新たな政策課題の解決等において賃貸不動産経営管理士に期待される役割
近年は、一人暮らし高齢者の増加や住宅セーフティネットの整備等に伴い、住宅弱者・困窮者に対する適切な民間賃貸住宅の供給が重要な政策課題となっています。
また、住宅宿泊事業などの新たな賃貸住宅の活用方策等への対応、社会的に関心の高い空き家問題対策の一方式である空き家の賃貸物件化への対応など、賃貸不動産に関する新たな政策課題も次々と生じているところでもあります。
管理業者が、これらの政策課題の解決のための取組みに積極的に関与し、住宅困窮者等に安心して貸せる賃貸物件や賃貸借契約・管理のあり方を提供することは、賃貸不動産管理業の公益性公共性の観点からも大変重要です。
しかし、これらの業務を適切に実施し、当該政策課題の解決に一定の役割を果たすためには、高度な専門知識と経験等を有する者が、管理業者の内部や関係当事者との間の制度設計その他のさまざまな手続きに関与することが必要であると考えられます。
したがって、賃貸不動産経営管理士は、賃貸不動産経営・管理の専門家として、重要な政策課題や新しい賃貸住宅の活用のあり方等につき、所属する管理業者に助言をし、制度設計を進め、実際の業務の管理・監督または実施を担うなど、当該課題の解決等に向けて積極的に関与することが期待されます。
新たな政策課題や新しい賃貸不動産の活用のあり方への積極的な取組みとして賃貸不動産経営管理士に期待される具体的な業務及び役割
以上のような新たな政策課題や新しい賃貸不動産の活用のあり方への積極的な取組みとして賃貸不動産経営管理士に期待される具体的な業務や役割には、次のようなものが考えられます。
- 住宅セーフティネットにおける役割
- 民泊(住宅宿泊事業)における役割
- 空き家対策(空き家の賃貸住宅化)における役割
- 残置物処理等に係る役割
1.住宅セーフティネットにおける役割
「住宅確保要配慮者に対する賃貸住宅の供給の促進に関する法律(住宅セーフティネット法」)には、増加する空き家等を活用し、低所得者や単身高齢者、外国人、子育て世帯等の住宅確保要配慮者を拒まない住宅として、賃貸人が、都道府県・政令市・中核市にその賃貸住宅を登録する制度が設けられています(セーフティネット住宅登録制度)。
住宅セーフティネット機能の強化は、住宅確保要配慮者が安心して暮らすことができるための重要な政策課題ですが、家賃滞納等への不安などから、住宅確保要配慮者の入居を拒むケースも散見され、セーフティネット住宅として登録されている件数も2023年2月6日現在で832,000戸程度となっています。
したがって、賃貸不動産経営管理士は、同法の趣旨や理念を踏まえ、賃貸人の不安を払しょくして積極的に賃貸借がなされるように、たとえば、同法に定める「住宅扶助費等の代理納付制度」や「残置物の取扱いに係る契約上の取扱い」などを賃貸人に対して説明し、理解を求めることなどを通し、住宅確保要配慮者が安心して暮らせる賃貸住宅の提供に一定の役割を果たすことが期待されます。
2.民泊(住宅宿泊事業)における役割
住宅の使用形態のひとつとして、宿泊料を得て第三者に住宅を提供する「住宅宿泊事業(民泊サービス)」があり、この住宅宿泊事業に関しては、近年法整備がなされ、2018年に住宅宿泊事業法が成立し、施行されています。
住宅宿泊事業および住宅宿泊管理を適法かつ適正に行うためには、専門的知識や能力を有する専門家が必要とされるが、賃貸不動産経営管理士は、賃貸借契約や賃貸不動産管理の専門家として、住宅宿泊事業等における専門性と親和性があり、住宅宿泊事業等においても専門家としての役割を担う資質と能力を有する者であると考えられます。
また、住宅宿泊事業法に関し国土交通省が公表しているガイドライン(住宅宿泊事業法施行要領)でも、住宅宿泊管理業者の登録において必要とされる法令適合性のための体制に関し、「申請者が個人である場合には、(中略)一般社団法人賃貸不動産経営管理士協議会の賃貸不動産経営管理士資格制度運営規程第31条に基づく登録を受けていること」などとされている(国土交通省関係住宅宿泊事業法施行規則第9条第1号関係)。
したがって、賃貸不動産経営管理士は、住宅宿泊管理業者による適法かつ適正な民泊管理の実現等を通し、住宅宿泊事業の適切な実施および普及に一定の役割を果たすことが期待されます。
3.空き家対策(空き家の賃貸住宅化)における役割
社会的に大きな関心事項となっている空き家問題への対策のひとつに、空き家の賃貸物件化があります。社会的にも有用な資源でもある不動産の有効活用を図る観点からは、空き家を賃貸物件化して活用することは、空き家問題の重要な解決策のひとつです。
しかし、空き家が賃貸に提供されるためには、「空き家所有者への賃貸物件化の働きかけ」や、「賃貸物件化後に賃貸市場に流通させる方策の提示」、「賃貸化された物件の管理や適正な賃貸借契約関係の確立のための対応」など、賃貸不動産経営や賃貸不動産管理に精通した専門家の積極的な関与が必要であると考えられます。
したがって、賃貸不動産経営管理士は、空き家所有者に対し、「賃貸物件化による空き家の有効活用の助言、賃貸借に係る情報・ノウハウの提供、入居者の募集、賃貸物件の管理等の引受けなどの助言・提言等」を通し、空き家所有者が安心して賃貸不動産経営に参画できる環境の整備等に積極的に関与し、空き家の賃貸化の促進等を通し、空き家問題の解決に一定の役割を果たすことが期待されます。
4.残置物処理等に係る役割
単身高齢者の賃貸借については、賃貸借契約の継続中に賃借人が死亡し、相続人の有無や所在がわからなかったり、相続人との連絡がつかなかったりしたときに生じます、
賃貸借契約の終了および物件内に残された動産(残置物)の処理が困難となることを賃貸人が懸念して、なかなか進まない現状にあるとの指摘があります。
そこで、このような残置物リスク等を軽減する観点から、国土交通省と法務省は、2021年・令和3年6月に、「残置物の処理等に関するモデル契約条項について(モデル条項)」を公表しました。
モデル条項は、賃貸借契約に先立ち、賃借人が第三者との間で、「賃借人の死亡を停止条件とする解除事務委任契約及び残置物関係事務委託契約」を結ぶこととしています。
そして、賃借人が賃貸借契約期間中に死亡した場合、モデル条項に基づき、賃貸人が解除事務受任者(解除事務受任契約により受任者となった第三者)との間で賃貸借契約を終了させ、残置物事務受任者(残置物関係事務委託契約により受任者となった第三者)が残置物を賃借人が生前指定していた者に送付し、または、廃棄等をすることによって、相続人の立場にも十分に配慮した形で残置物の早期処分(賃貸物件の明渡し)が実現できるスキームとなっています。
この解除事務受任者や残置物事務受任者には、推定相続人を第一順位の候補者としつつ、推定相続人を受任者とすることが困難な場合には、居住支援法人や居住支援を行う社会福祉法人のほか、賃貸人から委託を受けて物件を管理している管理業者もなれるものとしています。
ただし、管理業者が受任者となる場合には、「賃貸人の利益を優先することなく、委任者である賃借人及びその相続人の利益のために誠実に対応する必要がある」とされています。
ところで、賃貸不動産経営管理士は、倫理憲章(4)により、「公正と中立性の保持」が求められています。そうすると、賃貸不動産経営管理士が所属する管理業者が解除事務受任者,残置物受任者となり、実際の実務は賃貸不動産経営管理士が担当するといった枠組みは、上記要請を満たすものとして客観的な評価が得られるものと考えられます。
したがって、賃貸不動産経営管理士は、モデル条項の内容を理解し、所属する管理業者が解除事務受任者・残置物事務受任者となった場合には、自らが実際の実務にあたることによって、万が一賃貸借契約期間中に賃借人が死亡した場合の契約関係の処理を、賃借人の相続人の利益にも配慮しながら、適切に対応することが期待されます。
また、質貸不動産経営管理士は、賃貸人に対しても、モデル条項の活用等を助言し、残置物リスクを最小限に抑えつつ、単身高齢者に対する積極的な賃貸住宅の提供を図ることによって、賃貸人の賃貸住宅経営に資するとともに、社会的な要請でもある単身高齢者の賃貸住宅への入居の促進にも一定の役割を果たすことが期待されます。