賃貸不動産の有効活用
不動産所有者にとっての不動産の有効活用とは、「①収益を生まない使用されていない不動産(遊休不動産という)を、収益を生む資産に替えていく」、「②遊休不動産の固定資産税等の保有コストの経費化」、「③相続対策」の3つがあります。
不動産賃貸収入で所得の増加と財産の増加をはかる
アパート、ビル、店舗等の賃料収入を得ることによる賃貸不動産経営者の所得増大により、財産の蓄積をはかることができます。また、蓄積した財産を新たな不動産投資に充てることで、さらに収益増をはかることができます。
不動産保有コストの軽減(固定資産税・都市計画税の軽減と必要経費)
不動産の所有者には、所有していることで固定資産税、都市計画税が毎年課税されます。有効活用していない土地すなわち更地に、賃貸用のアパート・マンション等を建てることで、固定資産税が6分の1または3分の1、都市計画税が3分の1または3分の2に減額させることができます。さらに固定資産税、都市計画税は、賃貸不動産経営にかかる賃料収入に対する必要経費とすることができ、この経費算入分が節税となります。
相続対策として不動産をどう使うか
相続対策とは「争いのない相続対策(争族対策)」「相続税対策」「相続税の納税対策」からなります。
- 争族対策
- 現在の民法では、相続人の相続分は法定相続分として定められています。相続人間の思惑により相続争いになると、事業や居住の継続が困難な事例も見受けられます。また、分割の不手際により過大な相続税を支払う事例も増加しています。相続後の相続人の生活を考慮し、不動産を賃貸不動産、居住用不動産等に区分し、分割のシミュレーションをする必要があります。分割での失敗を防ぐため、被相続人の意思は生前に、遺言等で明確化しておくことが望ましいです。
- 相続税対策
- 不動産等の財産を相続する場合、その財産の承継者(相続人)に相続税がかかります。相続税の最高税率は55%です。相続税の負担を軽減し、より多くの財産を相続人に残すためには相続税の節税対策が必要です。賃貸住宅は、相続税の評価上有利(評価減できる)となっており、更地に賃貸住宅を建てる、新たに賃貸不動産を購入することにより不動産評価額を減額することができます。
- 相続税の納税対策
- 相続税は相続税の申告期限までに現金で一括納付することが原則で、現金納付が困難な場合、最長20年の延納が認められています。賃貸不動産は収益を生む資産です。この賃貸不動産の収益で相続税の支払い負担を軽減することができます。
賃貸不動産経営における会計
賃貸不動産の土地・建物の取得価額となるもの
取得価額には、土地や建物の購入代金、建築代金のほか、下記があります。
- 購入手数料
- 設備費
- 改良費・リフォーム代
- 所有権などを確保するために要した訴訟費用(相続財産である土地を遺産分割するためにかかった訴訟費用等は含めない)
- 建物付の土地を購入後、1年以内に建物を取り壊すなど、当初から土地の利用が目的であったと認められる場合の建物の購入代金や取壞費用
- すでに締結されている土地などの購入契約を解除して、他の物件を取得することとした場合に支出する違約金
- 借主がいる土地や建物を購入するときに、借主を立ち退かせるために支払った立退料
- 土地の測量費
- 土地の埋立てや土盛り、地ならしをするために支払った造成費用
- 土地や建物を購入するための借入金の利子のうち、使用開始日までに対応する利子
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毎年の損益計算
損益計算とは、収益から費用を差し引くことをいいます。賃貸不動産経営では、収益から費用を差引き、黒字でなければ経営は成り立ちません。
- 収益
- 「収益」は、その獲得が確実になった時点で計上します。賃貸借契約でその月に収入とすべき金額として確定した収益の金額です。したがって、12月分の賃料が12月31日現在、未収でも収入金額としなければなりません。
- 費用
- 「費用」に関しては、その発生時に計上します。例えば、12月分の清掃代ならば12月末に計上し、実際の支払いがない場合にも費用を計上し未払いとして処理します。
- 減価償却費
- 減価償却費とは、時間の経過に伴う資産の価値の減少を、税法で定められた一定の年数で計算し、費用化することです。賃貸不動産経営においては、建物・建物附属設備・構築物・車両などが減価償却資産です。土地は時間の経過とともに価値が下がることはないため、減価償却資産ではありません。そして、減価償却費は「費用」の中にあります(費用に含まれます)。
毎年の収支計算(キャッシュフロー)
収支計算とは、実際の収入から実際の支出を差し引くことをいいます。賃貸不動産経営は、損益計算と収支計算(キャッシュフロー)の両方の検証が必要です。損益が黒字でも収支(キャッシュフロー)が赤字では経営の継続は困難です。
収入項目(収益と収支計算上の収入とのちがい)
上記で解説した「収益」は実現した時点で計上します。毎月、「その月分の賃料」を「その月の月末」もらう契約になっている場合、毎月末がその収益の計上時期です。
しかし、「収入」とは、実際の入金額をいいます。つまり、4月分の家賃でも5月に入金があった場合には、5月に「収入」を計上します。
支出項目(費用と支出のちがい)
「支出」も「費用」とは計上タイミングが異なります。「費用」は、その発生時に計上するが、「支出」は実際に現金の支出で認識します。例えば、4月分の清掃代を5月に支払った場合には、5月の支出と考えます。
減価償却費の考え方と計算の仕方
減価償却資産の支払いは一括で支出します。しかし、経費は期間の経過で費用化します。そのため、損益計算上は費用になるが、収支計算上は支出とはなりません。非現金支出費用といわれます。イメージとしては、5000万円木造アパートを、現金5000万円で新築した場合、この5000万円をその年に一括で経費として落とすことはできません。22年間(減価償却期間)に分かって費用(経費)として計上していきます。
不動産賃貸事業の開始(個人経営)
不動産賃貸事業を開始したときは、所有者は税務署に対して、以下の届出書を提出します。
個人事業の開業・廃業等届出書 | 不動産賃貸業という事業を開始し、収入と所得が生じる場合の届出書です。この届出書に基づき所轄の税務署は確定申告書等の書類を納税者宛に送付することとなります。事業開始から1か月以内に提出します。 |
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青色申告承認申請書 | 各種の税についての優遇を受けるため、青色申告制度利用の前に提出する申請書です。青色申告を選択したい場合に提出します。 |
減価償却資産の償却方法の届出書 | 原則、償却方法は選択できるが、建物・建物附属設備、構築物については定額法しか選択することができません。一方、工具器具備品などは定率法を選択することができます。定率法は早い段階で経費ができるため税務上有利といわれています。工具器具備品などについて償却方法を選択したい場合に提出します。 |
賃貸不動産経営における所得の計算
不動産所得は下記計算方法で算出します。
不動産所得の金額=不動産の収入金額-必要経費
収入金額
賃貸不動産における収入金額は、下記があります。そして、収入金額は、賃貸借の契約などでその年の1/1~12/31までの間に受領すべき金額として確定した金額となります。未収の場合にも収入金額に含めます。
- 賃料・地代・権利金・礼金・更新料
- 敷金・保証金などの名目で、退去時に返還しないもの
- 共益費などの名目で受け取る電気代、水道代、掃除代など
収入金額の計上時期
区分 | 収入計上時期 | |
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契約、慣習により支払日が定められているもの | 定められた支払日 | |
支払日が定められていないもの | 請求により支払うべきもの | 請求の日 |
その他のもの | 実際に支払いがあった日 | |
礼金・権利金更新料等 | 貸付物件の引き渡しを要するもの | 引渡しがあった日(契約の効力発生日も可) |
引渡しを要しないもの | 返還を要しないことが確定したとき(契約日) | |
返還を要しない敷金・保証金 | 契約の効力発生日 |
必要経費
不動産賃貸に伴う支出で「必要経費として収入金額から控除できるもの(必要経費として認められるもの)」と「できないもの(必要経費として認められないもの)」は下記の通りです。
必要経費として認められるもの
- 事業税
- 消費税
- 土地建物に係る固定資産税・都市計画税
- 収入印紙
- 損害保険料(掛け捨ての部分)
- 修繕費(資本的支出に該当するものを除く)
- 不動産会社への管理手数料
- 管理組合への管理費
- 入居者募集のための広告宣伝費
- 税理士報酬で賃貸経営にかかるもの
- 弁護士報酬で賃貸経営にかかわるもの
- 減価償却費
- 立退料
- 共用部分の水道光熱費
- 土地の購入・建物の建築の借入金の利息(事業供用後のもの)
- その他清掃料、消耗品費など
必要経費として認められないもの
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- 所得税
- 住民税
- 借入金の元本返済部分
- 家事費(事業に関連しない支出:自宅にかかわる経費など
購入時の取得価額と必要経費
物件の購入時のさまざまな支出は、「その年の必要経費とするもの」と、「不動産の取得価額」に含めるべきものとがあります。
取得価額に含めるべきもの
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- 土地の購入金額
- 上記土地上の古屋建物代金及び取り壊し費用
- 整地・埋め立て地盛り・下水道・よう壁工事費等
- 建物の建築費、購入代金(工事代金、設計料・工事確認申請料等)
- 設計変更費用
- 増改築リフォーム費用
- エアコン給湯設備等の建物附属設備
- 土地・建物の固定資産税・都市計画税の精算金
- 地鎮祭、上棟式の費用
- 購入のための媒介手数料
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必要経費とするもの
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- 土地・建物の不動産取得税
- 土地・建物の登録免許税
- 土地・建物の登記費用
- 収入印紙
- 建築完成披露(竣工式·落成式)の費用
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購入時の媒介手数料などの土地・建物双方にかかる支出は、土地と建物の購入金額の比率で按分計算します。「建物の取得価額」に含めた支出は、建物の減価償却費の計算を通して必要経費に算入されます。
減価償却費
減価償却費は、税法上定められた方法で金額を計算し、その耐用年数にわたってそれぞれの年の必要経費とします。ただし、個人所得税では取得価額が10万円未満の少額の減価償却資産については、全額をその業務の用に供した年分の必要経費とします(法人では任意)。
減価償却すべき資産
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- 建物
- 建物附属設備(例:給排水設備や空調設備)
- 構築物(例:門、塀、フェンス)
- 機械装置
- 車両
- 器具備品など
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減価償却の対象としない資産
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- 土地
- 左記資産のうち事業の用に供していない部分(例:自己居住、自己利用部分)
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減価償却の方法
不動産賃貸業では、減価償却の方法には主に定額法と定率法があります。
- 定額法
- 毎年の減価償却費が同額となるように計算する方法
- 定率法
- 初期に減価償却費を多くし、年が経つに従って減価償却費が一定の割合で逓減するように計算する方法
個人の場合には、原則、定額法により計算します。
また、「減価償却資産の償却方法の届出書」をその年の確定申告期限までに税務署に提出すれば定率法の採用も認められます。
現在、「1998(平成10)年4月1日以後に取得した建物」と「2016(平成28)年4月1日以後に取得した建物附属設備・構築物」については定額法で計算しなければならないと定められています。しかし、工具器具備品等については定率法の選択はできます。
減価償却の計算のしかた
- 定額法
- 取得価額×定額法の償却率
- 定率法
- 期首帳簿価額×定率法の償却率
中古資産を取得した場合の減価償却の取扱い
中古資産を取得した場合には、簡便法により計算した耐用年数を使用することができます。
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- 法定耐用年数を全部経過したもの・・・法定耐用年数×20/100
- 法定耐用年数の一部を経過したもの・・・(法定耐用年数-経過年数)+(経過年数)×20/100
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注意点
修繕費
事業用の資産に対して、通常の維持管理や原状回復のために支出するものは「修繕費」として必要経費となります。
ただし、修繕費という名目でも資産の使用可能期間を延長させる支出、資産の価額を増加させる支出などは、税法上、「資本的支出」となります。「資本的支出」は、資産の取得価額に含めて減価償却費として経費化します。修繕費と資本的支出の区別は、修繕や改良という名目ではなく、その実質的な内容で判断します。
ただし、その金額が20万円未満の場合には、支出の区別にかかわらず修繕費として認められます。
資本的支出の例
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- 建物の避難階段の取り付け等、物理的に付け加えた部分の金額
- 用途変更のための模様替え等、改造または改装に直接要した金額
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修繕費として認められるもの
なお、その修理等のための支出が修繕費か資本的支出か明らかでない場合は、次のいずれかに該当していれば、修繕費として認められます。
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- その金額が60万円に満たない場合(60万円未満)
- その金額が修理等をした資産の前年末取得価額のおおむね10%相当額以下の場合
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青色申告
不動産所得などが発生する人が、一定の要件を満たす帳簿書類を備え付け、税務署に青色申告承認申請をして承認された場合は、青色申告書による申告を行うことができます。この青色申告者については、税務上各種の特典が認められています。
青色申告の承認申請手続
新たに青色申告をしようとする場合、その年の3月15日までに「青色申告承認申請書」を所轄の税務署長に提出しなければなりません。なお、その年の1月16日以後に事業を開始した場合は、事業開始の日から2か月以内に申請すればよいです。
青色申告の主な特典
青色申告特別控除 |
青色申告をすると、不動産所得から10万円を控除することができます。さらに、以下の要件を満たしていれば10万円にかえて55万円(電子申告の場合は65万円)を控除することができます。
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青色事業専従者給与 | 青色申告者と生計を一にしている配偶者その他親族のうち、年齢が15歳以上で、その青色申告者の事業にもっぱら従事している人(青色事業専従者)に支払った給与は、事前に提出した「青色事業専従者給与に関する届出書」に記載された金額の範囲内で労務の対価として適正な金額であれば、必要経費として認められます。なお、青色事業専従者については、配偶者控除や扶養控除の対象にすることはできません。また、「事業的規模」で不動産貸付を行っている場合に限られます。 |
純損失の繰り越し | 不動産所得が赤字になり、純損失が生じたときには、その損失額を翌年以後3年間にわたって、各年分の所得から差し引くことができます。 |
その他 | 青色事業者の取得価額1個当たり30万円未満の少額備品等を購入時に全額損金算入できます。ただし、年間300万円が上限となります。 |
損益通算により税金を相殺
損益通算とは、所得税の計算上、不動産所得などについて生じた損失を、他の所得(給与所得など)と相殺することをいいます。つまり、他の所得(給与所得)との相殺で、給与所得で源泉徴収された税金は還付されます。ただし、不動産所得の損失額のうち土地等を取得するための借入金利息がある場合には、その金額は損益通算できない。
【具体例】 例えば、不動産所得で30万円の損失があり、給与所得が500万円であった場合、損益通算すると、所得は、500万円-30万円=470万円となります。
不動産所得の確定申告(所得税)
不動産を賃貸すると、不動産所得が発生します。所得税は、不動産所得と他の所得(給与所得等)を合算して確定申告により計算します。サラリーマン等給与所得者は、会社の年末調整により税額が確定するので、通常は確定申告をする必要はありませんが、不動産所得がある場合には、確定申告による計算・納付をしなければなりません。
確定申告の手続き
- 確定申告期間
- その年の翌年の2月16日~3月15日までの間
- 納税の期限
- 3月15日まで(振替納税の場合は、4月中旬)
- 確定申告書の提出先
- 住所地を管轄している税務署(不動産の所在地を管轄する税務署ではない)
住民税
住民税は所得税法上の所得をもとに計算されます。所得税の確定申告により、その情報が税務署から住所地の市区町村に伝達され、市区町村が税額を計算し通知します。住民税(道府県税・市町村税)は地方税であって、地方税を賦課徴収するのは地方公共団体です(地方自治法第223条)。地方税を賦課徴収する事務については、「普通地方公共団体の長」がこれを担任する(同法第149条第3号)。
住民税の納税方法は、「普通徴収(自ら納付書で納付する方法)」と「特別徴収(給料から天引きされる方法)」があります。普通徴収は、一括納付か、年4回(6月、8月、10月、翌年1月)の納税かを選択することができます。
住民税の税率は一律10%です。
不動産取引にかかわる消費税
不動産取引では、建物の購入代金や仲介手数料等の支払いについては消費税が課税されますが、土地の購入代金については、消費税はかかりません。税率は、10%(消費税7.8%、地方消費税2.2%)です。
課税されるもの
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- 事務所・店舗などの賃料、共益費
- 上記に対する保証金・敷金・一時等のうち返還されない部分
- 駐車場収入
- 建物の購入代金、建築請負代金
- 仲介手数料(売買・賃貸)
- ローンの事務手数料
- 水道光熱費、修繕費等の営業経費
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非課税のもの
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- 住宅の貸付けによる賃金料、共益費
- 上記に対する保証金・敷金・一時金等のうち返還されない部分
- 地代
- 土地等の譲渡収入
- 土地等の購入代金・更新料、名義書換料
- ローンの金利・保証料
- 火災保険料、生命保険料
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インボイス制度
適格請求書等保存方式
インボイス(Invoice)とは、商品やサービスの取引における支払いの手続きを行う際に使用される文書です。分かりやすく言えば、レシートや領収書です。ここには、支払った消費税額が書かれています。通常、不動産経営者が、清掃費用として、お客さんから消費税を5000円受領して、清掃業者などに消費税として3000円を支払った場合、消費税は手元に2000円残ります。この2000円を国に納めます。
そして、2023(令和5)年10月1日から、消費税の仕入税額控除の方式として適格請求書等保存方式(インボイス)制度が開始されました。仕入税額控除を適用するため(上記3000円を差し引くため)には、交付を受けたインボイスを保存する必要があります。インボイスを発行できるのは、課税事業者である「適格請求書発行事業者」に限られ、この「適格請求書発行事業者」になるためには、登録申請書を提出し、登録を受ける必要があります。つまり、上記事例で、清掃業者が「適格請求書発行事業者」であれば、領収書をもらって保存しておくことで3000円を仕入れのための消費税として差し引くことができるが、もし、「適格請求書発行事業者」でなければ、消費税を差し引くことができず、結果として、5000円の消費税を国に納めないといけなくなります。
一定期間の経過措置はあるものの、原則、免税事業者からの課税仕入れについては、仕入税額控除の適用を受けることができません。
不動産賃貸経営の法人化のメリット
個人所得を法人の所得とすることによる税率の軽減
不動産賃貸経営が個人事業の場合は、個人事業主の所得に対して所得税、住民税が課されます。他方、法人が行う場合には、法人税、法人住民税が課されます。このうち、個人の所得に対して課される所得税の税率と、法人に課される法人税の税率を比較すると、法人の国税・地方税合わせた実効税率は30%前後といわれているのに対し、個人の最高税率は55%(住民税を含み復興特別所得税および事業税を除く)です。そのため、法人にすることで、税率が低くなり、結果として税金が少なくなるので、節税が図れます。
個人法人所得分散による超過累進税率の緩和を図る
個人事業の場合には、不動産のオーナー1人だけの所得であり、超過累進税率の適用により、所得が増えれば増えるほど税率が上がるという構造となっています。そこで、資産管理会社を設立し、収入を会社に移転させることにより、「個人であるオーナー」と「資産管理会社」に所得を分散させ、超過累進税率(所得税の税率)の緩和を図るものです。さらに、オーナーの家族を会社の役員とすることで、家族にも給与を支払うことができ、所得が分散されます。家族の給与に分散した所得も、所得額が低くなるため累進課税が緩和されます。
給与所得控除の利用
会社の役員または従業員として給与を受け取る場合、給与所得の計算上給与所得控除を受けることができます。個人の不動産所得1,000万円を給与とすれば、給与所得控除額195万円を控除した給与所得は805万円となります。
家族を役員とすることで、各人の所得税の計算上給与所得控除ができるため、トータルの所得をさらに低くすることができます。
信用力が上がる
一般的に個人より法人の方が信用性が高いため、金融機関から融資を受けるなど資金調達がしやすくなります。個人では事業目的の融資は受けにくく、金融機関の審査も会社形態の方が通りやすいです。
また、法人化することで対外的な信頼性が増すため、取引先を確保しやすくなり、事業の拡大に貢献することもあります。事業を拡大する際の採用活動も、法人化した方が行いやすくなります。
不動産賃貸経営の法人化のデメリット
会社設立費用がかかる
司法書士・行政書士報酬を除く、会社設立費用は株式会社で25万円前後、合同会社で10万円前後かかります。
維持費用がかかる
会社形態では、個人の不動産所得よりも詳細な帳簿付けが要求されます。経理や税務について専門家である税理士等に依頼するため報酬費用が発生します。
赤字でも税金の負担がある
法人は所得がなくても「住民税均等割が最低7万円」かかります。
社会保険へ加入しなければならない
健康保険や厚生年金は法人化によって強制加入することになります。個人事業で従業員に給料を支払っている場合、常時雇用している職員数が5人未満であれば社会保険への加入は任意ですが、法人化した場合には、たとえ1人であっても役員報酬を支給する際には社会保険への加入が義務づけられています。
このように設立および維持費用がかかるため、メリットとデメリットを比較衡量し、法人化を検討します。上記費用を吸収できるほどの一定規模の賃料収入が必要です。
不動産賃貸経営の法人化で想定される4種類の会社形態
不動産賃貸経営を法人化する場合、「管理受託会社」「サブリース会社(一括転貸)」「建物所有会社」「土地建物所有会社」の4種類の中から選ぶ形になります。
管理受託会社
不動産管理会社は個人所有物件の管理を行い、不動産の所有者はあくまで個人オーナーという形態の会社です。不動産管理会社は、個人オーナーから管理料収入を得て、個人オーナーは管理料を必要経費とすることで所得の分散を図ります。
【メリット】
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- 不動産の売買費用がかからない
不動産の所有者は個人オーナーであるため、個人と会社の間で不動産の売買を行う必要がなく、讓渡所得や登記費用などの移転費用がかからず、手続きも簡易です。 - 管理業務がシンプル
管理料を徴収する方法による場合、オーナーと入居者が賃貸契約を結んでいるため、管理会社と入居者で改めて契約書を作成する必要がなく、すぐに導入できます。入居者からみても契約に変更がないため、負担が少ない。ただし、不動産管理会社で集金代行業務を請※う場合には、賃料の振込先口会社に変更する必要があり、若者に通知する必要があります。
- 不動産の売買費用がかからない
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【デメリット】
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- 管理業務の記録が必要
不動産管理会社としての実態が伴っている必要があります。物件等への定期的な見回り、清掃、入居者のクレーム対応、鍵交換などを実際に行っており、その記録をノートやデータに残す。水漏れ等が発生したときに、専門業者を手配するなど細かいサービスを提供する手間がかかります。 - 相続税対策や節税効果が低い
賃料収入そのものを不動産管理会社に移すわけではなく、管理業務のみを会社に請け負わせるため、個人で不動産業を営んでいた場合と比べて効果が限定的です。管理料は第三者との取引等をもとにして決定するため、異常に高い金額を設定することができず、所得分散効果が低くなってしまいます。管理受託会社が受け取る収入は、賃料収入の5~8%が目安となります。法人を維持するための事務作業などが発生し、個人で経営するよりもかえってコストがかかる場合があります。
- 管理業務の記録が必要
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サブリース会社(一括転貸)
個人オーナーが所有物件を不動産管理会社に一括で貸付け、定額の賃料を得るという形態です。不動産管理会社は、借り上げた物件について、入居者を探し、賃料収入を得ます。
【メリット】
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- 不動産の売買費用が掛からない
管理受託会社と同様に手続きがシンプルであり、対象不動産を個人と会社間で売却する必要がない。譲渡所得や登録免許税もかからず、コストを抑えることができます。 - オーナーの相続発生時に手間がかからない
被相続人であるオーナーが入居者と直接賃貸借契約を結んでいる場合には、相続発生時に賃貸人を変更する必要があります。他方、サブリース会社の場合には、入居者と転貸借契約を結んでいるのはあくまで「会社」であるため、オーナーが死亡したとしても契約を変更する手間がかかりません。賃料の振込口座を変更する必要がないため、賃貸不動産の相続をスムーズに進めることができます。なお、サブリース会社と相続人との間で新たに賃貸借契約を結び、一定の賃料の振込口座を相続人の口座に変更します。 - 賃貸割合は100%
空室がある場合でも、オーナーが所有物件を不動産管理会社に一括して貸し付けるため、賃貸割合は100%となります。不動産管理会社は入居者と契約するため、空室のリスクは会社が負うことになります。 - 所得分散効果
受託管理会社と比べ、サブリース会社が空室リスクを負うため、その分管理料を引き上げることができます。その結果、所得分散効果を高めることができます。なお、サプリース会社の収入は、賃料収入の10~15%が適当といわれており、著しく高い場合には、租税負担を不当に免れるための行為とみなされ課税当局から否認されることがあります。
- 不動産の売買費用が掛からない
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【デメリット】
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- サブリースへ変更時に入居者との契約変更手続きが必要
個人オーナー名義で入居者と賃貸借契約を結んでいる状況で、新たにサブリース会社と入居者との賃貸借契約を結ぶ必要があり、手間がかかります。入居者数が多い場合には、手間が増え、また賃料の振込口座を変更する旨も伝える必要があります。これを機に、入居者が転居してしまったり、賃料の減額請求を受けるリスクもあります。 - 実際の空室率が高いと赤字になる
サブリース会社は毎月一定額の地代賃料を個人オーナーに支払うが、入居者が減った場合には、賃料よりも保証賃料が上回る可能性があり赤字になるおそれがあります。
- サブリースへ変更時に入居者との契約変更手続きが必要
-
建物所有会社
個人オーナーが所有する土地に不動産管理会社が建物を所有し、維持管理を行う方法です。
【メリット】
所得分散効果
会社が建物自体を所有するため、賃料収入のすべてを計上することができます。個人の賃料収入がすべて建物所有会社へ移転するため、所得分散や相続税対策となります。個人オーナーは土地を会社に貸す形となり、地代収入のみを受け取ります。
【デメリット】
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- 不動産売買の手続きが発生する
個人オーナーから会社へ不動産の売買取引が発生するため、個人側で譲渡所得税がかかるおそれがあり、他方会社は不動産取得税や司法書士に支払う登記費用が必要となります。 - 入居者との契約変更手続
建物の所有者が個人オーナーから会社に代わるため、貸主がかわり、入居者との契約を変更する手続きが必要となります。また賃料の振込口座を変更する旨も伝える必要があり、戸数が多い場合には手間がかかります。
- 不動産売買の手続きが発生する
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認定課税のおそれがある
個人から会社に土地を貸す場合には、会社が地主である個人に対して権利金を支払わなかったり、相応の地代を支払わなかったりした場合、会社は個人から借地権の一部を贈与されたとみなされ、その分は法人税の課税対象となるリスクがあります。
●相当の地代・・・原則としてその土地の更地価額の6%程度
●通常の地代・・・一般的な借地人と土地所有者間の地代の相場目安で、固定資産税額の3倍程度ともいわれる。
土地建物所有会社
資産管理会社が建物に加え土地も所有する形態です。
【メリット】
個人オーナーに対して地代を払う必要もなく、建物所有会社と比べ、所得分散効果が大きく、節税効果があります。
【デメリット】
土地・建物を売買する手続きや入居者への通知等が必要であるという点に加え、土地の購入もあるため、多額の資金が必要となります。
なお、自己所有の土地・建物を会社に移転すると、その土地・建物の譲渡所得が生じることになり、譲渡所得税の負担があります。