ある管理会社が、入居者から集めた家賃を、自分の会社のお金と同じ口座に入れておき、毎月、1円も欠かさずにオーナーに送っています。オーナーに全額届いているなら、この管理会社には何も問題がないのでしょうか。賃貸不動産経営管理士の試験では、賃貸住宅管理業法が管理業者に課している義務のうち、管理業務の再委託の禁止、分別管理、従業者証明書の携帯、帳簿の備付け、標識の掲示が問われます。この記事では、動画「賃貸管理士 分野別 超入門」の第9回として、この5つの義務の中身と、ひっかけになりやすい所、違反したときの罰則までを、初めての方にも分かるように具体例で解説します。
この記事の結論
管理業者は、オーナーから任された管理業務の全部を、ほかの会社に再委託してはいけません。一部なら、契約で決めておけば任せられますが、細かく分けて全部を任せるのは禁止です。家賃や敷金などの預かったお金は、会社のお金の口座と分けた口座で管理し、どのオーナーのお金かは帳簿ですぐ分かるようにします(分別管理)。従業者には証明書を持たせ、求められたら見せます。帳簿と標識は営業所や事務所ごとに備え、帳簿は事業年度の末日に閉じてから5年間保存します。証明書・帳簿・標識の違反は30万円以下の罰金の対象で、会社も罰せられます。再委託の禁止と分別管理には罰金の決まりはありませんが、業務改善命令や業務停止、登録の取消しの対象になります。なので、最初の問題の答えは「全額送っていても、同じ口座に入れていること自体が分別管理の違反」です。
管理業者の義務は何のためにあるのか
たとえば、あなたがアパートのオーナーで、管理を管理会社に任せたとします。任せた仕事を知らない会社に丸投げされないか、預けた家賃を使い込まれないか、入居者の部屋に来た人が本当に管理会社の人なのか、といった心配が出てきますよね。
賃貸住宅管理業法は、こうした心配に応えるために、登録を受けた管理業者に、いくつもの義務を決めています。今回はその中から、次の5つを取り上げます。どれも、オーナーや入居者が安心して管理を任せられるようにするためのルールです。
| 義務 | 条文 | ひとことで言うと | 罰則 |
|---|---|---|---|
| 再委託の禁止 | 第15条 | 任された管理業務の全部を、ほかに任せてはいけない | なし(監督処分はある) |
| 分別管理 | 第16条 | 預かったお金を、会社のお金と分けて管理する | なし(監督処分はある) |
| 従業者証明書の携帯 | 第17条 | 証明書を持たせ、求められたら見せる | 30万円以下の罰金 |
| 帳簿の備付け | 第18条 | 営業所・事務所ごとに帳簿を備え、5年間保存する | 30万円以下の罰金 |
| 標識の掲示 | 第19条 | 営業所・事務所ごとに、見やすい場所に標識を掲げる | 30万円以下の罰金 |
① 管理業務の再委託の禁止
オーナーが、A社の担当者の対応がていねいなので、A社に管理を任せたとします。ところが、A社は任された仕事を全部B社に任せてしまい、自分では何もしていませんでした。オーナーからすれば、A社を信用して頼んだのに、話がちがいますよね。
そこで、賃貸住宅管理業法では、管理業者は、オーナーから委託を受けた管理業務の全部を、ほかの者に再委託してはならない、としています。任された仕事を、さらにほかの人に任せることを「再委託」と言い、このルールを「再委託の禁止」と言います。
一部なら任せられる・分けて全部はだめ
では、A社が、建物の清掃だけを清掃の専門の会社に任せるのはどうでしょうか。これは任せることができます。禁止されているのは全部を任せることで、一部を任せることは禁止されていません。ただし、一部を任せるときは、オーナーとの管理受託契約で、業務の一部を再委託することがあると決めておく必要があります。前回学んだ契約締結時書面にも、再委託の決まりがあるときは、その内容を書くことになっていましたね。
間違えやすいのが、清掃はC社、設備の点検はD社、家賃の集金はE社というように、仕事を細かく分けて全部をほかの会社に任せ、自分では何もしない場合です。1社に丸ごと任せていなくても、国土交通省の「解釈・運用の考え方」では、複数の者に分けて再委託して自ら管理業務を一切行わないことも、全部の再委託にあたるとしています。
| 場面 | 結論 |
|---|---|
| 清掃だけを専門の会社に任せる(契約に定めあり) | ○ 一部の再委託なので、できる |
| 全部を1社に任せる | ✕ 全部の再委託 |
| 清掃・点検・集金を別々の会社に分けて任せ、自分は何もしない | ✕ 分けても全部の再委託 |
| 一部を、管理業の登録をしていない会社に任せる | ○ 再委託先は登録業者でなくてよい |
また、再委託をしても、オーナーに対して責任を負うのは、もとの管理業者です。清掃の会社が共用部分の窓ガラスを割ってしまったら、オーナーに責任を負うのはA社です。だからこそ、再委託先は管理業の登録をしている会社でなくてもかまわず、もとの管理業者が自分で指導や監督をすることになります。
② 分別管理(預かったお金を分ける)
最初の問題を思い出してください。管理会社が、家賃を自分の会社のお金と同じ口座に入れていて、その会社が倒産してしまったら、どうなるでしょうか。口座の中で、オーナーの家賃と会社のお金が混ざっていると、どれがオーナーのお金なのか分からなくなり、オーナーの家賃が戻ってこないおそれがあります。
そこで、賃貸住宅管理業法では、管理業者は、管理業務で受け取った家賃、敷金、共益費などのお金を、自分の会社のお金(固有財産)と分けて管理しなければならない、としています。これを「分別管理」と言います。さらに、Xさんというオーナーのお金と、Yさんという別のオーナーのお金も、分けて管理しなければなりません。
なお、分別管理は、管理業者が家賃や敷金などのお金を受け取る仕事(金銭の管理)も任されているときの義務です。建物の点検や修理の手配だけを任されていて、お金に触れない管理業者には関係しません。
口座はオーナーごとに分けなくてよい
では、どのように分ければよいのでしょうか。施行規則では、まず、預かったお金を入れる口座と、会社のお金を入れる口座を、はっきり分けることとしています。会社の電気代の支払いや従業員の給料に使う口座に、オーナーの家賃を入れてはいけません。
一方で、オーナーごとに別々の口座を作る必要はありません。預かったお金を入れる口座が1つでも、帳簿などで、どのオーナー(どの管理受託契約)のお金なのかがすぐに分かるようにしておけばよいとされています。試験では「オーナーごとに口座を分けなければならない」という形で出されることがあるので、注意してください。
| 分ける相手 | 分け方 |
|---|---|
| 会社のお金(固有財産) | 口座をはっきり分ける |
| ほかのオーナーのお金 | 口座は1つでもよい。帳簿でどのオーナーのお金かすぐ分かるようにする |
③ 従業者証明書の携帯と提示
入居者のところに作業服を着た人が来て、「管理会社の者ですが、設備の点検に来ました」と言ったら、入居者は本当に管理会社の人なのか不安になりますよね。そこで、管理業者は、業務に従事する従業者に、国が決めた様式の証明書(従業者証明書)を持たせなければ、その人を業務に従事させてはならない、とされています。
従業者とは、その会社で管理の仕事をしている人のことです。正社員だけでなく、アルバイトやパートの人、一時的に業務を手伝う人も、管理の仕事をするなら証明書を持たせる必要があります。ただし、事務所の中で事務の仕事だけをしている人は、持たなくてもかまいません。
さらに、従業者は、オーナーや入居者などの関係者から請求されたときは、証明書を見せなければなりません。持たせる義務は管理業者に、見せる義務は従業者に、と分けて覚えると整理しやすくなります。
④ 帳簿の備付けと保存
100人のオーナーと契約している管理会社は、だれと、いつ、どんな契約をしたのかを、どうやって管理するのでしょうか。そのために作るのが帳簿です。帳簿とは、仕事の記録をまとめたノートのようなものです。管理業者は、営業所や事務所ごとに、業務に関する帳簿を備え付け、オーナーごとに、次の事柄を書かなければなりません。
| 番号 | 帳簿に書く事柄 |
|---|---|
| 1 | 契約を結んだオーナーの名前(商号・名称・氏名) |
| 2 | 契約を結んだ年月日 |
| 3 | 対象になる賃貸住宅 |
| 4 | 受託した管理業務の内容 |
| 5 | 報酬の額 |
| 6 | 特約その他参考になる事柄 |
帳簿は紙のノートでなくても、パソコンのデータで記録し、必要なときに営業所や事務所で紙に印刷できるようにしておけばかまいません。
保存の期間も大切です。帳簿は、各事業年度の末日に閉じて、閉じてから5年間保存しなければなりません。事業年度とは、会社の1年の区切りのことです。たとえば、3月31日で1年が終わる会社なら、3月31日に帳簿を閉じて、そこから5年間取っておくことになります。また、帳簿を本店にだけまとめて置いて、支店には置かない、というのは違反になります。
前回の契約締結時書面と、書く中身は似ていますが、書面はオーナーに渡すもので、帳簿は会社の手元に置いておくもの、というちがいがあります。
⑤ 標識の掲示
管理会社の事務所に入ったとき、その会社が国の登録を受けた管理業者かどうかは、どうやって分かるのでしょうか。その目印が標識です。管理業者は、営業所や事務所ごとに、公衆の見やすい場所に、国が決めた様式の標識を掲げなければなりません。標識には、登録番号、登録年月日、登録の有効期間、会社の名前、主たる営業所や事務所の所在地などが書かれています。
ここでも、営業所や事務所ごと、というのがポイントです。本店にだけ掲げて支店には掲げない、というのは違反になります。帳簿と標識は「営業所や事務所ごと」とセットで覚えておきましょう。
違反したときの罰則と監督処分
従業者証明書を持たせなかったときや見せなかったとき、帳簿を備え付けなかったとき・書かなかったとき・うその記載をしたとき・保存しなかったとき、標識を掲げなかったときは、30万円以下の罰金の対象になります。しかも、違反をした従業者だけでなく、その会社にも罰金が科されることがあります(両罰規定)。
一方で、再委託の禁止と分別管理には、違反しても罰金の決まりはありません。ただし、守らなくてよいわけではなく、国土交通大臣から業務改善命令を受けたり、1年以内の業務の停止や登録の取消しの処分を受けたりすることがあります。罰則があるかどうかと、監督処分があるかどうかは、分けて覚えておきましょう。
| 違反 | 罰則 | 監督処分 |
|---|---|---|
| 再委託の禁止・分別管理 | なし | 業務改善命令・業務停止・登録の取消しがありうる |
| 従業者証明書・帳簿・標識 | 30万円以下の罰金(会社も) | ありうる |
| 名義貸しの禁止(第5回) | 1年以下の拘禁刑か100万円以下の罰金(両方のことも) | ありうる |
最初の問題の答え
家賃を自分の会社のお金と同じ口座に入れて、毎月全額をオーナーに送っている管理会社は、問題があります。預かった家賃は、会社のお金を入れる口座とは分けた口座で管理しなければならないからです。毎月全額を送っていても、分別管理の義務に違反しています。
会社が倒産してから分けようとしても間に合いません。何も起きていないうちから分けておくことで、オーナーのお金を守る、というのが分別管理の考え方です。
まぎらわしい所の整理
5つの義務は、「だれの義務か」「どこごとか」「数字はいくつか」で問われることが多くなります。最後に、まぎらわしい所を表で整理しておきましょう。問題文を読むときは、主語が管理業者なのか従業者なのか、単位がオーナーごとなのか営業所ごとなのかに印をつけると、ひっかけに気づきやすくなります。
| まぎらわしい所 | 正しい覚え方 |
|---|---|
| 再委託 | 全部は禁止・一部は契約で定めればできる・分けて全部も禁止 |
| 分別管理の口座 | 会社のお金とは分ける・オーナーごとの口座はいらない(帳簿で判別) |
| 従業者証明書 | 持たせるのは管理業者・見せるのは従業者・事務だけの人は不要 |
| 帳簿 | 営業所・事務所ごと・オーナーごとに記載・閉じてから5年保存 |
| 標識 | 営業所・事務所ごと・公衆の見やすい場所 |
| 罰則 | 証明書・帳簿・標識は30万円以下の罰金・再委託と分別管理は罰金なし |
宅建業法とのくらべ
宅建を学んだ方は、宅建業法にも従業者証明書・帳簿・標識の決まりがあることを思い出すかもしれません。宅建業法の帳簿も、各事業年度の末日に閉じて5年間保存するのが原則ですが、宅建業者が自ら売主になる新築住宅の取引については10年間とされています。また、宅建業法には従業者名簿の決まりもあります。賃貸住宅管理業法では帳簿の保存は5年だけと覚え、問題文がどちらの法律の話なのかを、まず確かめるようにしましょう。
まとめ
管理業者は、任された管理業務の全部を再委託してはいけません。一部なら契約で決めておけば任せられますが、細かく分けて全部を任せるのは禁止です。責任を負うのはもとの管理業者で、再委託先は登録業者でなくてもかまいません。
預かった家賃などのお金は、会社のお金の口座と分けて管理し、どのオーナーのお金かは帳簿で分かるようにします。従業者には証明書を持たせ、求められたら見せます。帳簿と標識は営業所や事務所ごとで、帳簿は閉じてから5年間保存します。証明書・帳簿・標識の違反は30万円以下の罰金の対象で、再委託の禁止と分別管理は監督処分の対象です。
次回は、オーナーへの定期報告や秘密を守る義務、そして国からの監督処分と罰則について学びます。
この記事を書いた人
賃貸管理士塾の講師、小野一輝です。賃貸不動産経営管理士・宅建・行政書士の試験対策講師として、初めて法律を学ぶ方にも分かる解説を心がけています。この記事と動画は、令和9年4月1日に施行されている賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律と同法施行規則、国土交通省の「賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律の解釈・運用の考え方」、宅地建物取引業法に基づいて作成しています。動画で分かりづらかった部分は、個別指導でていねいに解説しています。
よくある質問
Q. 管理業者は、管理業務をほかの会社に再委託できますか?
A. 全部を再委託することはできませんが、一部なら、管理受託契約で再委託の定めをしておけば任せることができます。仕事を細かく分けて全部をほかの会社に任せ、自分では何もしない場合も、全部の再委託として禁止されます。
Q. 管理業務の一部を任せる相手は、登録を受けた管理業者でなければなりませんか?
A. いいえ。一部の再委託先は、管理業の登録を受けた会社でなくてもかまいません。再委託をしても、オーナーに対して責任を負うのは、もとの管理業者です。
Q. 分別管理とは何ですか?
A. 管理業者が受け取った家賃・敷金・共益費などのお金を、自分の会社のお金と分けて管理し、さらにオーナーごとのお金も分けて管理することを言います。家賃などのお金を受け取る仕事も任されているときの義務です。
Q. 分別管理のために、オーナーごとに別々の口座を作らなければなりませんか?
A. いいえ。預かったお金を入れる口座を会社の口座とはっきり分けていれば、口座は1つでもかまいません。そのかわり、帳簿などで、どのオーナーのお金なのかがすぐに分かるようにしておく必要があります。
Q. 従業者証明書は、アルバイトやパートにも持たせる必要がありますか?
A. はい。管理の仕事に従事するなら、雇用の形にかかわらず、一時的に手伝う人も含めて持たせる必要があります。事務所の中で事務の仕事だけをしている人は不要です。従業者は、関係者から請求されたら証明書を見せなければなりません。
Q. 帳簿は何年間保存しなければなりませんか?
A. 帳簿は営業所や事務所ごとに備え付け、各事業年度の末日に閉じて、閉じてから5年間保存しなければなりません。パソコンのデータで記録し、必要なときに紙に印刷できるようにしておくこともできます。
Q. 標識はどこに掲げればいいですか?
A. 営業所や事務所ごとに、公衆の見やすい場所に、国が決めた様式の標識を掲げます。本店にだけ掲げて支店に掲げないのは違反です。
Q. 再委託の禁止や分別管理に違反すると、罰金になりますか?
A. 再委託の禁止と分別管理の違反には罰金の決まりはありません。ただし、業務改善命令や、業務の停止、登録の取消しの処分の対象になります。従業者証明書・帳簿・標識の違反は、30万円以下の罰金の対象で、会社も罰せられます。



