保険が活用されます。

第三分野は、これらの分野の中間に位置し、人のケガや病気などに備える保険です。具体的には傷害保険、医療保険、がん保険などがこれにあたります。

損害保険の構造

事故は個々の当事者からみると偶然で予測できません。しかし、独立的に偶然起こる事象であっても、大量に観察すればある事象の発生する確率は一定値に近づきます。この理論を「大数の法則」といいます。

【具体例】 例えば、サイコロを振って、1が出る確率は1/6です。しかし、実際、1回で1が出ることもよくあります。そのため、少ない回数で考えると、実際に1が出る確率は1/6にはならない可能性が高いですが、しかし、何万回とサイコロを振れば(大きな数字で考えれば)、1が出る確率は、1/6に近づきます。例えば、6万回サイコロを振れば、1が約1万回出ているということです。これが大数の法則です。

大数の法則により、個々のケースは偶発的であっても、その発生率を全体として予測することが可能になります。損害保険は、大数の法則に基づいて、統計的確率によって「リスクの発生率」と「被害額」を計算して保険料を算出し、事故の被害による損失を平準化(均一化)する仕組みです。

損害保険は、保険会社と保険契約者が保険契約を締結することによって、運営がなされます。保険契約は、当事者の一方(保険会社)が、一定の事由が生じたことを条件として財産上の給付(金銭)を行うことを約束し、相手方(保険契約者、保険加入者)がこれに対してその一定の事由の発生の可能性に応じたものとして保険料を支払うことを約束する契約です(保険法第2条第1号)。保険契約のうち、保険者が一定の偶然の事故によって生ずることのある損害をてん補(補てん)することを約束するものが損害保険契約です(同条第6号)。

保険契約者と被保険者の違い

保険契約者とは、保険会社に契約の申込みをして保険料を支払う人で、契約の当事者です。 被保険者とは、保険の補償を受ける人または保険の対象になる人です。
【具体例】 母が子供がケガをしたときのために損害保険契約を締結する場合、「契約者は母」「被保険者は子供」となります。

損害保険の保険料

損害保険の保険料は、「純保険料」と「付加保険料」から成り立ちます。「純保険料」は、保険金受取人に支払う保険金の原資となるものであって、過去のデータを収集し、大数の法則を用いて計算されます。「純保険料の総額」と「保険金の総額」は等しくなります。この原則を「収支相等の原則」といいます。

また、保険料は保険会社が何引き受けるリスクの度合いに比例するものとしなければなりません。例えば、同じ木造建物であっても、構造、地域等により火災危険度が異なるため、これを同一の保険料率とすることは不公平になります。このため、保険料率は、それぞれの危険度に応じて決定することになっています。これを、「公平の原則(給付・反対給付均等の原則)」といいます。

付加保険料

付加保険料は、保険会社が事業を運営するために必要な費用(社費)や損害保険代理店に支払う手数料(代理店手数料)、保険会社の利益(利潤)などから構成されます。純保険料付加保険料合計が、保険契約者の負担する保険料となります。

なお、保険料は、各保険会社がそれぞれ純保険料と付加保険料を計算したうえで算出されますが、地震保険および自賠責保険の保険料は、損害保険料率算出団体に関する法律に基づき運営されている損害保険料率算出機構が算定した料率(基準料率)が使用されています。

火災保険

火災保険は、火災や風水害などの自然災害などによって建物や家財に損害が発生した場合に、その損害を補填する損害保険です。火災による損害だけでなく、落雷、破裂・爆発による損害も補償の対象としています。

また、風災・災・雪災などの自然災害による損害や、盗難による損害を補償の対象としている商品もあります。

現在では住まいを取り巻くさまざまなリスクに対応する保険という性格を有し、総合補償型の商品(いわゆる総合保険)となっています。

補償内容・範囲、保険金額の設定方法、保険金の計算方法(免責金額の有無等)、保険期間、保険料の払い込み方法など、各保険会社でさまざまな商品が組成されています。

損害保険の商品に関しては、建物の用途により火災に対する危険度が異なることから、住居のみに使用している住宅物件、住居部分と店舗や事務所などの部分がある併用住宅物件、事務所、病院、旅館などに使用している一般物件などに分類され、それぞれに対応する商品となっています。

火災保険において支払われる保険金には、「損害保険金」と「費用保険金」があります。

損害保険金
建物や家財の直接的な損害に対して支払われるもの。
費用保険金
保険事故の際に発生する費用をサポートするために、一定限度の範囲内で支払われるもの(火災で自宅が焼けてしまった場合の引越費用や片付け費用など)。

火災や風水害などによる損害を補填する「火災保険」と、地震・噴火またはこれらによる津波によって建物や家財に損害が発生した場合に、その損害を補償する「地震保険」をあわせて、「すまいの保険」といわれています。

すまいの保険
火災保険+地震保険

地震保険

地震保険とは、地震、噴火またはこれらによる津波を原因とする建物や家財の損害を補償するもので、火災保険に附帯する方式で契約する保険です。

地震保険は、下記4つを条件を満たさなければなりません。

  1. 居住の用に供する建物または生活用動産のみを保険の目的とする
  2. 地震もしくは噴火またはこれらによる津波を直接または間接の原因とする火災、損壊、埋没または流失による損害を政令で定める金額によりてん補する
  3. 特定の損害保険契約に附帯して締結される
  4. 損害保険契約の保険金額の100分の30以上100分の50以下(30%~50%)の額に相当する金額で、かつ、居住用建物5,000万円生活用動産1,000万円を限度を保険金額とする

【具体例】 例えば、火災保険の保険金額(建物)が2,000万円の場合、地震保険金額の限度額は2,000万円×50%=1,000万円となります。

例えば、火災保険の保険金額(建物)が2億円の場合の限度額は、2億円×50%=1億円とはならず、5,000万円になります。

注意点

地震保険は、単独で加入することはできない。火災保険に付随して加入する。

賃貸不動産経営と保険の関係

賃貸住宅に関しては、第二分野である損害保険が関係の深い保険です。「賃貸人」においては、「火災保険と地震保険」の検討が必要になります。また、「賃貸住宅に入居する賃借人」においては、賃貸人に損害を賠償するための保険として、「借家人賠償責任保険」があります。これは、火災・爆発・水ぬれ等の不測かつ突発的な事故によって、賃貸人(転貸人も含む)に対する法律上の損害賠償を負った場合の賠償金等を補償するものです。賃貸借契約において、借家人賠償責任保険に加入することが条件とされることもあります。また、借家人賠償責任保険は、一般的には、火災保険の特約として付帯するもので、単体での契約はできません。主契約(火災保険(家財の補償)) + 従契約(借家人賠償責任保険)といった形式で加入します。

賃貸不動産経営管理士としては、賃借人の家財や什器・備品に対する補償、また一般物件については、第三者(店舗の客や事務所の来訪者等)に損害賠償をするための賠償責任保険(施設賠償責任保険等。地震保険の加入についても含む)について、理解をしておくことが必要です。

なお、保険は、保険会社の商品によって、内容が異なり、どのような危険に対して、どの範囲で補填がなされるのかは、必ずしも同じではありません。関係者にある程度の情報提供をすることができるよう準備をしておくことも、賃貸不動産経営に対する支援業務のひとつです。

失火ノ責任二関スル法律(失火責任法)

不法行為責任

民法709条には「故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。」とあり、加害者の不法行為による損害賠償責任について定められています。

これに対し、民法の特別法である失火責任法では、「民法709条の規定は、失火の場合には適用しない。ただし、失火者に重大な過失があるときは失火者は責任を負う」としています。つまり、失火の場合、重過失がなければ、一般の不法行為の損害賠償責任が発生しないことになっています。

このため、近所からの類焼により被害を受けても、失火者に重大な過失がなければ、被災者は損害賠償を請求できないので、自ら火災保険に加入しておく必要があります。

重過失の具体例については、賃貸管理士試験対策としては考えなくても大丈夫です。

債務不履行責任

上記失火責任法では、不法行為責任については、民法の内容を修正していますが、債務不履行責任(民法415条)については規定されていません。そのため、債務不履行責任は民法に従って処理します。

したがって、賃貸住宅が賃借人の失火により焼失し、賃貸借契約終了時にその貸借物の返還が不可能になった(債務不履行責任が生じた)場合、失火者である賃借人(債務者)は賃貸人(債権者)に対して、債務不履行に基づく損害賠償責任を負うことになります。このような場合に、賃借人が賃貸人に損害を賠償するための保険が、「借家人賠償保険(特約)」です。

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