管理会社から建物の清掃を任された会社の社員が、仕事の中で知ったオーナーの借金の話を、友だちに話してしまいました。この人は管理会社の社員ではないので、賃貸住宅管理業法の秘密を守る義務は関係ない、と言えるでしょうか。賃貸不動産経営管理士の試験では、管理業者の義務のうち、オーナーへの定期報告と秘密保持義務、そして義務を守らなかったときの監督処分と罰則が問われます。この記事では、動画「賃貸管理士 分野別 超入門」の第10回として、報告の時期と中身、秘密を守る人の範囲、国の処分と罰則の重さの順番までを、初めての方にも分かるように具体例で解説します。
この記事の結論
管理業者は、管理受託契約を結んだ日から1年を超えない期間ごとと、契約の期間が終わったあと遅滞なく、管理業務報告書を作ってオーナーに渡し、説明しなければなりません。報告書には、報告の対象期間、管理業務の実施状況、入居者からの苦情の発生と対応の状況を書きます。管理業者と従業者は、正当な理由なく仕事で知った秘密を漏らしてはならず、この義務は管理業をやめたあとも、会社を辞めたあとも続きます。従業者には、再委託先の清掃会社の人のように、直接の雇用関係がない人も含まれます。国は、業務改善命令、1年以内の業務の停止、登録の取消しの処分ができます。罰則は、無登録営業・不正登録・名義貸しがいちばん重く、次が業務停止命令の違反、秘密を漏らしたときは30万円以下の罰金です。なので、最初の問題の答えは「関係ある。清掃会社の社員も秘密を守る義務を負う」です。
オーナーが気にしていること
たとえば、あなたが東京に住んでいて、大阪にあるアパートの管理を管理会社に任せているとします。自分のアパートになかなか行けないオーナーは、家賃はきちんと集まっているのか、入居者から苦情は出ていないのか、自分の財産のことを勝手に人に話されていないか、といったことが気になりますよね。
賃貸住宅管理業法は、こうした心配に応えるために、管理業者に「オーナーへの定期報告」と「秘密を守る義務(秘密保持義務)」を課しています。前回の第9回で学んだ再委託の禁止・分別管理・従業者証明書・帳簿・標識とあわせて、管理業者の義務の全体を押さえておきましょう。
| 義務 | 条文 | ひとことで言うと | 罰則 |
|---|---|---|---|
| オーナーへの定期報告 | 第20条 | 管理業務報告書を渡して、実施状況を説明する | なし(監督処分はある) |
| 秘密保持義務(管理業者) | 第21条第1項 | 仕事で知った秘密を漏らさない。管理業をやめたあとも同じ | 30万円以下の罰金 |
| 秘密保持義務(従業者) | 第21条第2項 | 手伝う中で知った秘密を漏らさない。辞めたあとも同じ | 30万円以下の罰金 |
① オーナーへの定期報告とは
管理会社に任せたきり、何年も何の連絡もなかったら、オーナーはきっと不安になります。そこで、賃貸住宅管理業法では、管理業者は、管理業務の実施状況などを、定期的にオーナーに報告しなければならない、としています。これを「定期報告」と言います。
報告は、口で伝えるだけでは足りません。「管理業務報告書」という書類を作ってオーナーに渡し、その中身を説明しなければなりません。第7回で学んだ管理受託契約の重要事項説明でも、報告のしかたはオーナーに説明する事柄の1つでした。契約の前に報告のしかたを説明し、契約のあとに実際に報告をする、という流れで覚えておくと整理しやすくなります。
報告の時期は「契約を結んだ日から1年を超えない期間ごと」
では、定期的とは、どのくらいの間隔なのでしょうか。施行規則では、管理受託契約を結んだ日から1年を超えない期間ごとに報告すること、さらに、契約の期間が終わったあとにも遅滞なく報告することとしています。つまり、少なくとも1年に1回は報告が必要です。
たとえば、4月1日に期間2年の管理受託契約を結んだとします。この場合、1年がたつまでに1回目の報告をし、2年の期間が終わったあとにも、もう1回報告をすることになります。
| 時期 | 報告 |
|---|---|
| 4月1日(契約を結んだ日) | ここから数え始める |
| 1年を超えない間 | 1回目の報告 |
| 次の1年を超えない間 | (契約が続いていれば)次の報告 |
| 契約の期間が終わったあと | 遅滞なく報告 |
間違えやすいのは、数え始める日です。数え始めるのは、契約を結んだ日からです。会社の事業年度の区切りまで待って、契約から1年を過ぎてから報告する、というのは違反になります。前回の帳簿は「事業年度の末日に閉じて5年間保存」でしたが、定期報告は「契約を結んだ日から」です。区切りの基準がちがうので、セットで覚えておきましょう。
管理業務報告書に書く3つの事柄
管理業務報告書には、次の3つを書かなければなりません。
| 番号 | 書く事柄 | 具体例 |
|---|---|---|
| 1 | 報告の対象になる期間 | ○年4月1日から○年3月31日まで |
| 2 | 管理業務の実施状況 | 家賃の集まり具合、点検・清掃・修繕など維持保全の実施状況 |
| 3 | 入居者からの苦情の発生状況と対応状況 | いつ、どんな人から、どんな苦情があり、どう対応したか |
苦情については、国土交通省の「解釈・運用の考え方」で、苦情を伴う問い合わせについては、把握できる限り、発生日時・苦情を申し出た者の属性・苦情内容・対応状況などを記録して報告するものとされています。ただし、「ゴミの日を教えてほしい」というような、苦情を伴わない単純な問い合わせまで、記録して報告する義務はありません。一方で、「隣の部屋がうるさい」という苦情を伴う問い合わせなら、記録して、対応した状況も含めて報告する必要があります。試験では「入居者からの問い合わせは、すべて記録して報告しなければならない」という形で出されることがあるので、注意してください。
報告書の渡し方と説明のしかた
報告書は、必ず紙で渡さなければならないのでしょうか。答えは、オーナーの承諾があれば、メールなどの電磁的方法で送ることもできます。また、説明のしかたにも決まった形はなく、会って説明するだけでなく、電話やオンラインでもかまいません。
ただし、「解釈・運用の考え方」では、説明の方法についてオーナーと協議したうえで、双方向でやりとりができる環境を整え、オーナーが報告書の内容を理解したことを確認する必要があるとしています。報告書をメールで送りっぱなしにするのではなく、分かってもらうところまでが定期報告です。
② 秘密を守る義務(管理業者)
管理会社の人は、仕事の中で、入居者の勤め先や家族の人数、オーナーがいくら借金をしているのか、といったことを知ることがあります。こうした話が外に漏れてしまったら、入居者もオーナーも、安心して管理を任せられません。
そこで、賃貸住宅管理業法では、管理業者は、正当な理由がなければ、業務上取り扱ったことについて知り得た秘密を、ほかに漏らしてはならない、としています。正当な理由とは、たとえば、本人が話してもいいと承諾している場合や、法令に基づいて求められた場合などです。
そして大事なのが、この義務は、管理業者が賃貸住宅管理業を営まなくなったあとも続く、ということです。会社が管理の仕事をやめたからといって、昔のお客さんの秘密を話してよいことにはなりません。
③ 秘密を守る義務(従業者)と、その範囲
会社だけでなく、そこで働く人も同じです。管理業者の代理人や使用人その他の従業者も、正当な理由がなければ、管理業務を補助したことについて知り得た秘密を漏らしてはなりません。こちらも、従業者でなくなったあと、つまり会社を辞めたあとも同じです。第3回で学んだ賃貸不動産経営管理士の倫理でも、辞めたあとも秘密を守ることを確認しました。
試験で間違えやすいのが、「従業者」の範囲です。「解釈・運用の考え方」では、ここでいう従業者には、管理業者の指揮命令に従って管理業務に携わる人が広く含まれ、管理業者と直接の雇用関係がない人も含まれるとしています。前回学んだ、管理業務の一部の再委託を受けた清掃会社の社員なども、これにあたります。
| 場面 | 秘密を守る義務 |
|---|---|
| 管理業者が、管理業をやめたあとに昔のお客さんの秘密を話す | ✕ やめたあとも義務は続く |
| 社員が、会社を辞めたあとに仕事で知った秘密を話す | ✕ 辞めたあとも義務は続く |
| 再委託先の清掃会社の社員が、仕事で知った秘密を話す | ✕ 直接の雇用関係がなくても従業者に入る |
| 本人の承諾を得て、その情報を伝える | ○ 正当な理由がある |
④ 国の監督処分(業務改善命令・業務停止・登録の取消し)
では、ここまでの義務を守らない管理業者がいたら、国は何ができるのでしょうか。国土交通大臣は、業務の適正な運営を確保するため必要があるときは、管理業者に、業務の運営の改善に必要な措置をとるよう命令することができます。これを「業務改善命令」と言います。
法令に違反したときなどは、もっと重い処分もあります。登録の取消しと、1年以内の期間を決めて業務の全部か一部の停止を命じる処分です。また、登録を受けてから1年以内に業務を始めないときや、引き続き1年以上業務を行っていないときも、国は登録を取り消すことができます。
| 処分 | 中身 | 官報で公告 |
|---|---|---|
| 業務改善命令(第22条) | 業務のやり方を改めるよう命じる | されない |
| 業務の停止(第23条) | 1年以内の期間、業務の全部か一部を止める | される |
| 登録の取消し(第23条) | 登録を取り消す(業務を始めない・休んでいるときも) | される |
業務の停止や登録の取消しの処分をしたときは、国は、官報という国の新聞のようなもので、その事実を公告します。業務改善命令は、公告の対象には入っていません。
登録を取り消されたあとの契約はどうなる
登録が取り消されたら、その会社が管理していたアパートのオーナーは困ってしまうのでしょうか。賃貸住宅管理業法では、登録が取り消されても、すでに結んでいた管理受託契約に基づく業務を結了する目的の範囲内では、その会社はなお管理業者とみなされます。いきなり仕事が止まって、オーナーや入居者が困らないようにするためです。
ただし、登録を取り消された会社は、取り消された日から5年がたつまでは、もう一度登録を受けることができません。第5回で学んだ、登録を受けられない事由(欠格事由)の1つです。
⑤ 罰則の重さの順番
罰則は、重い順に3つの段階で整理すると覚えやすくなります。
| 重さ | 違反 | 罰則 |
|---|---|---|
| いちばん重い | 無登録営業・不正な手段での登録・名義貸し | 1年以下の拘禁刑か100万円以下の罰金(両方のことも) |
| 次に重い | 業務停止命令に違反して業務を続けた | 6か月以下の拘禁刑か50万円以下の罰金(両方のことも) |
| 30万円以下の罰金 | 秘密を漏らした・業務改善命令の違反・業務管理者を置かない・契約締結時書面を渡さない・従業者証明書・帳簿・標識の違反・国への報告や検査の拒否など | 30万円以下の罰金 |
| 罰金の決まりなし | 定期報告・再委託の禁止・分別管理 | なし(監督処分の対象) |
業務停止命令を無視するのは、国の処分そのものを無視することなので、業務改善命令の違反より重く罰せられます。また、定期報告には罰金の決まりはありませんが、守らなくてよいわけではなく、業務改善命令や業務の停止などの処分を受けることがあります。
秘密を漏らしたときは会社に罰金がない
もう1つ、ひっかけになりやすい所があります。社員などの従業者が会社の業務について違反をしたとき、多くの違反では、違反をした本人だけでなく、会社にも罰金が科されることがあります(両罰規定)。ところが、秘密を漏らしたときだけは、この両罰規定から外されていて、罰金の対象は漏らした本人です。秘密を漏らすのは、会社の業務としてではなく本人の行いとしてされるもの、と考えると覚えやすくなります。
最初の問題の答え
清掃を任された会社の社員が、仕事の中で知ったオーナーの借金の話を友だちに話した場合、賃貸住宅管理業法の秘密を守る義務は関係あります。従業者には、管理業者と直接の雇用関係がない再委託先の清掃会社の人も含まれるからです。友だちに話すことは、正当な理由にはあたりません。なので、この社員には30万円以下の罰金が科されることがあります。会社の外の人でも、会社を辞めたあとでも続く、というのが秘密保持義務の大事なポイントです。
宅建業法とのくらべ
宅建を学んだ方は、宅建業法にも、宅建業者と従業者の秘密を守る義務があり、業をやめたあとや従業者でなくなったあとも続くことを思い出すかもしれません。考え方は同じですが、罰金の額がちがいます。宅建業法では50万円以下の罰金、賃貸住宅管理業法では30万円以下の罰金です。また、宅建業法にはオーナーへの定期報告のような決まりはなく、賃貸住宅管理業法ならではの義務です。問題文がどちらの法律の話なのかを、まず確かめるようにしましょう。
まとめ
管理業者は、管理受託契約を結んだ日から1年を超えない期間ごとと、契約の期間が終わったあと遅滞なく、管理業務報告書を渡してオーナーに説明します。報告書には、対象期間、管理業務の実施状況、入居者からの苦情の発生と対応の状況を書き、オーナーの承諾があれば電磁的方法で送ることもできます。
管理業者も従業者も、正当な理由なく秘密を漏らしてはならず、管理業をやめたあとも、会社を辞めたあとも同じです。従業者には直接の雇用関係がない人も含まれます。国は、業務改善命令、1年以内の業務の停止、登録の取消しの処分ができ、停止と取消しは官報で公告されます。罰則は、無登録営業や名義貸しがいちばん重く、次が業務停止命令の違反で、秘密を漏らしたときは30万円以下の罰金です。
次回は、国が作った契約書のひな形、賃貸住宅標準管理受託契約書について学びます。
この記事を書いた人
賃貸管理士塾の講師、小野一輝です。賃貸不動産経営管理士・宅建・行政書士の試験対策講師として、初めて法律を学ぶ方にも分かる解説を心がけています。この記事と動画は、令和9年4月1日に施行されている賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律と同法施行規則、国土交通省の「賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律の解釈・運用の考え方」と「FAQ集」、宅地建物取引業法に基づいて作成しています。動画で分かりづらかった部分は、個別指導でていねいに解説しています。
よくある質問
Q. オーナーへの定期報告は、どのくらいの間隔で必要ですか?
A. 管理受託契約を結んだ日から1年を超えない期間ごとに報告が必要です。さらに、契約の期間が終わったあとにも遅滞なく報告しなければなりません。会社の事業年度の区切りを待って、契約から1年を過ぎてから報告するのは違反です。
Q. 管理業務報告書には何を書きますか?
A. 報告の対象になる期間、管理業務の実施状況(家賃の集まり具合や維持保全の実施状況など)、入居者からの苦情の発生状況と対応状況の3つです。
Q. 入居者からの問い合わせは、すべて報告書に書かなければなりませんか?
A. いいえ。ゴミの日を聞くような苦情を伴わない単純な問い合わせまで記録して報告する義務はありません。騒音の苦情のように苦情を伴う問い合わせは、把握できる限り記録して、対応状況も含めて報告します。
Q. 管理業務報告書はメールで送ってもいいですか?
A. オーナーの承諾があれば、メールなどの電磁的方法で送ることができます。説明は電話やオンラインでもかまいませんが、双方向でやりとりができる環境を整え、オーナーが内容を理解したことを確認する必要があります。
Q. 管理会社を辞めたあとも、仕事で知った秘密を守らなければなりませんか?
A. はい。従業者は、従業者でなくなったあとも、正当な理由なく秘密を漏らしてはなりません。管理業者自身も、管理業を営まなくなったあとまで秘密を守る義務が続きます。
Q. 再委託先の清掃会社の社員も、秘密を守る義務を負いますか?
A. はい。秘密を守る義務を負う従業者には、管理業者の指揮命令に従って管理業務に携わる人が広く含まれ、管理業者と直接の雇用関係がない再委託先の社員なども含まれます。
Q. 管理業者に対する監督処分には、どんなものがありますか?
A. 業務改善命令、1年以内の期間を定めた業務の全部か一部の停止、登録の取消しがあります。業務の停止と登録の取消しは官報で公告されますが、業務改善命令は公告の対象ではありません。
Q. 秘密を漏らしたときの罰則は、会社にも科されますか?
A. 秘密を漏らしたときは30万円以下の罰金ですが、会社にも罰金を科す両罰規定の対象からは外されていて、罰金の対象は漏らした本人です。業務改善命令の違反や帳簿・標識の違反などは、会社にも罰金が科されることがあります。



