賃貸不動産経営を支援する業務には、「予算管理」「物件状況報告書(改善提案書)の作成」「長期修繕計画書の作成」があります。
予算管理
予算管理とは、「財務的な目標を管理するツール」であると同時に、「経営を可視化するツール」でもあります。年初の財務的な目標値を月次などで実績値と対比させ、どこが順調でどこに課題があるかを確認し、必要な対応をするという経営管理手法です。具体的には、予算期間における企業の各業務分野の利益計画を金額ベースで示したものであり、企業の経営目標達成に向けた総合的な業績管理手法と位置づけられます。
経営情報を適時に把握できる経営管理の方策と言い換えることもできます。経営判断の難しい時代だからこそ、入念な計画の作成が要求されます。
すなわち、予測可能な事象と予測困難な事象を見極めます。そして、そのことにより、経営管理上どのようなことがリスクになりうるのかを明確に特定することができます。このことは、賃貸住宅の経営管理にもそのまま当てはまります。
「予算管理とPDCAサイクル」は密接に関係しています。PDCAサイクルとは、Plan、Do、Check、Actionの頭文字を取ったものです。
それは、事業計画の実行段階で経営環境を定期的にチェックし、予定された成果が出ていない場合には、当該事業計画を見直して、現実的で実効性の高い対応策を策定し実施することが求められます。
予算管理は、適切な予算計画の策定と期中の予算統制プロセスが機能することにより、初めて意味を持ちます。事業年度が始まる以前に、十分に余裕のある作業期間を設定したうえで、豊富な情報を収集整理し、適切な予算計画を策定することが求められます。
「予算統制プロセス」とは、予算に基づいた期中の経営業績管理であり、一般的には月次で実績を整理し、予算と実績に差異があった場合を危険信号と捉え、改善策の策定に結び付けます。
賃貸不動産経営管理士は、賃貸住宅の経営者の予算と実績の差異を把握するだけでなく、目標とされる予算を達成することが厳しくなった場合には、その原因を分析し、賃貸住宅の管理運営の専門家としての能力を活用して、収益の向上と必要経費の削減からの対応策を検討し、賃貸人に提言していく役割を担うことが期待されます。
予算計画書の提出
賃貸不動産経営管理士は、各事業年度の少なくても2、3か月前までに翌事業年度の予算計画書を賃貸人側に提出し、その承認された計画に基づいて、管理を受託している賃貸住宅の管理運営を実施します。
予算計画書作成上の留意点
予算計画書は、対象となる管理受託物件の実態に即した前提で策定される必要があります。実態と乖離した数値を設定することは、意味がないばかりでなく賃貸人などに対して誤解を与えることにつながります。
とりわけ、家賃収入想定のポイントとなる「賃料」、「空室率」、修繕費の基礎となる「年間修繕計画」については、予算計画の全体に与える影響が大きいため、慎重に策定すべきです。
予算計画書の項目
- 収入の部
- 家賃収入、駐車場収入、その他収入
- 支出の部
- 共益費、管理費、損害保険料、公租公課、修繕費、その他費用
物件状況報告書(改善提案書)の作成
収支報告書の意義
収支報告書は、1年間の賃貸住宅の実績を示した書類です。賃貸人に対しては、毎月、月次の実績値の報告がなされ、最終的に1年間のものが収支報告書のかたちで整理されます。このように毎月中間値が報告されることにより、賃料支払いの遅滞等に対して早期の対応が可能となります。収支報告書は、当該1年間にかかる収入と費用支出の結果が整理され、当初起案した予算計画書と照らし合わせることにより、管理を受託している賃貸住宅の課題を浮き彫りにすることができます。
予算計画書の数値は、あくまでも予想値なので、収支報告書の最終的な実績値と一致することはまれです。しかしながら、両者に大きな差異が生じている場合には、今までに想定していなかった課題が潜んでいる可能性があり、それを究明し特定する必要があります。
物件状況報告書
賃貸人から管理委託された物件を、資産管理運用の専門家として、その不動産からもたらされる収益を増やし、経済価値を最大化させることが賃貸不動産経営管理士の重要な役割のひとつです。
賃貸不動産経営管理士は、賃貸人から物件の「経営」を委託されている専門家の立場にあるため、業績を維持し、それを成長させることが求められています。しかし、賃料水準の低下や空室期間の長期化という状況に直面した場合に、管理受託物件の利益が減少します。そのような場合に、利益を安定化させ、さらに増加させるためには、どのような方策をとるべきであるかについて賃貸人に提案しなければなりません。そのためには、情報を幅広く収集し、原因を分析し、課題を抽出し、具体的な対策を考えることが不可欠となります。賃貸不動産経営管理士は、以上のような活動を物件状況報告書という書面のかたちで賃貸人に提供し、賃貸不動産経営を支援する役割を担うことが、期待されます。
改善提案書
物件状況報告書には、「改善提案書」が含まれます。
改善提案の主軸は、空室対策になります。空室率を低減させることにより、収益性を改善させ、結果的に賃貸住宅の経済価値を高めることができるからです。また、建物の日々の維持管理の重要さも無視することができません。すなわち、適切な維持管理を行うことにより、入居者の満足度を高め、そのことが空室・退去の減少につながり、ひいては安定した賃貸不動産経営を可能とするからです。
また、適切な維持管理は、物件の劣化・陳腐化を抑制させ、そのことが修繕費の減少・建物寿命の長期化にもつながります。これも安定した賃貸不動産経営に不可欠な視点です。
賃貸不動産経営管理士は、賃貸不動産経営の専門家という立場から、改善提案書という文書の形で、賃貸人に対して改善提案をすることにより、賃貸不動産経営を支援する役割を担うことが期待されます。
長期修繕計画書の作成
長期修繕計画書とは、管理受託している賃貸住宅について、いつ頃、何を、どのようにいくらくらいかけて修繕するのか、10~30年程度の将来について作成する書面です。修繕に係る主な工事として、鉄部等塗装工事、外壁塗装工事、屋上防水工事、給水管・排水管工事等が該当します。長期修繕計画を構成する要素は、修繕時期(修繕周期)、修繕部位(修繕項目)、修繕費用です。
適切な長期修繕計画を立案し、それを計画的に実施することにより、管理受託している賃貸住宅の経済価値を維持することが可能となります。賃貸不動産経営管理士は、長期修繕計画を作成し賃貸人に適時適切な修繕の実施を提案することにより賃貸不動産経営を支援する役割を担うことが期待されます。計画を提案する賃貸不動産経営管理士の役割は重要です。
なお、以上の文書の作成を賃貸不動産経営管理士が行った場合には、専門職業人としての責任の所在を明確にするためにも記名押印をすることが望ましいです。
加えて、当該文書の作成を担当した賃貸不動産経営管理士が自ら賃貸人に対して、誠実かつ明瞭に口頭で説明を行うことが望ましいです。