賃貸借関係の適正化を図るために管理業者が行うべき業務の管理・監督及び実施

賃貸借(転貸借)契約関係において賃貸不動産経営管理士に求められる役割

賃貸住宅管理業法では、「管理業務」を「①当該受託に係る賃貸住宅の維持保全を行う業務」と、この業務と併せて行う「②当該賃貸住宅に係る家賃、敷金、共益費その他の金銭の管理を行う業務」に限定しています。
しかし、実務では、賃貸不動産の管理業務として賃貸不動産業者に求められる業務および役割はこれにとどまるものではありません。

賃貸不動産管理業者は、入居者の保護、賃貸借関係の適正化及び賃貸経営事業者の経営の安定等に資するため、賃貸人からの委託に基づき多岐にわたる業務を行っています。

また、サブリース方式による賃貸不動産経営に関しても、賃貸住宅管理業法では、特定賃貸借契約(賃貸人と特定転貸事業者との間のマスターリース契約)に係る規律を定めるのみで、転貸借契約(特定転貸事業者と入居者との間のサブリース契約)については、一般的な民法・借地借家法などの規律に委ねています。

しかし、これらの管理業者が実施している「業務全般の適正化を図ること」や、「転貸借関係の適正化を図ること」は、賃貸住宅管理業法が目的としている「賃貸住宅の入居者(転借人)の居住の安定の確保及び賃貸住宅の賃貸に係る事業の公正かつ円滑な実施」において大切であることは言うまでもありません。

そして、当該業務の適正な実施にあたっては高度な専門性と経験等を要することから、賃貸不動産経営管理士は、賃貸不動産経営・管理の専門家として、所属する賃貸住宅管理業者または特定転貸事業者が行うこれらの業務につき、管理・監督をし、または自ら実施する役割を担うことが期待されます。

賃貸借関係の適正化を図るために賃貸不動産経営管理士に求められる具体的な事務

以上のように賃貸借関係の適正化を図るために賃貸不動産経営管理士に求められる事務として、次のようなものが考えられます。

  1. 家賃等の収納に係る事務
  2. 家賃等の改定への対応事務
  3. 家賃等の未収納の場合の対応事務
  4. 賃貸借契約の更新に係る事務
  5. 定期建物賃貸借契約の再契約事務
  6. 契約終了時の債務の額及び敷金の精算等の事務
  7. 原状回復の範囲の決定に係る事務
  8. 明渡しの実現

1.家賃等の収納に係る事務

  • 管理業者が管理受託契約に基づき行う家賃等の受領に係る一連の事務(請求書の作成・送付、家賃等振込口座の管理、直接支払いであれば家賃等の受け取り、家賃等受領状況の確認と報告)
  • 受領した家賃等の分別管理及び管理受託契約に定めた方法に従った賃貸人に対する送金
  • 家賃の収納状況、滞納者の有無や滞納が生じた場合の対応などの定期的な報告

2.家賃等の改定への対応事務

  • 家賃改定の申し出があった際の契約の種類や契約条項に応じた手続きの実施
  • 改定後の家賃の取扱いに係る書面の作成交付

3.家賃等の未収納の場合の対応事務

  • 未払い家賃の請求及び円滑かつ適法な手続きによる回収の実現
  • 家賃の未払い等により契約を解除する場合の適正な手続きの遂行

4.賃貸借契約の更新に係る事務

  • 当事者双方の更新の意思確認
  • 必要な合意を取り付け、契約が更新されたこと、更新後の契約期間その他の賃貸条件を記載した書面の作成及び賃借人・転借人に対する交付(書面の内容の信頼性を確保する等の観点から、当該書面に賃貸不動産経営管理士が記名押印することも考えられる)

5.定期建物賃貸借契約の再契約事務

  • 宅地建物取引業者と連携して借地借家法等に従った、適切な再契約手続きの遂行

6.契約終了時の債務の額及び敷金の精算等の事務

  • 賃貸借・転貸借契約の終了時の契約終了に伴う債務の額や、敷金から差し引く債務の額の算定の基礎について記載した書面の作成及び賃借人・転借人に対する交付とその内容の説明(書面の内容の信頼性を確保する等の観点から、当該書面に賃貸不動産経営管理士が記名押印することも考えられる。また賃借人等から説明を求められたときには、賃貸不動産経営管理士がその説明にあたることが期待される)。

7.原状回復の範囲の決定に係る事務

  • 契約書や原状回復ガイドラインの内容等に基づく賃借人が負担すべき原状回復の範囲や内容案の作成及び説明並びに当事者間の合意形成

8.明渡しの実現

  • 円滑かつ適法な明渡しの実現
  • 自力救済禁止の法理、明渡しの実現に係る法的手続きの種類や概要等に係る賃貸人や他の従業員に対する説明及び法令に従った対応の助言指導

転貸借契約時の適正な手続きの確保

サブリース方式の場合、転貸借契約(特定転貸事業者と入居者との間の契約)は、特定転貸事業者が賃貸人となるために宅建業法は適用されません。そのため、特定転貸事業者には宅建業法上の重要事項説明義務は生じません

また、上記のとおり、賃貸住宅管理業法では転貸借契約については特段の定めを設けていません

したがって、転貸借契約を宅建業者が仲介または代理しない限り、転貸借契約については、「契約締結前の重要事項説明」や「契約締結時の書面の交付」(賃貸借契約に関し重要な事項を記載した書面の作成交付。実務では賃貸借契約に宅建業者が記名押印することにより代替するのが一般的である)などは法令上は求められていません

しかし、この重要事項説明や契約成立時の書面の作成交付は、賃借人が、賃貸借契約に係る重要な事実や契約条件等を認識したうえで契約が行われるようにすることを目的としており、安心安全な賃貸物件の提供や入居者保護などの観点からは重要な手続きです。

また、賃貸住宅管理業法の施行にあわせて公表されている「サプリース事業に係る適正な業務のためのガイドライン」でも、「入居者への対応」として、「マスターリース契約が終了した場合は、オーナーがサプリース業者の転貸人の地位を承継することとなることを含めて、サプリース業者と入居者の間の転貸借契約を締結するに当たり、入居者が契約の内容を正しく理解した上で、契約を締結することができるよう、事前に転貸借契約の内容を説明することが望ましい」としています。

したがって、賃貸不動産経営管理士は、転貸借契約の適正な手続きを確保して安心安全な賃貸物件の提供や入居者保護を図る観点から、転貸借契約について、次のような事務を行うことが期待されます。

1.転貸借契約締結前の重要事項説明

宅建業者が仲介等をしない場合において、宅建業法に準じ、転借人に対し、転貸借契約上重要な事項について書面を交付して説明をすること

そして、書面に賃貸不動産経営管理士も記名押印することが考えられます。

2.転貸借契約成立時の書面の交付

宅建業法が仲介等をしない場合において、宅建業法に準じ、転借人に対し、契約成立時の書面を交付するか、転貸借契約書を取り交わすよう手続きを進めること

そして、書面に賃貸不動産経営管理士も記名押印することが考えられます。

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